優勝争いに名乗りを上げたラツィオ…ポイントは2人のキーマンと“苦手”な終盤戦

2020年1月4日(土)19時52分 サッカーキング

スーパー杯を制すなど好調を維持するラツィオ [写真]=Getty Images

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 ユヴェントスの守護神ヴォイチェフ・シュチェスニーは一歩も動けなかった。ダニーロ・カタルディの蹴ったFKが縦に回転しながらストンと落ちてゴールに吸い込まれると、そのまま試合終了のホイッスルが鳴り、キング・サウード・ユニヴァーシティ・スタジアムのピッチにはラツィオの歓喜の輪が広がった。12月22日にサウジアラビアで開催されたスーペルコッパは、昨シーズンのコッパ・イタリア覇者ラツィオがセリエA王者ユヴェントスを3−1で下し、2年ぶり5度目の優勝を飾った。

 完勝だった。ルイス・アルベルトによる先制点のあと、パウロ・ディバラに同点弾を許し、1−1で前半を折り返したが、後半に主将セナド・ルリッチのゴールで勝ち越し。そしてカタルディの芸術的FKで試合を決めた。ユーヴェに54パーセントのポゼッションを譲ったが、失点の際に最終ラインが乱れただけで決定的な場面を許すことはほぼなかった。先制のシーンではルリッチが、左サイドでマッティア・デ・シリオを翻弄したが、逆にラツィオはそのように1対1で破れるようなことが少なかった。それが勝利の要因だ。抜かれた場合でもカバーリングが行われて数的不利に陥ることがなく、終始、リスクマネージメントが行き届いていた。スリーラインも整い、とりわけ中盤と最終ラインの間に致命的なギャップが生まれることはなく、守勢時の5バックは堅固で、バランスは常に保たれていた。

 64分にはルーカス・レイヴァ、その2分後にはルイス・アルベルトを下げて、カタルディとマルコ・パローロを投入。中盤の攻守の軸を下げたこの選択は“正気の沙汰”かと思われたが、シモーネ・インザーギ監督はテクニカルエリアから「より激しく戦え」と指示していたこともあって、すでに警告を受けていた2人がさらにイエローカードをもらい数的不利となることを恐れてこの采配を決断するに至ったと理解できる。しかも、途中出場のパローロが勝ち越し弾をアシスト。カタルディは試合を決定づけるFKを叩き込んだのだから、インザーギの采配は的中したと言える。

 ラツィオは、この16日前に行われたセリエA第15節においてもユーヴェを本拠地で3−1と同じスコアで打ち破っていた。この試合後、ユーヴェのマウリツィオ・サッリ監督は「ラツィオは強い。どうして彼らがチャンピオンズリーグを戦っていないのか不思議だ」と賛辞を送っていた。だが、この試合は1−1の同点で迎えた69分にフアン・クアドラードが退場となり、その後、ユーヴェが2失点を喫して敗れた。そのため、ユーヴェのファンの中にはアウェイでの戦いであり、「数的不利の中での敗戦」とケチをつけるものがいたかもしれない。けれども、ほぼユーヴェ・ファンで埋まったホームさながらのサウジアラビアでの戦いでも完敗を喫したのだから、ぐうの音も出ないだろう。

 2017年以来、自身2度目のスーペルコッパを制したインザーギ監督は試合後「魔法のようなことを成し遂げた。2週間でユヴェントスを2度倒すなんて信じられない。それでも、この試合の勝利はこの素晴らしいグループに値するもの。常に勝利を信じていた。この優勝にふさわしい」とかすれ気味の声で歓喜を示した。リーグ戦では首位インテル、2位ユーヴェとの勝ち点差を6とした。双方よりも1試合未消化のため、その差を3にまで縮められる可能性もある。攻撃はリーグ最多得点のアタランタより5ゴール少ない38で2位。守備もリーグ最少失点のインテルより2ゴール多い16の2位と、攻守にバランスのとれたチームに仕上がっている。もはやユーヴェ撃破は、偶然や運によるものではないのは誰の目にも明らかだ。

