アビスパ福岡の驕らない若き挑戦者!現役大学生、重見柾斗の素顔

2023年5月20日(土)18時0分 FOOTBALL TRIBE

アビスパ福岡 MF重見柾斗 写真:椎葉洋平

2023明治安田生命J1リーグ、第13節。アビスパ福岡は因縁渦巻くサガン鳥栖とのダービーマッチに挑み、45分以上を11人対10人の数的有利で戦いながら0-0。試合後、スタンドの前を歩く選手たちに送られたのは、拍手とブーイングの両方だった。


さまざまな感情が入り混じる中に、この試合スタメン出場しながらも後半30分に交代となったMF重見柾斗がいた。来2024シーズンからの加入内定が発表され、現在は特別指定選手として福岡に所属する身だ。この重要な一戦で、重見はボランチの一角として75分間にわたりタフな守備、ボール奪取、ボールを受けての展開を冷静に遂行。コンビを組むMF前寛之が数多く攻撃に参加していたことも、重見への信頼を感じさせた。少なくとも筆者を含め、重見への称賛を何度も送る観客にとって、そのプレーは秀でたものに見えた。


激戦から3日後の5月17日。練習後の重見にその感想を伝えてみた。すると、本人から返って来たのは「今までの試合で1番プレッシャーを感じました。正直、ボールと関わることにビビっている自分がいました」という素直な反省の言葉だった。




アビスパ福岡 MF前寛之 写真:Getty Images

ボランチ不足に悩まされてきた福岡


2020年のJ1昇格以降、福岡はトップリーグで3シーズン目を過ごしている。リーグ内での年間予算は下位だが、順位は常にそれを上回る。リーグ屈指の強度を誇るセンターバック陣「アビスパの心臓」ことMF前寛之のほか、ここまで6得点を挙げているFW山岸祐也など、チームの背骨であるセンターラインを中心に優れた選手が揃う。ただし、ボランチの層には、これまで常に不安がつきまとっていた。


5シーズンぶりのJ1となった2021シーズンは、絶対的な存在である前の相棒探しに苦戦。前半戦はMF重廣卓也(現・名古屋グランパス所属)やMF田邉草民、MFカウエ(現・シアノルテ所属/ブラジル)らを併用。夏の移籍市場でMF中村駿を獲得し、前と中村のコンビが確立されてようやく一応の解決をみた。しかし、2人ともがスタメンにいなければ守備の強度は維持できず、層の薄さは否めなかった。


翌2022シーズンも大きなテコ入れとはならず、前と中村のコンビがほぼフル稼働。夏の移籍市場で重廣が移籍、レフティーであるMF平塚悠知の加入はあったものの、体制に大きな変化は起こらず、その後、チーム全体への新型コロナウイルス蔓延や中村の離脱が重なり、第23節から大苦戦。第29節までの7試合で1分6敗と1つの勝利も挙げられず、最終節まで降格の恐怖と戦わなければならなかった。




アビスパ福岡 MF井手口陽介 写真:椎葉洋平

けが人続出のピンチで重見にまわってきたチャンス


危機感のためか今2023シーズンに向け、福岡はこのポジションに明確なテコ入れを実施。前&中村コンビを維持しつつ、期限付きながら元日本代表のMF井手口陽介を獲得。これでボランチは3枚看板になった。田邉や平塚、若手のDF森山公弥などもおり、懸念点はついに払拭されたかに思われた。


ところが井手口は3月4日、移籍後初先発を飾った第3節柏レイソル戦で右足関節外果骨折を負い全治3か月。森山も同月8日のJリーグYBCルヴァンカップ(ルヴァン杯)アルビレックス新潟戦で左膝外側半月板損傷を負い、全治6か月と長期離脱が決定した。


リーグ戦では再び前&中村コンビがフル稼働し、場合によっては田邉が試合終盤を締める形で勝ち点を伸ばすことができた。ただし、ミッドウィーク開催のルヴァン杯までこの2人を起用するのは難しい状況。そんなチームのピンチは、3月31日に特別指定選手となったばかりの重見にチャンスをもたらした。


認定からわずか5日後、重見はルヴァン杯第3節の鹿島アントラーズ戦でベンチ入りすると、後半20分から途中出場。第4節の鹿島戦では初スタメンで初のフル出場、チームも2-1の勝利を飾った。


アビスパ福岡 MF重見柾斗 写真:椎葉洋平

活躍の場はルヴァン杯からリーグ戦へ


4月後半、チームにとって恐れていた事態が起こる。4月23日、J1第9節の北海道コンサドーレ札幌戦で中村が負傷交代。中盤のフィルター役を1人欠いたチームは、第10節の川崎フロンターレ戦で1-3の敗戦。内容としては非常に悪いわけではないが、失点が重なった。その姿に、昨シーズンの勝てない時期が頭をよぎった。


中3日で迎えた第11節FC東京戦。前とコンビを組んだのは、この試合がJリーグ初先発となる重見だった。対戦相手のFC東京やスペイン2部リーグのCEサバデルなどに所属していた経験豊富な田邉らを差し置いての抜擢だった。


重見はこの試合で、ルヴァン杯と同様に落ち着いたプレーを披露。プレッシャーを受けても持ち前の判断力で冷静に展開し続け、決定的なパスも複数供給した。チームはFC東京をわずかシュート2本に抑え、1-0で勝利。重見は好印象だけでなく、走行距離がチーム最多、スプリント回数もチーム最多タイという数字を残した。




アビスパ福岡 MF重見柾斗 写真:椎葉洋平

謙虚な姿勢の若き挑戦者


このパフォーマンスには、福岡サポーターからも高評価が相次いだ。クラブが公式SNSで毎節後募集する「印象に残った選手」投票で、重見が最も票を集めたことからもそれは明らかだった。


それから現在まで、リーグ戦3試合連続スタメン出場。試合を重ねるごとにプロの強度に慣れ、前とのコンビネーションは上昇しているように見える。しかし本人は「今はまだビギナーズラック。怪我人が復帰して、自分が試される」と、客観的に現状を見つめる。


一般に公開された17日の練習後には、キャプテンのDF奈良竜樹と数分間にわたって2人で話す姿が見られ、そのことを重見に問うと「プロというのは個人の戦いで、自分次第でどうにでもできるもの。そのための時間の使い方を教えてもらいました」と語った。それは、奈良の重見に対する期待の表れにも感じられた。


この日は中村、井手口ともに全体練習に参加しており、強力なライバルの復帰は遠くないはずだ。それでも「ポジションを渡したくないという思いはあるか?」の問いに「もちろんあります!」と断言。簡単にポジションを譲る気はないようだ。元日本代表など経験豊富な先輩たちとの真っ向勝負に、来シーズンルーキーとなる21歳が挑んでいる。今後の活躍から目が離せない。

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