土用丑の日の「うなぎ危機」、専門店はどう見たか? 福岡の老舗「田舎庵」に聞く
ウナギが危ない? 2018年夏、「土用丑の日」の前後には、インターネットを中心に「絶滅しそうだから、今年は食べない」との声が多く上がった。また、この動きに乗って「うなぎ絶滅キャンペーン」なる、皮肉にもとれるツイッターアカウントも登場し、大きな話題を呼んだ。
では、ウナギ専門店の実感は、どのようなものだったのだろう。昭和元年(1926年)創業の「田舎庵」(福岡県北九州市)店主の緒方弘さんと、専務の緒方仁さんに話をうかがった。
そのシラスウナギは、いつ獲れたの?
水産庁の資料「ウナギをめぐる状況と対策について(平成30年8月)」によると、シラスウナギ(ウナギの稚魚のこと)池入数量は、今年の漁期(2017年11月〜18年4月)が14.2トンと、前年漁期(19.6トン)の7割ほどに減少した。
一方で、1キロあたりの取引価格は109万円から299万円へと、1年で3倍近くに高騰している。1月ごろには「1キロ400万円」との報道もあった。ただ同資料によると、ウナギの採捕が上向いたのは2月以降とのことで、漁期通じての価格は約300万円となっている。
弘さんはそれらの背景に、「絶滅危惧種ビジネス」があるのではないかと指摘する。
「これだけ獲れないんだからと、高くするための工作だったんですよ。12月、1月に『シラスが獲れない』と言いますよね。そのシラスが400万円しましたと。そしたら価格に転嫁するのは当たり前という論理なんですが、ちょっと待てよ、と」(弘さん)
冬から春にかけて獲れたシラスは、大きくなるまで時間がかかり、やっと8月ごろに早いものが出荷されるという。
「今のシラスは早くても秋にしか出ないよね。じゃあ、そのシラスはいつ獲れたんですかと。去年は400万円もしなかったじゃないかと。高いというのは嘘も方便なんですよ」(弘さん)
資源を守るなら「乱獲しない」ことが大切
ニホンウナギは、国際自然保護連合の「EN(絶滅危惧1B類)」に指定され、レッドリストに掲載されている。ここ数年は、絶滅危惧種だからと、「食べるな」と呼びかける動きも見られる。これについては、どのように受け止めているのか。
「『資源を守るために食べない』という選択肢は、正しくないんですよ。シラスを乱獲しているから、資源が減る。これが世界中の常識なんですけど、なぜかそれがすっぽ抜けて、いきなり『食べるな』になっているんです」(仁さん)
シラスウナギは、太平洋のマリアナ海溝付近で生まれ、日本へと流れつく。野生化すると、いわゆる「天然」ものに。シラスを捕獲し、養鰻業者などが育てると「養殖」ものになる。そうしたことから、弘さんいわく「ウナギは『氏より育ち』」。とはいっても、田舎庵の養殖ウナギは、スーパーなどとは違うと胸を張る。
「ウナギは素材由来型です。専門店で食べるウナギと、スーパーで買うウナギ、まったく別物と考えてください。価格の比較もしないほうがいいです。どんな環境で育てているか、温度や水質、生育日数、そういうのが絡み合って、良いウナギができるんです。でも面倒くさいから、皆さん考えないんですね」(弘さん)
取材当日に使われていたのは、鹿児島県の種子島産。ほかにも高知や静岡など、各地の養鰻業者をめぐり、池揚げの時期によって、「量販店に出回ってないウナギ」を使い分けているそうだ。
スーパーとの違いは
量販店との差は、養殖環境だけではない。焼きの工程にも違いがあるという。
「ウナギを焼くと、グーっと縮みますよね。スーパーではなるべく長さを保とうとして、ちょっとしか焼かない。うちのはよく焼くから、元の半分くらいの長さになる。スーパーのは見た目が大きいけど、火が通ったばかりでプリンプリンとした食感。ウナギは焦げる直前まで焼くのがおいしいんです。だから私はヤキが回ったんでしょうね(笑)」(弘さん)
ウナギには牛肉などと違って、生産から流通までを追跡するトレーサビリティー制度が存在しない。そのため、量販店に出回っている蒲焼の中には、消費期限の範囲内ながら、数年前に加工されたものもあると話す。
「そのからくりは、みんな知らないんだよ。『予約販売』と聞いて、明日つくるのかと思いますよね。『これは1年前に作りました』と言われたら、あなた買いますか? 黙って売る、それがいけない。ウナギだけに、のらりくらりと煙に巻くんです。それを悪とするか、善とするか。わたしはそれを正確に伝えていく。あとは消費者の人が判断してください。私は判断材料を伝えたほうがいいと思っています」(弘さん)
帰りがけに、鰻重をいただいた。パリパリの皮に、身はふわっと。油はクドくなく、さっぱりとした後味だ。その背景にあるエピソードを知ったからこそ、思いのこもった職人技を、より実感できるのだった。
(Jタウンネット編集長 城戸譲)
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