 インザーギ政権となり5シーズン目。一貫して採用してきた3バックの戦い方は円熟味を増してきた印象だ。インザーギ監督は、ローマ・ダービーで1−4と惨敗を喫したステファノ・ピオリ監督に代わって、2016年4月にプリマヴェーラから内部昇格。4年と2カ月の在任は、セリエAに限ればリーグ最長の指揮となる(SPALのレオナルド・センプリチ監督は、在任期間が6シーズン目を迎えるがセリエAでは3年目)。

 これまで、途中就任の15−16シーズンが8位(7試合を指揮)、16−17シーズンと17−18シーズンは5位、18−19シーズンは8位。今のところチャンピオンズリーグ出場権獲得には至っていないが、ユーヴェのマッシミリアーノ・アッレグリ前監督の後任候補に浮上したほど評価は高く、チームも6月に2021年6月30日まで契約更新を締結した。ビッグクラブ行きが噂されながらもチームに残留したセルゲイ・ミリンコヴィッチ・サヴィッチといった移籍市場の目玉となる選手から不満が聞こえてこないのは、インザーギ監督のマネージメントが行き届いていることが見て取れる。フィオレンティーナでは、フェデリーコ・キエーザがビッグクラブに移籍できないことからクラブとの不協和音が報じられたが、ラツィオに限ってはそういった声は表沙汰にはなっていない。指揮官がしっかりとチームを掌握できている証だろう。

 そのミリンコヴィッチ・サヴィッチは、昨シーズンはややコンディションを落とした時期があったが、今シーズンはベストの状態を取り戻した。これまで3得点5アシストをマークしており、リーグ戦のユーヴェ戦で見せた勝ち越しゴールは今シーズンのベストゴールの一つとも言えるもの。さらに彼の評価を高めたはずだ。

 そして、ミリンコヴィッチ・サヴィッチのほかにも、数字の上でチームのキーマンとなっている2人のプレーヤーがいる。一人はL・アルベルト、攻撃を司るアシストマンだ。前述のミリンコヴィッチ・サヴィッチへのゴールをアシストしたのもこの男で、セリエAを代表するファンタジスタの一人だ。今シーズンはアシスト数でリーグトップの11を記録。7に終わった昨シーズンをすでに上回り、一昨シーズンの13をも上回る勢いを見せている。ナンバー10にふさわしい仕事ぶりを十二分に発揮している。

 そのL・アルベルトとホットラインを組む、得点源のチーロ・インモービレがもう一人のキーマンだ。こちらもリーグトップの17得点を記録。2位につけるインテルのロメル・ルカクに5得点差をつけて、独走態勢に入りつつあり、自身3度目のリーグ得点王を十分に狙える。得点だけでなくアシストの貢献も高く、その数5つはチーム内でL・アルベルトに次ぐ数字だ。リーグ戦では、第6節のジェノア戦から9試合連続得点。第4節のパルマ戦では途中交代に不満を示してチームの和を乱したが、その後すぐに謝罪し、今はインザーギ監督とのわだかまりは一切ない。海外挑戦したドルトムントやセビージャではブレイクできず、イタリア代表でも物足りなさが否めないが、ラツィアーレにとってはこれ以上頼りになる存在はいない。

 ナポリがまさかのスクデット争い脱落で、ユーヴェとインテルとの一騎打ちの様相を呈していたが、ラツィオも名乗りを上げてきた形となった。近年にないほどセリエA優勝争いは混沌としてきている。そのためには、鍵となるL・アルベルトとインモービレの2人がこれからもコンスタントに数字を残すことが求められる。ただし、インザーギ監督がフルシーズン指揮した3年間、ラツィオはシーズン終盤に失速している。16−17シーズンは最後の3試合で3連敗、17−18シーズンは2分け1敗となり、いずれも4位から5位に順位を落としてチャンピオンズリーグ出場権を逃した。18−19シーズンはラスト9試合で2勝しかできず、8位と不本意な形でシーズンを終えた。もはや、4度目の失敗は許されない。インザーギ監督は“弱点”を克服することができるか。シーズン最終節まで、目が離せない戦いは続きそうだ。

文=佐藤徳和/Norikazu Sato

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