【中溝康隆J連載】キングカズはエスパルス決定? ジーコはジェフ入り? 日本サッカー史を左右したそれぞれの決断
サッカーキング2017年9月15日(金)19時31分
三浦知良(右)とジーコ(左)。Jリーグ創世記の象徴だった二人の動向が現在のサッカー界にもたらした影響は大きい [写真]=J.LEAGUE PHOTOS
◆Jリーグ創世記の意外!?な事実
「中村俊輔と小野伸二がJ1で2325日ぶりに同じピッチに立ちました!」
先週末、北海道コンサドーレ札幌vsジュビロ磐田の試合でDAZNの実況アナウンサーは興奮気味に紹介していた。以前、中村がJリーグ公式Twitter企画のQ&Aで「Jリーグの中では、こいつはセンスがずばぬけていると思ったのは小野伸二だけです」と答えた天才との再会。そんな彼らも気が付けば39歳と37歳のベテランフットボーラーである。
思えば、98年フランス・ワールドカップでは21歳の中田英寿がチームの中心に君臨し、まだ10代の小野と中村が代表に呼ばれ、小野がW杯のメンバーに入るなど、当時は彼ら新世代の出現こそ93年に開幕したJリーグ効果と言われたものだった。
今から24年前、1993年とはどんな時代だったのか? 大相撲では若貴フィーバーに加え、曙が史上初めての外国人横綱に昇進。全日本柔道でまだハッスルポースを決める前の小川直也が5連覇を飾り、4月30日には数年後に大人気となるK-1がひっそり初開催。プロ野球界では巨人のルーキー松井秀喜が5月の大型連休中にプロ初アーチを放った。
そして、93年5月15日にヴェルディ川崎vs横浜マリノスの一戦でJリーグが開幕したわけだ。その当時に出版されたサッカー関連の書籍は数多いが、中には今読むと非常に際どい内容のものも多い。というわけで、開幕直前の93年3月20日に発行された一冊の本を今回は紹介しようと思う。『Jリーグここまで暴露(バラ)せば殺される』(あっぷる出版社)、著者はJリーグ担当記者で定価880円だ。
◆カズー?の陰にナベツネ!?
まず第1章から凄い。「オール丸ごと“カズー”」である。えっカズー? そう、なんとこの本は三浦知良のことを「カズ」ではなく、一貫して「カズー」と表記している。それが、Jリーグが開幕してどこかの段階で、カズーはカズへとなったのである。
興味深いのが、Jリーグ開幕前年に読売クラブと母体ゼロから新チームをスタートさせる清水FCエスパルスの間で熾烈な25歳のカズ争奪戦が繰り広げられている事実だ。
なにせ92年4月22日、東京のホテルニューオータニで催された第27回日本リーグ祝勝会で「三浦君、金ならいくらでも出す。読売の三浦でいてくれ」とどこかで聞いたことあるような発言をしたのは読売新聞の渡邉恒雄社長。あのナベツネさんがここまでどっぷりサッカーにも関わっていたところに時代を感じるが、言葉通りに4月28日にはカズ……じゃなくカズーに年俸1億円が提示される。
このニュースを耳にした巨人の4番・原辰徳は「まあ…サッカーと野球は比較できないからね。高いとも安いとも言えないよ」と表面上は平静を装ったが、自身より先に9歳下の若者が1億円の大台を突破したことにショックを受けたという。
だが、清水サイドも一歩も引かずガチンコの争奪戦が勃発。カズーの保有権を50%持つ実父、納谷宣雄氏が清水の相談役を務め、兄・泰年の結婚式後にはホテル客室で宣雄氏とエスパルス関係者も交え交渉(というか説得)するも、読売のサッカーに可能性と手応えを感じていたカズーは一歩も譲らず平行線を辿る。
日刊スポーツは「カズー 清水移籍へ」と報じ、やがてフジテレビ社長・日枝久氏(清水FCの経営会社であるエスラップコミュニケーションの筆頭株主テレビ静岡はフジの系列局)も巻き込み一大騒動となっていくが、8月に国立競技場で行われる清水とブラジルのサントスFCの試合のチケット広告で、なんと「三浦知 移籍決定。清水 東京初登場」と出てしまう。
この試合のスポンサーはフジテレビ。まるで「私は既に数十人のレスラーを確保した」なんつってUWFオープニングシリーズのポスターでかました“過激な仕掛人”新間寿(しんまひさし)を彷彿とさせる、あまりに常識はずれのフライングに呆れたカズーは、自らの意志を貫き読売残留を決めたのだった。もしも、この時キングカズが周囲の言葉に従い清水を選ぶような従順な男なら、50歳の今は現役選手ではなく、どこかのクラブで監督にでもなっているはずだ。
◆神様が単身赴任生活!?
