雨の予選で勝利パターンを自ら引き寄せたハミルトン【今宮純のF1ハンガリーGP決勝分析】
2018年F1第12戦ハンガリーGP決勝は、メルセデスのルイス・ハミルトンがポールポジションから見事優勝を飾った。選手権を争うフェラーリのセバスチャン・ベッテルは2位となり再びポイント差が広がることに。F1ジャーナリストの今宮純氏がハンガリーGPを振り返り、その深層に迫る──。
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史上初めての過密な“3+2連戦”に3勝ハミルトン。2位ベッテルに24点差、今季最も大きなリードを獲得しサマーブレイク前の『中締め』となった。雨がらみ予選でポールポジションを決め、翌日決勝のスタートも決め、ハンガリーGP最多6勝を決めた。この7月に武運を引き寄せたハミルトンである。
終わりよければすべてよし、なのだが初日時点でこの勝ちパターンを本人も予想していなかった。
「予選はなんとか2列目、ひょっとすると3列目かも……」と弱気に。
初日のフリー走行1回目、2回目とも5番手、得意なハンガロリンクできりきり舞い、シケインでスピン、あちこちでオーバーラン。それはバルテリ・ボッタスも同じで今年最悪の不安定挙動におちいったメルセデス。
強いオーバーステアがコーナー入口で露わとなり、出口で加速するとアンダーステアに変わりコースを外れた。リヤタイヤがオーバーヒート傾向で(10度以上)、フロントタイヤとの“温度アンバランス”がそうさせた。
FP1はレッドブルのダニエル・リカルド、FP2とFP3はベッテルがトップ、どのセクターでも彼らから0.2〜0.4秒の遅れを喫していた。この状況は最悪だ……。
ブダペスト郊外に広がる大草原地帯にこのサーキットは位置している。スパ・フランコルシャンの山岳気候と違うが晴天で高温が続くと、午後から雷雨(シャワー)になることが多い。ハンガリーGPの土曜は週末三日間でその予報確率が最も高かった。
今年からヨーロッパ戦タイムスケジュールは従来よりも1時間後ろ倒しされ、午後3時からQ1開始だ。その前に一雨きてコースを濡らした。さらにこの後も断続的に雨雲が流れ込むと、レイン・リスクは80%まで上昇。つまりほぼ確実にウエットになる。
前戦ドイツGP決勝のことを個人的に思い出した。ウエットないしハーフウエットで、メルセデス勢のパフォーマンスはライバルより相対的に上がって見えた(2018年5月末に彼らだけはポール・リカールで人工降雨下のピレリ・ウエットタイヤ・テストを実施)。
■フェラーリ、レッドブルが雨の予選で失速した原因を考察
Q1早々から16台がコースイン、インターミディエイトタイヤ(雨用と晴れ用の中間)を装着。フェラーリ勢が1分25秒台後半、ハミルトンも僅差の1分26秒台前半で続く。8分経過するころからウルトラソフトタイヤにスイッチするチームが増え、タイムレベルが上がった。ハミルトン1分17秒419、その後は乾いていく路面でベッテルが1位1分16秒666、ひとまず4番手。
Q2は気温23度/路面温31度にクールダウン、雲に覆われあたりは暗く、また雨が……。インターをサキヨミしたベッテルは的中、すぐに雨脚が強まりベッテルの1分28秒636を超える者はいなかった。ハミルトンは4番手をキープ。
Q3はフルウエットコンディションに一変、ハミルトンがリードしていく。チームの指示もあり、前がクリアで視界もよい絶好のタイミングに1分35秒658。(ちなみに2年前の雨の予選Q1ベストは1分33秒302、あれより激しい雨だった)。
水を得た魚のように泳いだ(いや攻めた)ハミルトン。セクター1=最速32秒561、セクター2=2位35秒541、セクター3=最速27秒456。2番手もボッタス、セクター2=最速35秒424で“雨の豪速メルセデス”がフロントロー占領で証明された。フェラーリを0.5秒以上、レッドブルを2.3秒も突き放したのだ。
興味深いのはレッドブルのマックス・フェルスタッペンが「ウエットで全くグリップ感が無かった」と語ったこと。
印象としてレッドブルこそ雨に強いと思えたがトロロッソ・ホンダのピエール・ガスリーにも及ばなかった。私見ではあるがあの前傾姿勢(レーキ角)では、フロント車高が低く、路面上にある水膜によってフロア気流が“ストール”してしまうのではないか。ドライ路面だと強大なダイナミック・ダウンフォースを発生しても、ウエットでの「グリップ無し」発言は興味深い……。
レッドブルほどではなくても“レーキ角”姿勢のフェラーリは、コーナリングが連続するセクター2で0.2秒以上劣り2列目後退。あとはスタートだけだ。
ハミルトンはウルトラソフトでルコネサンス・ラップ中に何度もスタート練習。ピット側スタッフもその設定に神経を集中し、彼らは久々にダッシュ成功。
スリップストリームで追いすがるフェラーリ勢をボッタスが防ぐと、それからはハミルトンが主導権を握りタイヤコントロールに努めた。暑い日曜(気温33度/路面温57度)になってもゆとりあるペースでリヤタイヤ温度を管理、オーバー/アンダーな不安定挙動など一度も無かった。最前列勝利=63%、そのハンガリーGP“黄金比率”をハミルトンはまたさらに高めたーー。
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