ジェントルマンドライバー木村武史がELMS、そしてル・マンへ挑む「将来に繋がれば」

2022年4月8日(金)9時45分 AUTOSPORT web

 2022年、スイスのケッセル・レーシングからヨーロピアン・ル・マン・シリーズ(ELMS)、そしてル・マン24時間への参戦が決まった木村武史。ル・マンには2019年から3年連続出場を果たし、年々タイムも向上してきたが、ここ2年はトラブルにも泣かされている。そんな木村が2022年の参戦を果たすまでの経緯を聞いた。


 会社経営者でもある木村は、クルマ好きが高じモータースポーツへの挑戦を開始。2015年に自らのチーム『CARGUY Racing』を興し、さまざまなレースに参戦。2019年にはAFコルセと組み、自チームでのル・マン挑戦を果たした。


 2021年にはケッセル・レーシングからアジアン・ル・マンに参戦。ヨーロッパから多数のエントリーがある高レベルのシリーズながら最終戦で優勝も飾り、さらにル・マンにも挑戦を果たしている。


 そんな木村は、2022年に向けて自チームでの参戦を計画していたが、近年はレギュレーション変化にともないエントリー申込が世界中から殺到するなかで、残念ながら実現せず。その後ケッセルからヨーロピアン・ル・マン参戦、そしてさらに、ル・マン24時間出場が決まった。


■ケッセル・レーシングから得たブロンズとしての高い評価
 この一連の流れについて木村に聞くと、「一昨年からケッセルと組んで、ル・マンにも出て、非常に良いパートナーシップを結んでいます。あちらもすごく我々のことをリスペクトしてくれていますね」と語った。


「ケッセル・レーシングのロニー・ケッセル代表は、プロ-プロのラインアップで勝つより、プロ-アマで勝ちたいというのが目標らしいんです。そこでヨーロピアン・ル・マンやル・マンなど、長距離レースを戦うにあたって、白羽の矢が立ったのが私でした。ぶつけない、ペナルティをもらわない、平均的にスピードがある、ミスをしないというところが評価されたのだと思います」


 当然、LM-GTE Amクラスはブロンズ、シルバー、ゴールドが組み戦うことから、ブロンズのスピードが成績を大きく左右する。ケッセルからの評価は「バジェットも通常のジェントルマンが参戦するよりも安い値段でやってくれていると思うんです。聞いたらビックリするくらいだと思いますよ(笑)」というから高い評価なのは間違いない。


「WECもレギュレーションが変わり、今後GT3が出られるようになったり、ハイパーカーやLMDhのレギュレーションになってきたこともあり、参戦希望が殺到しているんです。そこで敷居が高くなっている。当初はCARGUY Racingとして参戦を出しましたが、残念ながら弾かれてしまいました」と木村は参戦に至るまでの経緯を語った。


「では次にどうしよう……となったときに、ケッセルからのアドバイスとしては、やはり名門で、長年ACOのレースに貢献してきたチーム、ドライバーが評価されると。そうすると、まだCARGUY Racingでは実績がない。そこで、ELMSに申請することにしたんです」


 LMP2をトップカテゴリーに、ル・マン規定で争われるELMSはル・マン24時間の出場枠もあり、WECに参戦できないチームが数多く参戦する。そこで、ケッセルと木村はELMSにエントリーした。


「来年、ル・マン24時間は100周年なのですが、ELMSはクラス上位3チームが出場できる。やはりそこもエントリーが殺到しているので、ケッセルから今季出場した方が良いだろう……ということで申請を出しました。そうしたら、無事にELMSのエントリーが通ったんです。ケッセルは出場するためにELMSで2台、アジアン・ル・マンで2台を投入するなど、ACO規定のレースを盛り上げる努力を続けてきたことが評価されたのだと思います」

CARGUY Racingとパートナーシップを結ぶ、ケッセル・レーシングの57号車フェラーリ488 GTE Evo
担当スティントを終え、マシンを降りる木村武史(左)