そして、もうひとり。のちの日本サッカー史を大きく変えた移籍劇があった。神様ジーコである。
引退してブラジルのスポーツ大臣を務めていた男が、91年5月にいきなり住友金属へ。なんでブラジルの元10番がW杯に1度も出たことのないサッカー後進国に行くのか……。世界を唖然とさせた決断だが、最初にジーコの代理人が売り込んだのは東日本JR古河SC(のちのジェフユナイテッド市原)だったという。
提示された希望金額は総額150万ドル(当時のレートで年俸50万ドル=7000万円、契約金100万ドル=1億4000万円)。しかし、この約2億円をJリーグ開幕時には40歳になっているジーコに払う金額としては妥当ではないと獲得見送り。次に代理人が接触したのが旧日本リーグ2部から唯一、Jリーグに選ばれた住友金属だった。
来日した奥さんが子どもたちと選んだ住まいは茨城県の鹿島町ではなく、東京世田谷の高級マンション。なんとジーコは鹿島町で単身赴任生活をしたという。
サッカー界のスーパースター、神様とまで呼ばれた男が地球の裏側までやって来て、住友金属の独身社員寮で過ごした日々。妙に親近感がわくエピソードだが、ジーコ加入の2年後、「ブラジル全土を探してもこんな素晴らしい施設は見つからない」と神様も絶賛する約19億円を投じた豪華クラブハウスと天然芝3面、人工芝1面の練習グラウンドがお披露目。さらに約82億円をかけた日本初の全席屋根付きのカシマサッカースタジアムも完成する。すべてはジーコの単身赴任生活から常勝アントラーズは始まった。
◆日本のサッカー史に名を残す二人の決断
三浦知良とジーコ。Jリーグ創世記の象徴だった二人の動向が現在のサッカー界にもたらした影響は大きい。仮に清水が全盛期のカズーを手に入れたら、圧倒的なフジテレビ資本を引き出して日本を代表するビッグクラブとして長らく君臨していたかもしれない。
そして、ジーコが鹿島ではなく市原で単身赴任生活をしていたら、その後のJリーグのパワーバランスは大きく変わり、もちろんヴェルディとアントラーズのチャンピオンシップPK唾吐き事件は存在せず、のちに日本代表監督に就任することもなかったのではないだろうか。
今思えば、二人の決断は日本サッカー界の運命を左右するターニングポイントだったのである。
文=中溝康隆(プロ野球死亡遊戯)
「中村俊輔と小野伸二がJ1で2325日ぶりに同じピッチに立ちました!」
先週末、北海道コンサドーレ札幌vsジュビロ磐田の試合でDAZNの実況アナウンサーは興奮気味に紹介していた。以前、中村がJリーグ公式Twitter企画のQ&Aで「Jリーグの中では、こいつはセンスがずばぬけていると思ったのは小野伸二だけです」と答えた天才との再会。そんな彼らも気が付けば39歳と37歳のベテランフットボーラーである。
思えば、98年フランス・ワールドカップでは21歳の中田英寿がチームの中心に君臨し、まだ10代の小野と中村が代表に呼ばれ、小野がW杯のメンバーに入るなど、当時は彼ら新世代の出現こそ93年に開幕したJリーグ効果と言われたものだった。
今から24年前、1993年とはどんな時代だったのか? 大相撲では若貴フィーバーに加え、曙が史上初めての外国人横綱に昇進。全日本柔道でまだハッスルポースを決める前の小川直也が5連覇を飾り、4月30日には数年後に大人気となるK-1がひっそり初開催。プロ野球界では巨人のルーキー松井秀喜が5月の大型連休中にプロ初アーチを放った。
そして、93年5月15日にヴェルディ川崎vs横浜マリノスの一戦でJリーグが開幕したわけだ。その当時に出版されたサッカー関連の書籍は数多いが、中には今読むと非常に際どい内容のものも多い。というわけで、開幕直前の93年3月20日に発行された一冊の本を今回は紹介しようと思う。『Jリーグここまで暴露(バラ)せば殺される』(あっぷる出版社)、著者はJリーグ担当記者で定価880円だ。
◆カズー?の陰にナベツネ!?
