女性の集客数は世界最高レベル。Jクラブが仕掛ける“ファンづくり”の実態
サッカーキング2017年9月12日(火)12時0分
Jリーグにおけるスタジアム入場者数の約40%は女性
サッカークラブはどのようにして経営を成り立たせているのだろう――。ピッチ外での取り組みにも興味がある方々に有益な連載が、この『あなたのJリーグライフがもっと充実! 5分でわかるサッカービジネス講座』です。クラブの経営の重要ポイントについて知識を得られる企画で、きっと今まで以上にサッカーを深く理解できていくはずです。
今回、講師を務めるのは株式会社Jリーグマーケティング専務執行役員の山下修作(やました・しゅうさく)さん。山下さんはJリーグアジア戦略室室長や国際部部長として活躍した経験を持ち、サッカービジネスに関して幅広い知見を持っています。今回は、Jクラブの収益増に関する働きかけについて教えてくれました。
構成=菅野浩二
協力=一般財団法人スポーツヒューマンキャピタル
Q. Jクラブはビジネス面でどのような努力をしていますか?
A. 子ども世代に働きかけたり、アジアに目を向けたりもしています。
◆女性の来場者の割合は、実は世界最高レベル
クラブの営業収益における「入場料収入」を増収させる施策の一つが、子どもたちにファンになってもらうことです。
小さいお子さんを連れて家族単位でチケットをご購入いただけることにつながり、さらに、小さな頃からスタジアムで地元のクラブを応援する習慣が身につくと、大人になってもファンで居続けてくださる可能性が高まり、将来的な入場料収入もある程度見込めるようになります。
率直に言って、Jクラブ以上に子ども世代に向けた働きかけをしているリーグはほとんどないのではないでしょうか。ヨーロッパや南米の場合、生まれた場所や家族の影響で、クラブ側が特に働きかけを行わずとも小さなうちからファンになる土壌があります。サッカー文化が深く根づいているためです。日本はプロリーグが発足してまだ25年あまりですから、クラブ側が積極的にファンづくりに力を注ぐ必要があります。
選手たちがホームタウンや周辺の小学校を訪問する。地元の小学生やスクール生を無料でホームゲームに招待する。選手やマスコットなどがお祭りなど子どもたちの多い地域のイベントに参加する。スクールを運営し子どもたちが小さなうちからクラブ愛を育む。各クラブとも、子どもたちも重要なターゲットと捉え、長期間にわたってクラブを応援してくれるファン・サポーターを増やす努力をしており、こうした活動はやがてしっかりと実を結んでいくはずです。
女性をターゲットとしたマーケティングはどのクラブも一定の成果を上げています。Jリーグにおけるスタジアム入場者数の約40%は女性であり、この割合は実は世界最高レベルの数値です。女性を対象としたサッカービジネスの面で言うと、Jクラブは世界の一歩先を行っていると言ってもいいかもしれません。
◆アジアの選手の獲得は収益増につながる
地域との密接な関係を重視しながら、さらに海の向こうのアジアに目を向けているクラブもあります。ベトナムの英雄的ストライカー、レ・コン・ビンや、“タイのメッシ”の愛称を持つチャナティップを獲得した北海道コンサドーレ札幌、あるいは“ベトナムのメッシ”ことグエン・コン・フオンを補強した水戸ホーリーホックなどが好例です。
札幌がレ・コン・ビンを獲得したのとほぼ同じタイミングで、クラブのスポンサーであるサッポロビール株式会社がベトナム進出を果たしました。ベトナムのファンたちは母国の英雄が所属するクラブ、札幌のユニフォームに掲出されているサッポロビールの存在を知り、ベトナムにおけるサッポロビールの売上は一気に伸びたそうです。
サッポロビールが北海道コンサドーレ札幌のスポンサーを務めるメリットを大いに感じたのは間違いなく、その手応えは以降の両者の関係性にも良い影響を与えたはずです。グエン・コン・フオンを水戸が獲得した際にも、クラブは国営ベトナム航空とスポンサー契約を結ぶことができました。
もちろんアジアの選手の獲得は戦力補強の目的が一番大きいですが、広告料収入の増加といった副次的な効果も期待できます。ベトナムやタイからファンがスタジアムを訪れてくれることで入場料収入増にもつながります。
アジアの選手と契約することは地域の観光産業や行政の活動にもプラスの効果があり、実際、水戸がグエン・コン・フオンと契約を交わした際には、ベトナム航空がハノイと茨城空港を結ぶチャーター機を初めて運航しました。茨城県や水戸市がクラブから受けた恩恵は決して小さくなく、行政と良好な関係を築くことはクラブビジネスメリットにもつながっていきます。
このように、各クラブとも増益増収をめざし様々な施策を講じています。今年の例で言うと、5月にサガン鳥栖が、観客が自由に金額を決められる「第1弾 一夜限りの『値段のないスタジアム』チケット販売」というアイデアを実施しました。ファンづくりの第一歩としては様々な方にスタジアムに足を運んでもらうのが定石ですので、鳥栖の挑戦は一定の評価が与えられるべきでしょう。クラブの野心的な取り組みが広く知れ渡ったことで、広告宣伝効果は十分なものになったはずです。
\教えてくれた人/
山下修作(やました・しゅうさく)さん
株式会社Jリーグマーケティング専務執行役員。北海道大学大学院修了後、株式会社リクルートで営業、編集、企画、WEBメディアのリニューアル、プロモーション、マーケティングなどに携わる。2005年からJリーグ公認サイト『J’s GOAL』の運営やJリーグのWebプロモーション事業などにかかわった。Jリーグアジア戦略室室長や国際部部長を経て、2017年4月より現職。
今回、講師を務めるのは株式会社Jリーグマーケティング専務執行役員の山下修作(やました・しゅうさく)さん。山下さんはJリーグアジア戦略室室長や国際部部長として活躍した経験を持ち、サッカービジネスに関して幅広い知見を持っています。今回は、Jクラブの収益増に関する働きかけについて教えてくれました。
