【独占】レッズレディース栗島朱里「引退よぎった重傷からの完全復活」インタビュー前編

2024年4月20日(土)14時0分 FOOTBALL TRIBE

栗島朱里 写真:©URAWA REDS

浦和レッズレディースユースでのプレーを経て、2013年より同クラブトップチーム(※)に在籍しているMF栗島朱里。ジュニアユース時代から浦和一筋で、2023-24シーズンのWEリーグでもチームを牽引している。


2021年10月14日、自身2度目となる前十字靭帯断裂(膝の大怪我)。受傷時には現役引退も脳裏をよぎり、およそ1年にわたるリハビリ生活においても多くの困難に直面したが、翌年10月の2022-23WEリーグ開幕節で実戦復帰。その後も再受傷の恐怖と戦いながら試合出場を重ねると、今年3月3日に行われた2023-24WEリーグ首位攻防戦で抜群の存在感を示す(第8節INAC神戸レオネッサ戦。最終スコア1-1)。味方センターバック石川璃音と右サイドバック遠藤優の間へタイミング良く降りパスワークに絡んだうえ、同点ゴールの起点となった。


栗島は3月20日のマイナビ仙台レディース戦(第11節。2-0で勝利)でも同様の立ち位置をとり、相手サイドハーフを釣り出す。これにより右サイドバック遠藤が相手サイドバックと1対1のドリブル勝負を挑めるようになり、同選手のパスを受けたFW清家貴子が先制ゴールを挙げている。直近のリーグ戦で栗島は浦和の勝ち点獲得に大きく貢献した。


まさに完全復活を遂げた栗島に、この度独占インタビューを実施。現役引退が脳裏をよぎったなかで、いかにして自身のメンタルを立て直したのか。また、長いリハビリ生活で得た教訓や学びは何か。これらについてインタビュー前編で語ってもらった。本インタビューの内容が現に膝の大怪我と向き合っているアスリートの励みとなり、あらゆる困難に直面している一般の方々の希望の光となることを願ってやまない(インタビュアー:今﨑新也)。


(※)2021年、三菱重工浦和レッズレディースに呼称変更


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栗島朱里 写真:©URAWA REDS

「生きてきたなかで一番痛かった」


ー2021年10月14日木曜日、栗島選手自身2度目の前十字靭帯断裂に見舞われました。受傷シーンやリハビリ生活の詳細、そしてそのときの心境をお伺いしたいです。


栗島:その週末にサンフレッチェ広島レジーナ戦を控えていて、その日は浦和駒場スタジアム(レッズレディースのホームグラウンド)で練習できる状況でした。ミニゲームをしていて、そのときにルーズボールを取りにいったら他の選手とぶつかって、着地の際に膝が内側に入ってしまいました。(膝の)音が鳴って受傷した感じです。


ー確か、膝の上下がずれる感じでしたよね。


栗島:はい。膝が1回ずれて戻る感覚がありました。1回目の受傷時と様子(感覚)が違ったので、「(損傷しているのは)半月板だけであってくれ」と思ったんですけど、その日のうちに病院でMRI検査を受けて、前十字靭帯断裂と診断されました。翌日の金曜日に手術先の病院へ行き、「月曜日(10月18日)に手術します」と医師から言われたので、心の準備はできずに手術を迎えましたね。


ー1回目の受傷は大学生時代で、夏休みに合わせるため受傷から手術日まで1か月空きました。2回目の受傷時も膝は腫れていましたが、手術できる状態だったということですよね。


栗島:そうです。2回目も膝がすごく腫れていましたけど、(手術自体は)できると言われたので、早いほうがいいかなと。


ー2回目の受傷直後、「サッカーを辞めようかな」とチームのトレーナーへ漏らしたそうですね。


栗島:(損傷したのが)前十字靭帯だったら、もうサッカーを辞めてしまおうかなと。そのときは一瞬そう思いました。でも、病院に行って手術日がすぐに決まると、そんなことを考えている暇が無かったです。そうしたら、もう自分は復帰するしかないんだなと。サッカーを辞めようと一瞬思ったのは事実ですけど、その後はその選択肢は浮かばなかったです。


ー手術が終わり、麻酔が切れた直後が本当に大変でしたよね。


栗島:私が生きてきたなかで、一番痛かったです。1回目のときは下半身麻酔で手術しました。手術中は基本的に寝ていて、時々意識が戻る感じなのですが、下半身の感覚が全くなく、大きい音(手術音)が聞こえるだけですね。2回目は全身麻酔で、手術が終わるまで寝ていたんですけど、目覚めた瞬間から痛くて。


