異次元の対応力で他を圧倒。“冬山の王”オジエとヤリスWRCのシンクロ率は100%へ/WRCモンテカルロ

2021年1月28日(木)7時0分 AUTOSPORT web

 セバスチャン・オジエが2年ぶりに“冬山の王”に返り咲いた。冬山とはフランチアルプスのこと。彼は通算8回目のラリー・モンテカルロ優勝を達成した。オジエに続く2位は同じくトヨタのエルフィン・エバンス。昨年、最終日にヒュンダイのティエリー・ヌービルに逆転を許し、優勝を奪われたトヨタ勢は、今年そのヌービルを3位に抑え、ワン・ツーフィニッシュ。トヨタ・ヤリスWRCは初めてモンテカルロ最速のマシンとなった。また、カッレ・ロバンペラが4位に、勝田貴元が6位に入賞。ヤリスWRCはトップ6に4台が入った。


 昨年、トヨタ移籍1戦目だったモンテカルロでのオジエの走りは、いま思い返せばやや消極的だった。どんなクルマでもすぐに乗りこなしてきたオジエだが、1年前のインカー映像に映し出された彼の表情には、ときどき怯えが見てとれた。クルマの操作自体にも若干ではあるが躊躇が感じられ、チームメイトであるエバンスのほうが走りにキレがあった。結果論ではあるが、オジエは勝負がかかった大事なシーンで消極的になり、彼のモンテカルロ連勝記録は6でストップした。


 しかし、今年のモンテカルロでのオジエは走りも表情もとにかく安定していた。そして、大事な局面ではリスクをとって攻める覚悟も感じられた。とくに舗装路面のところどころにブラックアイスや雪があるような、グリップが安定しないセクション、早朝でまだ暗く、目視では簡単に凍結部分を判断できないようなステージで、圧倒的なスピード差を見せつけた。


 もちろん、2時間前にステージを走行し、最新のコンディションを伝えるグラベルクルーがいい仕事をし、その情報を素早くシェアするトヨタの体制が優れていたことはたしかだ。しかし、オジエは「グラベルクルーが走ったときと、自分たちが走るときでは、コンディションが全然違った。濡れていると伝えられた路面が凍っているなど、その逆も少なくなかった」と、自身の推測能力と対応力にかなり頼った運転であったことを隠さない。そして、それこそがオジエが冬山の王であり続けた強さの理由である。


 昨年のモンテカルロでは、ヤリスWRCとのキャリブレーションがまだ充分ではなく、選手権を考え、大きなリスクはとらなかった。しかし、イベント数は少なかったとはいえ、その後ヤリスWRCで距離を重ね、同じようにトリッキーなコンディションとなった最終戦モンツァで堂々優勝。オジエはヤリスWRCを完全に自分のモノにしたと言える。

優勝を飾ったセバスチャン・オジエと今季からチームを率いるヤリ-マティ・ラトバラ代表(TOYOTA GAZOO Racing WRT)
2位フィニッシュのエルフィン・エバンス(トヨタ・ヤリスWRC)


■8度目の王座を狙うオジエ。山場は次戦のスノーラリー


 ただし、不安要素がなかったわけではない。今年からタイヤがミシュランからピレリに変更となったが、そのテストを充分に行うことはできなかった。また、直前の重要なテストでは大クラッシュを演じ、テストメニューをこなせなかっただけでなく、コ・ドライバーのジュリアン・イングラシアが負傷するなど、不安を残してのモンテカルロ出場となっていた。


 しかし、ラリーが始まってみればブレーキの不具合でタイムを失った序盤の2本、出走順が後方となり、前走車によってアイスバーンがさらにツルツルに磨かれたステージ以外では、全盛期に見劣りしない速さを発揮した。今大会は全部で14本のSSが設定されていたが、オジエはその半分以上にあたる8本でベストタイムを記録。遅れてもすぐに次のSSで取り戻す底力を何度も発揮した。比較すれば、今回はエバンスのほうが消極的であり、彼は「セブには太刀打ちできなかった」と素直に負けを認めていた。


 対するヒュンダイ勢はどうだったのだろうか? まず、昨年の勝者ヌービルは、直前になって長年ともに戦ってきたベテランのコ・ドライバーと関係を解消。若手と組むという大胆な決断を下した。実際、新ペアのコンビネーションが機能するまでにはやや時間がかかり、彼は大きく後れた。昨年のモンテカルロで宙を舞う大クラッシュを演じたオット・タナクはスピードがイマイチだったうえに、大事な局面でタイヤを2本パンク。サービスパークに戻れず、リタイアに終わった。


 今季開幕前の本誌でのプレビューで、タナクとヒュンダイi20クーペWRCの相性はあまり良くないのではないかと予想したが、今回もタナクはミスが多く、トヨタ時代のような盤石さは感じられなかった。そして、スポット参戦の3台目、ダニ・ソルドも序盤はまったく速さがなく、早々に優勝争いから脱落。見せ場を作ることなく、何とか総合5位でラリーを終えた。


 さらに厳しい戦いとなってしまったのはMスポーツ・フォードで、スポット出場ながらチーム内でもっとも速さがあるテーム・スニネンがいきなりSS1でクラッシュ&リタイアに。残ったもう1台を駆るガス・グリーンスミスはまだまだ成長過程にあるドライバーであり、総合8位に入るのがやっとだった。


 以上のように、今年のモンテカルロではトヨタ勢、とくにオジエの速さが抜きん出ていて、実質的にライバルはいなかった。オジエの勢いがどこまで続くのか。次戦は急きょカレンダーに加わったスノーイベントの『アークティック・ラリー・フィンランド』。


 昨年、スノーラリーでオジエはチームメイトふたりの後塵を拝したが、もしスノーラリーでもオジエが速ければ、彼とヤリスWRCのシンクロ率は100%に近づいたと言える。雪煙の向こうには8回目の、そして最後の王座がくっきりと見えてくるかもしれない。

今季は若手コ・ドライバーとコンビを組むティエリー・ヌービル(ヒュンダイi20クーペWRC)
厳しい戦いとなってしまったMスポーツ・フォード


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