堀越を初のベスト4へ導いた中村健太 ボトムアップの“主将”で変わった自分「サッカーに対して本気になれた」

2024年1月7日(日)11時14分 サッカーキング

堀越の中村健太主将(10番)[写真]=金田慎平

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 第102回全国高校サッカー選手権大会・準決勝が6日に行われ、堀越(東京A)は近江(滋賀)に1−3で敗れ、準決勝敗退が決定した。試合後、堀越の中村健太キャプテンがミックスゾーンでメディアからの質問に回答した。

 試合は早い時間帯に差がついてしまった。11分に近江に先制点を奪われた堀越は、13分、22分と立て続けに失点。国立競技場の独特な雰囲気と近江の勢いに飲み込まれ、ピッチ上で修正することができなかった。キャプテンの中村も前半の内容に悔しさを滲ませる。

「自分たちのサッカーが出来なくて、相手に飲まれてしまって、やりたいサッカーができませんでした。みんな少し緊張していた部分もありましたし、声が聞こえづらいのでコミュニケーションを取りづらく感じた部分もありました。1失点目の段階では、あまり焦りがなかったんですけど、2点目、3点目を取られて、ちょっとヤバいなと。どう改善していくべきなのか、頭の中で前半が終わるまでに整理できていなかったので、そこは反省点です」

 堀越は選手主導で試合の戦術や対策を考える『ボトムアップ』方式を採用している。スタメンの最終決定権や途中交代の判断も、その代のキャプテンが担当する。ハーフタイムの修正について、ピッチ上の“指揮官”である中村はこう振り返った。

「完全に守備がハマっていなかったので、(監督からの提案もあり)フォーメーションを変えてマンツーマンでハメに行く形に変更しました。後半(開始)10分のうちに得点を取れば、流れが変わるというのも監督から言われたので、それを意識して、後半に臨みました」

 そして、中村はハーフタイムで選手の交代を決断する。吉荒開仁(3年生)に代えて谷口悠成(1年生)、仲谷俊(2年生)に代えて三鴨奏太(1年生)を投入。選手交代の理由について、中村はこう説明した。

「吉荒は腰を痛めていて、前半から自分で『もう無理だわ』と言っていたので。俊に関しては、体的には動けていたんですけど、結構、一人で(プレスを)かけちゃって、周りの動きと連動できていなかったので、それよりは三鴨を入れて、動きを連動させた方がいいかなと思って、代えました」

 今大会が最後の3年生、そして、2年生をベンチに下げ、1年生2人を投入した中村。その決断は決して簡単ではないはずだ。ただ、中村は『勝つために選択しただけ』だと、きっぱり言い切る。

「勝つための選手交代なので、3年生だから長く出してあげようとか、全く考えてなかったです。そこに情とか友情が生まれると勝てないので、『勝つために代える』と判断しました」

 ハーフタイムの修正が功を奏し、後半は堀越が猛攻を仕掛ける展開となった。中村を中心に幾度となく相手ゴールを脅かす。

 しかし、近江の守備陣も高い集中力を保ったことで、最後まで同点に追いつくことはできなかった。試合終了間際にPKを中村が決めて、意地を見せたが、反撃はここまで。1−3で悔しい準決勝敗退に終わった。

 今大会の終了を告げるホイッスルが鳴った瞬間、中村は「これで終わりか…。これでみんなで出来る高校サッカーが終わりか…」と思ったという。終わった直後こそ、涙は出なかったが、「堀越の応援の方々が最後、声を出して応援してくれて、そこで涙が出てしまいました。あまり涙は流さないようにしていたんですけど、悔しいのと申し訳ない気持ちで出てしまいましたね」と振り返った。

「自分の特長は出せなかったし、プレーでみんなを引っ張ることはできませんでした。体的にはやり切った感じがあるんですけど、心の中ではこれで本当に良かったのかなと思う部分もあります。優勝を目指していたなかで、自分がもっと動いて、もっと戦わないといけなかったです。結果的にPKを決めましたけど、流れの中から得点を決めていないし、その部分では全然満足してはいけないなと思います」

