【内田雅也の追球】「どうどうどっこ」の敗戦
2025年3月31日(月)8時0分 スポーツニッポン
◇セ・リーグ 阪神0—2広島(2025年3月30日 マツダ)
阪神の今季初黒星、そして新監督・藤川球児にとって、初めての敗戦だった。大切なのは負けた後だとみている。
「勝った負けたとさわぐじゃないぜ あとの態度が大事だよ」と水前寺清子が『どうどうどっこの唄(うた)』で歌っている。「どうどうどっこ」は「堂々と立つ」という意味らしい。『いっぽんどっこの唄』もあり、こちらは「一本立ち」といった意味だ。
藤川は平然としていると思っていた。何しろ「感情で揺れ動かないチームを目指す」と宣言している。自ら勝敗に一喜一憂などしないだろう。
敗戦後、ベンチ裏で報道陣に囲まれた藤川は「まだ始まったばかりですから」とやはり平然としていた。そして堂々と立って話した。「どうどうどっこ」だったわけだ。
試合内容とすれば、よく最後まで僅差を保っていた。先発の門別啓人は5回1死まで投げ、毎回の8安打を浴び、3四球を与えながら2失点と試合は壊れなかった。
だから8回表無死一、三塁が訪れた時、藤川は「待っていたチャンス」と感じ「よくゲームが生きた状態で持ちこたえていた」と話した。反撃はならなかったが「粘り」「しのぎ」をたたえた。
3回裏無死一塁で二俣翔一に11球(四球)、4回裏先頭の秋山翔吾に12球(四球)と広島の打者に粘られ、実に111球を投げさせられた。
それでも最少失点ですんだのは本人の踏ん張りに加え、梅野隆太郎のリード、守備陣の堅守があったからだ。
1回裏は4番の新外国人エレフリス・モンテロを外角フォークを引っかけさせ遊ゴロ併殺打にとった。3回裏は二塁走者を梅野が好送球で刺した。4回裏は佐藤輝明が三遊間寄りをさばいた。5回裏は左前適時打の際、中継プレーで二塁オーバーランの走者を刺した。
ピンチでも粘り強く、余分な失点を与えない懸命な防戦だった。
試合中の気温は8〜9度。2月下旬並みの寒さだった。高卒3年目の左腕はよく投げた。
「すべる ころがる 立ち上がる 歩く たおれる また起きる」と先に書いた『唄』にある。
長い143試合のシーズンはまだ3試合。開花した桜も、まだつぼみの桜もある。3月の戦いを終え、4月にまた歩き出すのである。
=敬称略= (編集委員)