中央大アンカー、天国の母に届けた箱根路の晴れ姿…3か月前に他界「褒めてくれるかな」

2025年1月17日(金)11時0分 読売新聞

10区で区間4位と好走した中大の藤田大智

 青学大が大会新記録で2年連続8度目の優勝を飾った第101回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝=読売新聞社共催)。史上最高の高速レースの裏側で、亡き母への思いを胸にチームの順位を押し上げた選手がいた。箱根駅伝のもう一つの物語「アナザー・ストーリー」を紹介する。

「唯一のモチベーション」失う

 天国の母に見守られての力走だった。中大の10区・藤田大智(だいち)(2年)は鶴見中継所で城西大と同タイムの6位でたすきを受けると、競り合いながら前を追った。しばらくすると、徐々に5位創価大の後ろ姿が見えてきた。

 チームの目標は総合7位。順位を維持すれば達成できたが、「5位と7位では来年度につなげる意味で大きな差がある」と気合を入れた。城西大を引き離し、創価大をとらえ、総合5位でゴール。区間4位の好走でチームに貢献し、「しっかりと順位を上げられてよかった」と胸を張った。

 昨年10月に母の理砂りささんを、がんで亡くした。母が不治の病に侵されていると知らされたのは約1年前。「自分の走りで元気になってくれるなら頑張る。それだけが唯一のモチベーションだった」。しかし、夏合宿では貧血に苦しむなど満足な練習を積めなかった。そして、母は箱根での息子の晴れ姿を見ることなく、この世を去った。

 母の死後、走る意欲を失い、父の浩一こういちさんに「もう無理かもしれない」と弱音を漏らした。すると、父から母が「何があっても箱根の夢だけは忘れないでほしい」と、話していたことを知らされた。「お母さんの夢はお前が箱根を走っている姿を見ること。絶対に天国で見ていてくれるから、最後まで頑張れ」

「往路を任される選手に」

 踏ん張って前を向き、再び走り始めた。「周りの人に支えてもらって復活できた。お父さんが一番、心の支えになった」。母の夢をかなえ、堂々と走りきった東京・大手町のゴールでは「届いたかわからないけど、自分の力は出せた。褒めてくれるんじゃないかな」と天を見上げた。

 現地に駆けつけた祖母の黒田明子さんは「理砂が背中をぐーっと押してくれたと思う。本当に頑張った」と感無量の表情で孫をねぎらった。

 来年度は上級生として仲間を引っ張る。「次は優勝争いに加わると思う。往路区間を任される選手になっていきたい」。大切な人々の思いを胸に、さらなる飛躍を期す。(田上幸広)

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