「この国はもうオシマイ」北朝鮮を脱出した女性が見たモラル崩壊の極致
北朝鮮では7月、日本の国会にあたる最高人民会議第14期第15回全員会議で、新たに麻薬犯罪防止法が制定された。これを受け、全国の安全部(警察)が主管し、違法薬物の乱用に警告を与えるための住民講演会が開かれていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えている。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋がRFAに伝えたところでは、講演会を通じて当局は「薬物の乱用は国家・社会制度の安定と人民の生命と健康を害する危険な行為」であると強調。さらに、薬物の乱用に伴う処罰の強度を明らかにすることで、薬物犯罪の発生を抑止しようとしているという。
情報筋によると、これまでは大量の薬物の所持に対してのみ終身刑や死刑などの極刑が下されてきたが、今後は少量の所持に対しても終身刑が適用されることになったとのことだ。
また、咸鏡南道(ハムギョンナムド)の情報筋はRFAに対し「住民講演会には、地域の各職場や人民班(町内会)、大学はもちろん、高校生や中学生までもが参加が義務付けられている。これは、若い世代の薬物乱用が急増しているためだ」と語っている。
北朝鮮では以前から、薬物乱用の低年齢化が問題視されてきたが、当局がこうした講演会に中学生を参加させるのは初めてと見られる。
特に金正恩政権になって以降、北朝鮮当局は覚せい剤など違法薬物の根絶に向け、様々な手を打ってきた。それでも、乱用が下火になる兆しは一向に見られない。
日本に在住する脱北者のAさん(40代の女性)は、薬物の蔓延が北朝鮮を離れる決定的なきっかけだったという。
「隣家の10代の学生が覚せい剤中毒になって大変な騒ぎとなった。それをきっかけに薬物について独自で調べたところ、あまりにも薬物が蔓延する実情を見て、この国(北朝鮮)はもうオシマイだと思い、脱北を決意した」(Aさん)
一方、前出の咸鏡南道の情報筋によれば、「最近の薬物犯罪の多くは、経済難が影響している。食い詰めた人々が、薬物の密造・密売で手早く大金を稼げることを知り、厳罰のリスクを承知で手を出している」のだという。
経済制裁・新型コロナ禍・自然災害の三重苦で経済難が深刻化している今、北朝鮮の薬物汚染はいっそう手の付けられない水準になっていくかもしれない。
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