“慌ただしさ”のなかで得たハイパーカー初勝利。トヨタに発生した問題を技術責任者が説明/WECスパ

2021年5月3日(月)7時20分 AUTOSPORT web

 TOYOTA GAZOO Racingのテクニカルディレクターであるパスカル・バセロンは、新型ハイパーカー『トヨタGR010ハイブリッド』が5月1日にスパ・フランコルシャンで行われた最初のレースで勝利を収め、日本メーカーは歴史的なチャプター・オープニングを主張したにもかかわらず、それはいくつかの問題を伴う“慌ただしい”ものだったと述べた。


 セバスチャン・ブエミとブレンドン・ハートレー、中嶋一貴が駆る8号車トヨタGR010ハイブリッドが2021年シーズンのWEC世界耐久選手権開幕戦で優勝した後、バセロンは6時間のコンテストが技術的な観点から「完全に素晴らしい」レースではなかったことを認めた。


 彼が語った問題は優勝した8号車と今レースのポールシッターとなった7号車の両方に影響を与えた。それは8号車は給油時のエラーによる序盤のペナルティ、7号車ではコーナー入口での再三のロックアップや終盤のシステムリセットなどが挙げられる。


 新しいシャシーとしてスパに到着した7号車は、先週初めに行われたプロローグ・テストで油圧と電気系統のトラブルに見舞われ、走行距離を伸ばすことができなかった。その後レースウイークを迎えた彼らは小林可夢偉のドライブでポールポジションを獲得するスピードをみせたが、土曜日の決勝レースでは厳しい戦いを強いられた。


 その要因のひとつに挙げられるのがフロントタイヤのロックアップ問題だ。これはレース中盤、ホセ-マリア・ロペスのドライブ中に7号車が91号車ポルシェ911 RSR-19(ポルシェGTチーム)に追突するアクシデントを誘発した他、スタートから4時間後に首位を走る可夢偉が8コーナー“ブリュッセル”でコースオフを喫しグラベルにスタックするアクシデントにつながった。


「私たちにとってポジティブだったのは、2台のクルマが最後まで残っていたことだ」とバセロンはレースを振りかえった。


「プロローグの初日に7号車に問題が発生したにもかかわらず、最初のレースの終わりまで2台が揃って戦えていたのは良かったと思う。


「一方、良くなかった点もいくつかあった。とくに最初のピットストップでいくつかの問題が発生した。7号車のエンジンが正常に再始動しなかったのが、まずひとつ」


「もうひとつは8号車の給油が短すぎたため、2回目のピットストップでペナルティを受けなければならなかったことだ」


 そのペナルティは36.5秒のストップホールドで、停車時間は最低給油時間をアンダーカットすることによって得られた時間に4を掛け、さらに5秒を加えたもの。


 ハイパーカーは最後の給油を除くすべての給油タイミングで35秒の最低給油時間が設定され、これに前のスティント使用したエネルギー量を最大エネルギー許容量で割った値が加算される。スパでトヨタGR010ハイブリッドに許された最大エネルギー使用量は964MJだった。

給油作業違反で36.5秒のストップペナルティを受けた8号車トヨタGR010ハイブリッド


■規則を理解していたが、本能的に給油リグを抜いてしまった


「何が起こったのかというと、給油担当者は非常に経験豊富で、10年以上も自動運転のようなものを使ってその役割を果たしてきた。もちろん彼は燃料が上がってくるのを見た後でタイマーを確認しなければならないことを知っていた」とバセロン。


「しかし燃料が上がったきたとき、彼は本能的に給油リグをクルマから引き抜いてしまった。すぐにリグを戻そうとしたが、すでにクルマは(彼の目の前から)消えていたんだ」


 8号車がこのペナルティで序盤のリードを失ったのとほぼ同じタイミングで、7号車はギアボックスのオイルを補充したためピットでの停車時間が伸びた。これによってトヨタの2台はハーフウェイでアルピーヌに先行を許している。


「油圧の低下があったが、この件についてはまだ説明がつかない」とバセロンは述べた。


「(応急処置として)オイルを少し補充し、その後問題は解決した」


 また、7号車はレース中盤から終盤にかけてフロントタイヤのロックアップの問題を抱えた。バセロンはこれについて次のように語っている。


「7号車の前輪ロックは一種の過敏状態にあった。通常はブレーキバランスを調整することができクルマのシステム上、変更が可能だ。原因を分析する必要がある」


■FCY時の素早い判断が勝利を呼び込む


 ある時点までアルピーヌに押され気味だったトヨタだが、WECのディフェンディングチャンピオンチームは戦略でこの戦いに打ち勝った。


 トヨタは可夢偉がレース開始から4時間過ぎにブリュッセルでコースオフを喫してリードを失ったため、2度目のフルコースイエロー(FCY)中に8号車の一貴をピットに呼び戻すことを決断した。一貴をスティントとの途中でピットインさせることで、トヨタは終盤にFCYが出なくとも8号車が残り1回のピットインでフィニッシュまで走れるようにしたのだ。


 当時、首位を走っていたアルピーヌのマシンはあと2回ピットに入る必要があった。


「ハイパーカーの最初のレースで優勝できたことは私たちにとって重要であり、この結果に満足している」と語ったバセロン。


「それは大変なハードワークだった。FCY下で決断した戦略は非常に優れていたよ。私たちは燃費の面でわずかにライバルより利があったんだ」


「それでもレースの最後の部分では、燃料を節約をしなければならなかった。通常は1スティントで25周していたが、戦略変更を受け2回にわたって26周しなければいけなくなった」


「しかし、これによって1回分のピットストップの時間を節約することができた。それが我々が勝利を手にすることができた要因だ。ストラジテストの戦略的な判断が初優勝を呼び込んだのだ」

フロントがロックアップする問題を抱えた7号車トヨタGR010ハイブリッド
TOYOTA GAZOO RacingのトヨタGR010ハイブリッド

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