まず第1章から凄い。「オール丸ごと“カズー”」である。えっカズー? そう、なんとこの本は三浦知良のことを「カズ」ではなく、一貫して「カズー」と表記している。それが、Jリーグが開幕してどこかの段階で、カズーはカズへとなったのである。
興味深いのが、Jリーグ開幕前年に読売クラブと母体ゼロから新チームをスタートさせる清水FCエスパルスの間で熾烈な25歳のカズ争奪戦が繰り広げられている事実だ。
なにせ92年4月22日、東京のホテルニューオータニで催された第27回日本リーグ祝勝会で「三浦君、金ならいくらでも出す。読売の三浦でいてくれ」とどこかで聞いたことあるような発言をしたのは読売新聞の渡邉恒雄社長。あのナベツネさんがここまでどっぷりサッカーにも関わっていたところに時代を感じるが、言葉通りに4月28日にはカズ……じゃなくカズーに年俸1億円が提示される。
このニュースを耳にした巨人の4番・原辰徳は「まあ…サッカーと野球は比較できないからね。高いとも安いとも言えないよ」と表面上は平静を装ったが、自身より先に9歳下の若者が1億円の大台を突破したことにショックを受けたという。
だが、清水サイドも一歩も引かずガチンコの争奪戦が勃発。カズーの保有権を50%持つ実父、納谷宣雄氏が清水の相談役を務め、兄・泰年の結婚式後にはホテル客室で宣雄氏とエスパルス関係者も交え交渉(というか説得)するも、読売のサッカーに可能性と手応えを感じていたカズーは一歩も譲らず平行線を辿る。
日刊スポーツは「カズー 清水移籍へ」と報じ、やがてフジテレビ社長・日枝久氏(清水FCの経営会社であるエスラップコミュニケーションの筆頭株主テレビ静岡はフジの系列局)も巻き込み一大騒動となっていくが、8月に国立競技場で行われる清水とブラジルのサントスFCの試合のチケット広告で、なんと「三浦知 移籍決定。清水 東京初登場」と出てしまう。
この試合のスポンサーはフジテレビ。まるで「私は既に数十人のレスラーを確保した」なんつってUWFオープニングシリーズのポスターでかました“過激な仕掛人”新間寿(しんまひさし)を彷彿とさせる、あまりに常識はずれのフライングに呆れたカズーは、自らの意志を貫き読売残留を決めたのだった。もしも、この時キングカズが周囲の言葉に従い清水を選ぶような従順な男なら、50歳の今は現役選手ではなく、どこかのクラブで監督にでもなっているはずだ。
◆神様が単身赴任生活!?
そして、もうひとり。のちの日本サッカー史を大きく変えた移籍劇があった。神様ジーコである。
引退してブラジルのスポーツ大臣を務めていた男が、91年5月にいきなり住友金属へ。なんでブラジルの元10番がW杯に1度も出たことのないサッカー後進国に行くのか……。世界を唖然とさせた決断だが、最初にジーコの代理人が売り込んだのは東日本JR古河SC(のちのジェフユナイテッド市原)だったという。
提示された希望金額は総額150万ドル(当時のレートで年俸50万ドル=7000万円、契約金100万ドル=1億4000万円)。しかし、この約2億円をJリーグ開幕時には40歳になっているジーコに払う金額としては妥当ではないと獲得見送り。次に代理人が接触したのが旧日本リーグ2部から唯一、Jリーグに選ばれた住友金属だった。
来日した奥さんが子どもたちと選んだ住まいは茨城県の鹿島町ではなく、東京世田谷の高級マンション。なんとジーコは鹿島町で単身赴任生活をしたという。
サッカー界のスーパースター、神様とまで呼ばれた男が地球の裏側までやって来て、住友金属の独身社員寮で過ごした日々。妙に親近感がわくエピソードだが、ジーコ加入の2年後、「ブラジル全土を探してもこんな素晴らしい施設は見つからない」と神様も絶賛する約19億円を投じた豪華クラブハウスと天然芝3面、人工芝1面の練習グラウンドがお披露目。さらに約82億円をかけた日本初の全席屋根付きのカシマサッカースタジアムも完成する。すべてはジーコの単身赴任生活から常勝アントラーズは始まった。
◆日本のサッカー史に名を残す二人の決断
三浦知良とジーコ。Jリーグ創世記の象徴だった二人の動向が現在のサッカー界にもたらした影響は大きい。仮に清水が全盛期のカズーを手に入れたら、圧倒的なフジテレビ資本を引き出して日本を代表するビッグクラブとして長らく君臨していたかもしれない。
そして、ジーコが鹿島ではなく市原で単身赴任生活をしていたら、その後のJリーグのパワーバランスは大きく変わり、もちろんヴェルディとアントラーズのチャンピオンシップPK唾吐き事件は存在せず、のちに日本代表監督に就任することもなかったのではないだろうか。
今思えば、二人の決断は日本サッカー界の運命を左右するターニングポイントだったのである。
文=中溝康隆(プロ野球死亡遊戯)
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