■“狭き門”となりつつあるル・マン/WEC
 2022年はELMSに出場しながらル・マンへの枠を探る一年としたかったケッセルと木村だったが、そこへ「1〜2ヶ月くらい前でしょうか。ACOから『ル・マンに興味があるか』と打診が来たんです」と連絡がきた。当然、ル・マンが最大の目的。「もちろんある」と返信をした。ただ条件もあった。当然ル・マンとしては、レベルが高いチームが欲しい。


「条件としては、私が乗ること、ル・マンに相応しいドライバーとのことでした」と木村はいう。そこで、すでに発表されているとおりプジョーが参戦しなくなったことで空いたミケル・イェンセン、さらに速いシルバーとしてフレデリック・シャンドルフが加わった。


「今回は『特別招待枠』ということなのですが、62台のフルグリッドに対し4〜5台の余りがあったそうで、そこに入れるかもしれないと。ケッセルはWECにも出場しようとしていましたし、アジアン・ル・マンでは私が4連勝を飾った実績もあり、私が乗るなら……と検討してくれました」


「そこからは祈る思いで待っていたのですが、結果的に選ばれたというかたちです。ウクライナ情勢の影響で滑り込んだわけではなく、もともと検討してくれていたみたいですね」


 これまでの木村のアジアン・ル・マン、さらにル・マン24時間挑戦の実績が実ったかたちではあるが、木村の挑戦の紆余曲折を聞くと、いかに100周年、レギュレーションの変化により2023年のル・マンが“狭き門”となっているかが分かる。


「WECもELMSも、いますごく参加台数が絞られているんです。GT3が2023年から使われることになり、今の3〜4メーカーから一気に増えるし、プライベーターも増えます。GTEに比べたらコストも下がりますし、当然みんな打診はしてきますよね。そのためには、今からWECやELMSに出なければいけないんです」


「いま日本ではスーパーGTもスーパー耐久も活況ですが、WECもELMSも台数が多いんです。その意味では同様に、いまアメリカのIMSAも台数がすごいらしいです。参戦申込が受理されないことも多いそうですね」


■その行動力で夢を叶え続ける
 この後、木村は4月9日に渡欧。ポールリカールで行われるオフィシャルテスト、第1戦に向けて挑む。そのため、今季も引き続きコラボレーションし、良好な関係を築いているPACIFIC Hololive NAC Ferrariで参戦予定のスーパーGTは第1戦は参加できず、横溝直輝が代役を務める。今後はコロナ禍の渡航制限次第のところもあるが、8月のスーパーGT第5戦は参戦できないものの、今季は数多くのレースを戦うことができそうだ。


「今年はELMSに出ますが、ヨーロッパでは格式も高いレースですし、そこで実績を残すことができれば将来に繋がると思いますし、3位以内に入れればル・マンにも繋がりますからね」と木村は意気込む。将来、結果がつながりCARGUY Racingとしてふたたびル・マン24時間に出られたならば、日本人ドライバーとともに出たいという意向もある様子。


「海外には速いシルバードライバーが多いんですが、実は日本人ドライバーでもすごく速いシルバーが多いんです。彼らを連れてル・マンにも出てみたいですね」


 このオフには、静岡県小山町の富士スピードウェイ東ゲートそばに、土地5300坪、建物3500坪という広大な新工場を購入した。もともと外資系の大手企業の工場だったが、不動産が本業の木村が取引をまとめ、購入に至った。


「買ったはいいけどどうするんですかね(笑)。物件を見にいって、初めて『大は小を兼ねない』と思いました(笑)。何か今後、イベントのようなものに使えないかな……とも思いますけどね。富士スピードウェイも近いですし、道のアクセスもいいですから」


 とはいえ、これも「ひとつの夢」だと木村は言う。クルマ好きにとって、広大なガレージを所有するのはまさに夢だろう。その行動力で、これまでも数多くの夢を叶えてきた木村。次に叶える夢は、ル・マン24時間の表彰台だろう。

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