痛くて震えるという経験を初めてしましたね。すぐに看護師さんに訴えて痛み止めを打っていただいたのですが、それが効くまでは本当に痛すぎて……。そのときコロナで(新型コロナウイルス蔓延防止のため)面会無しだったのですが、ひとりで泣きました(笑)。良い大人がこんなに泣くんだと。そのくらい痛かったです。


伊藤美紀(左)栗島朱里(右)写真提供:WEリーグ

「待ってるよ」が支えに


ー手術が終わり、リハビリ生活に入りました。「与えられたタスクをこなすだけの日々で、気持ちは上の空だった」と過去のインタビューで仰っていましたが、一体何が栗島選手をそのような気持ちにさせたのでしょう。


栗島:前十字靭帯を断裂すると、長い期間リハビリしないと競技復帰できない。自分は復帰まで1年でしたけど、何年もかかる場合もあります。すぐに復帰できないのは分かっていましたし、1回目の苦労(リハビリ)も覚えていたので。受傷日から手術日まで時間が無かったので、心の整理がついていなかった部分もありますね。


リハビリも最初は地味なこと(トレーニング)しかできないですし、みんな(チームメイト)は試合をこなしているのに、自分はサッカーをできない。その代わりに長いリハビリが待っているということで、気持ちが入らない。このときは本当に上の空という感じでしたね。


ーそうした状況下で栗島選手の心の拠り所になったもの、支えになったものは何でしたか。


栗島:家族はもちろん、そしてチームメイトですね。松葉杖で歩けるようになった頃、長船加奈選手とか高橋はな選手とか……。いろいろな選手が私のところに来てくれましたし、元気づけてくれましたね。チームメイトのみんなと会うと、本当にテンションが上がります。みんなに会って元気をもらいながら、リハビリをこなしていました。


ー会いにきてくれるだけでも、栗島選手にとって支えになったと思います。チームメイトがかけてくれた言葉で一番嬉しかったもの、支えになったものは何でしたか。


栗島:何年も前のことなので忘れましたけど(笑)、「待ってるよ」とみんな言ってくれましたね。待ってくれている人がいるという事実だけで、自分のサッカー人生終わっていないなと思えましたし、待ってくれている人がいる限り自分は頑張らなきゃいけないとも思いました。


ーそうした大変な状況のなかでも、地味なタスクをしっかりこなせる。人としての強さが感じられるこの栗島選手のパーソナリティーを、私は魅力に感じます。


栗島:1回目のリハビリで、やるべきことをやらないと復帰できないのは分かっていました。若い頃は何も考えずにできたことも、年をとっていろいろな経験をしたことで逆に怖くなった部分はありましたね。逆に言えば(地味なトレーニングを)やっていけば大丈夫というのは知っていたので、ひとつずつこなせたのだと思います。


ー強さとは、メンタルが揺れ動かないことではない。揺れ動いたなかでもやるべきことをやれるのが真の強さだと、私は栗島選手から学びました。


栗島:本当にそう思います。気持ちが上の空のときもありましたけど、やるべきことは変わらないですし、やらない限り競技復帰できる未来はないので。どんな状況でも、やるべきことをまずやる。心が付いてこないときもありますけど、そのときはそんな自分を認めてやるしかない。やるべきことは必ずやるようにしていました。




栗島朱里 写真:©URAWA REDS

医師から受けたまさかの宣告


ー術後4か月の段階で、医師から「膝が曲がっていない(曲げ伸ばしが十分にできていない)」と宣告されました。このとき、栗島選手はどんな心境に陥りましたか。


栗島:実は自分も、(膝の状態が)あまり良くないのかなと感じていました。大腿四頭筋(膝の上の筋肉)は付きやすいはずなのに、元の状態へ一向に戻らない。膝を伸ばしたときにも痛みがある。でもどうしたら良いのか分からない。リハビリがうまくいっていないと思っていたなか、医師から「膝が曲がっていない」と言われて……。分かってはいたんですけど、ショックでしたね。


「もっと早く、誰か教えてよ!」という気持ちになったんですけど、誰かのせいにしたところで何も始まらないし、それが事実なので。そのときに医師から、リハビリの一環としてお米入りの袋(重りになるもの)を毎日膝に乗せるよう言われました。


実はこれ、リハビリの最初の段階で医師から言われていたんですけど、私が忘れていて(笑)。このタイミングで気づかせてくれましたね。そこからはちゃんと、膝に重りを乗せるリハビリをしました。これが本当に痛くて。お米入りの袋を膝に乗せて、何分か経ったらそれを外して膝を曲げ伸ばしする。曲げ伸ばしが終わったら、またお米の袋を乗せる。これの繰り返しです。


これも地味な作業なんですけど、家でやっていたら膝の伸びが良くなりましたし、膝上の筋肉も付いてきました。そこから自信も付きましたね。


(後編に続く)

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