 個人としての反省点を口にした中村。ただ、堀越史上初のベスト4を2年生、1年生主体のチームで成し遂げたことは、本当に素晴らしい偉業といえる。今大会を振り返り、中村も「自分たちがここまで来れたことにびっくりしています」と語り、ベスト4という結果に「胸を張っていいと思います」と、自分たちを誇った。そして、「選手権の出場が決まったときから、新しい歴史をつくるということを目標にしていたなかで、それを達成できたのは相当すごいことなんだなと思っていますし、全然下を向く必要は全くないと思います。ただ、それは当たり前じゃないことで、応援があるからこそ戦えるので、感謝を忘れてはいけないとあらためて思っています」と、3年間の大きな成長を感じさせる言葉を残していた。

 絶大な信頼を寄せられる立派なキャプテンになった中村。しかし、堀越の佐藤実監督によれば、「もともとは『ちょっとわがままで、自分本位で、ベクトルが自分に向いてしまう』ような選手」だったという。監督の言葉を伝えられた中村は、少し照れ笑いを浮かべながら、ゆっくりと頷いた。

「そう思います(笑)。めちゃくちゃ良いキャプテンかと言われたら、そうではないと思うんです。(今でも)自分の描いたチームに近づけるために、みんなに強く言う時もありますけど、夏の敗戦を経て考えを直しました。自分の言葉づかいだったり、もっと周りの意見を聞いて、周りがどうしたいのか、それによるチームの影響をめちゃくちゃ考えて、そこから周りの意見を取り入れながらやる方向に変わりました」

 ボトムアップ方式のキャプテンは、いわば選手兼任監督のような存在。『勝つため』には仲間にも非情な決断を下す必要があり、仲間から信頼を勝ち取るためには誰よりも努力する必要がある。トップダウン方式のチームのキャプテンと比べると、かかる責任や重圧は段違いだ。中村もキャプテンを務めたこの1年間を『苦しかった』と振り返る。

「この1年間は、サッカーしているときは楽しかったですけど、それ以外は楽しくなかったです。辛かったですね。夏に自分がケガして、チームもTリーグ(東京都リーグ/高円宮杯 JFA U-18 サッカーリーグ)で5連敗したとき、『なんで自分がキャプテンをやっているんだろう…』って放り出したくなりました。めちゃくちゃ辛かったですね」

 だが、それでも自身と徹底的に向き合うことで、苦境を乗り越えてきた。

「ちょっと先(未来)のことを考えて、サッカーで結果を残していかなかったら、自分に何が残るんだろうと思いました。そして、チームの目標をみんなでしっかり話し合って、選手権に舵を切るしかないとみんなで決めました。そこから少し変わったと思います。もっと責任を持たないとダメだなと思いましたし、試合でも練習でも、自分が一番じゃないとダメだという責任が生まれました」

 多くの苦しい経験をして、人間として大きく成長した中村。あらためて、「堀越を選んで良かった」と心の底から語る。

「堀越でサッカーに対して本気になれたと思います。他の高校でも本気になるとは思いますが、『何に対して本気になっているんだろう』、『上から言われるから本気でやらないといけないのか』と思っていたと思います。堀越に入って、自分の意志でやらないといけないという責任が生まれたのは大きかったです。めちゃくちゃサッカーへの思いは強くなりましたし、チームの中でも一番だと思います」

 中村は高校卒業後、第99回大会で活躍した日野翔太(サガン鳥栖内定)と同じ拓殖大学に進むことが決定している。堀越で学んだことは、大学サッカーの舞台でも必ず生きてくるはずだ。

「自分のプレーを100パーセント出して、自分の存在価値を上げていくということを意識してやっていきたいです。そして、これからも誰よりもサッカーを楽しんでやりたいです。辛いこともありましたけど、それを乗り越えた先に楽しさだったり、嬉しさがあるので、この1年間は楽しめてなかったですけど、辛い時に笑顔を絶やさず楽しむことを意識して、これからもサッカーをしていきたいです」

 そして、チームの全権を託された“キャプテン”として、後輩と同期たちに感謝の言葉とエールを口にした。

「まずは自分についてきてくれてありがとうと伝えました。わがままで突っ走っていたところもあると思うんですけど、ついてきてくれてありがとうと伝えました。(後輩たちには)まずは自信を持ってほしいです。自分が1年生だったら、この国立のピッチで全然緊張してプレー出来ないと思うし、あんなのびのびとやれるんだから、自信をもってほしいです。あとは、自分たちがやらなければいけないことから目を背けず、ちゃんと向き合ってほしいです。たぶんボトムアップをやっていく以上は、それが一番大事だと思うので。その責任を全うしないと試合は勝てないと思うので、そこは強くやってほしいです」

 堀越の偉大なる“キャプテン”中村健太。今後の活躍に期待したい。

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