体重超過でも平然の違反戦士が称賛される光景に違和感 井上尚弥の「米国進出に価値はあるのか」を再び考える

2024年4月22日(月)7時0分 ココカラネクスト

敵なしの快進撃を続ける井上がアメリカに行く価値はあるのだろうか。(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext

 違和感は禁じ得なかった。現地時間4月20日に米ニューヨークで行われたボクシングのWBC世界スーパーライト級タイトルマッチ12回戦だ。

 大観衆の眼前で勝ち名のりを受けたのは、挑戦者だった。元WBC世界ライト級暫定王者であったライアン・ガルシア(米国)は、31戦無敗で「難攻不落」と言われた王者デビン・ヘイニー(米国)に判定勝ち。コスチュームの王冠を被って「俺が本当に狂ったと思ったのか」と咆哮し、観客を熱狂させた。

【動画】周囲も呆然のビールをがぶ飲み! 大幅体重超過後のガルシアの「奇行」

 そんな25歳に思わず圧倒された。行ってしまえば、興ざめだった。なぜなら彼は前日計量でリミット140ポンド(63.50キロ)を3.2ポンド(約1.45キロ)もオーバーしていたからだ。

 たしかに試合内容は見事だった。ヘイニーに対して序盤から臆せず、打ちに出たガルシアは、7回、10回、11回と3度もダウンを奪取。主導権を握られる場面をあったが、決定打を許さないパフォーマンスを披露した。

 ただ、どうしても“ケチ”が付く。彼を「勝者」として受け入れていいものか。その想いはガルシアの試合後の言葉と複数の現地メディアの反応を目にし、より強くなった。

 事実か否かは不明だが、ガルシアは試合後の会見で「毎日のように酒を飲み、それでも俺は彼を打ち負かしたんだ」と豪語。さらに「月曜も、火曜も、出かけて、飲みに飲んだ。それでどうなった? 勝ったんだよ」と驚くべき言葉を並べた。

 自身の違反に悪びれる様子もないガルシア。そんな彼の快勝に対して、複数の米メディアは好意的に報じた。

 スポーツ専門サイト『Bleacher Report』は「ファイトウィーク中の意味不明な暴言や、体重超過でプロらしくない味を残した」と指摘しつつも、「尊敬する」と断言。さらに元WBC世界スーパーウェルター級王者のセルジオ・モラ氏は「単なる人気だけでは試合に勝てない。勝つには技術と戦略、そして精神力が必要なんだ」と熱弁を振るった。

「ライアン・ガルシアはすべてを持っている。このヘイニーとの試合に向けては、彼の胆力、勇気を見る必要があり、逆境に立ち向かう必要があった。それでも彼はすべてのテストに合格したんだ」

 繰り返すが、パフォーマンスそのものは見事だった。しかし、体重超過という階級制のスポーツにおいて重大な違反を犯した時点で「尊敬する」と言われるほどの賞賛に値するかは甚だ疑問だ。無論、ガルシアとの試合を了承したヘイニー側にも非はあるが、ガルシアの姿に熱狂していたニューヨークには違和感しか抱けなかった。

 これが「ボクシングの本場」なのか、と。

体重超過を犯しながら、王者を撃破したガルシア。その勝利は異様なものだった。(C)Getty Images

井上がこだわるのは「価値」だ

 ここ最近、ボクシング界では、ある論争が起きていた。それは日本での興行開催を続ける井上尚弥(大橋)に対する疑問がキッカケだった。

 現地時間4月12日に、米ボクシング専門YouTubeチャンネル『ProBox TV』に出演した元世界ウェルター級王者2団体王者のショーン・ポーター(米国)氏が、「ボクシング界で、世界最高のスターになりたいならこっち(米国)での試合が必要だ」と断言。そして、「目指しているゴールが何なのか、それは俺には本当にわからない。でも、ボクシングでは海を渡り、アメリカに来て、アメリカ人を倒して、ファンに注目してもらわなければならないんだ」と言い放ったのである。

 これに様々な反響が相次いだ。米ボクシング専門サイト『Boxing News24』は「イノウエの才能のない無名選手との対戦癖は、彼がアメリカで戦い、レベルの高い相手と対戦しない限り、スターになる助けにはならないだろう」とまで論じた。

 井上の米国進出を強く求める人々の言い分は、おそらく「ボクシングの本場に来て、防衛してこそ一人前」というもの。“米国一強”という考えが強く現れていると言えた。

 そうした意見に対して井上は真っ向から対峙した。自身のXで「アメリカに来て試合をしろと言うコメントに?????」と投げかけ、こうも続けた。

「今や軽量級の本場はここ日本にある。試合が見たいのなら日本に来ればいい。日本のマーケット以上の物がアメリカにあるのなら喜んで行く。それだけの価値がここ日本にはある」

 井上は何よりも「価値」にこだわっている。それは来る5月6日に東京ドームで行われるルイス・ネリ(メキシコ)との一戦に向けた態度からも見て取れる。

 過去に体重超過の違反を犯していたネリに対し、「1ポンドでもオーバーすれば絶対にやらない」(大橋秀行会長談)とした井上側は、日本ボクシングコミッション(JBC)とWBCを通じて、事前計量(30日前、15日前、7日前)とVADAによる抜き打ちのドーピング検査も義務付け。揺るぎない興行を成立させるべく、シビアな条件を求めた。

 そうした井上の言動を考慮しても、現時点で彼がアメリカに行く価値はないのではないかと思えてくる。それこそガルシアのように重大な違反を起こし、問題児たる行動を繰り返そうと、「勝てば官軍」と言わんばかりに称賛が目立つ場に“真価”はないのではないか。

 ボクシングとは何かを改めて考えさせられた。そういう意味では、ガルシアとヘイニーの攻防に価値はあったのかもしれない。

[文/構成:羽澄凜太郎]

ココカラネクスト

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