構成=菅野浩二
協力=一般財団法人スポーツヒューマンキャピタル
Q. Jクラブはビジネス面でどのような努力をしていますか?
A. 子ども世代に働きかけたり、アジアに目を向けたりもしています。
◆女性の来場者の割合は、実は世界最高レベル
クラブの営業収益における「入場料収入」を増収させる施策の一つが、子どもたちにファンになってもらうことです。
小さいお子さんを連れて家族単位でチケットをご購入いただけることにつながり、さらに、小さな頃からスタジアムで地元のクラブを応援する習慣が身につくと、大人になってもファンで居続けてくださる可能性が高まり、将来的な入場料収入もある程度見込めるようになります。
率直に言って、Jクラブ以上に子ども世代に向けた働きかけをしているリーグはほとんどないのではないでしょうか。ヨーロッパや南米の場合、生まれた場所や家族の影響で、クラブ側が特に働きかけを行わずとも小さなうちからファンになる土壌があります。サッカー文化が深く根づいているためです。日本はプロリーグが発足してまだ25年あまりですから、クラブ側が積極的にファンづくりに力を注ぐ必要があります。
選手たちがホームタウンや周辺の小学校を訪問する。地元の小学生やスクール生を無料でホームゲームに招待する。選手やマスコットなどがお祭りなど子どもたちの多い地域のイベントに参加する。スクールを運営し子どもたちが小さなうちからクラブ愛を育む。各クラブとも、子どもたちも重要なターゲットと捉え、長期間にわたってクラブを応援してくれるファン・サポーターを増やす努力をしており、こうした活動はやがてしっかりと実を結んでいくはずです。
女性をターゲットとしたマーケティングはどのクラブも一定の成果を上げています。Jリーグにおけるスタジアム入場者数の約40%は女性であり、この割合は実は世界最高レベルの数値です。女性を対象としたサッカービジネスの面で言うと、Jクラブは世界の一歩先を行っていると言ってもいいかもしれません。
◆アジアの選手の獲得は収益増につながる
地域との密接な関係を重視しながら、さらに海の向こうのアジアに目を向けているクラブもあります。ベトナムの英雄的ストライカー、レ・コン・ビンや、“タイのメッシ”の愛称を持つチャナティップを獲得した北海道コンサドーレ札幌、あるいは“ベトナムのメッシ”ことグエン・コン・フオンを補強した水戸ホーリーホックなどが好例です。
札幌がレ・コン・ビンを獲得したのとほぼ同じタイミングで、クラブのスポンサーであるサッポロビール株式会社がベトナム進出を果たしました。ベトナムのファンたちは母国の英雄が所属するクラブ、札幌のユニフォームに掲出されているサッポロビールの存在を知り、ベトナムにおけるサッポロビールの売上は一気に伸びたそうです。
サッポロビールが北海道コンサドーレ札幌のスポンサーを務めるメリットを大いに感じたのは間違いなく、その手応えは以降の両者の関係性にも良い影響を与えたはずです。グエン・コン・フオンを水戸が獲得した際にも、クラブは国営ベトナム航空とスポンサー契約を結ぶことができました。
もちろんアジアの選手の獲得は戦力補強の目的が一番大きいですが、広告料収入の増加といった副次的な効果も期待できます。ベトナムやタイからファンがスタジアムを訪れてくれることで入場料収入増にもつながります。
アジアの選手と契約することは地域の観光産業や行政の活動にもプラスの効果があり、実際、水戸がグエン・コン・フオンと契約を交わした際には、ベトナム航空がハノイと茨城空港を結ぶチャーター機を初めて運航しました。茨城県や水戸市がクラブから受けた恩恵は決して小さくなく、行政と良好な関係を築くことはクラブビジネスメリットにもつながっていきます。
このように、各クラブとも増益増収をめざし様々な施策を講じています。今年の例で言うと、5月にサガン鳥栖が、観客が自由に金額を決められる「第1弾 一夜限りの『値段のないスタジアム』チケット販売」というアイデアを実施しました。ファンづくりの第一歩としては様々な方にスタジアムに足を運んでもらうのが定石ですので、鳥栖の挑戦は一定の評価が与えられるべきでしょう。クラブの野心的な取り組みが広く知れ渡ったことで、広告宣伝効果は十分なものになったはずです。
\教えてくれた人/
山下修作(やました・しゅうさく)さん
株式会社Jリーグマーケティング専務執行役員。北海道大学大学院修了後、株式会社リクルートで営業、編集、企画、WEBメディアのリニューアル、プロモーション、マーケティングなどに携わる。2005年からJリーグ公認サイト『J’s GOAL』の運営やJリーグのWebプロモーション事業などにかかわった。Jリーグアジア戦略室室長や国際部部長を経て、2017年4月より現職。
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