GT500決勝《あと読み》:「まともに映像を見れなかった」レース後半と「俺自身は何も変わっていない」ベテラン伊沢の漢気

2018年5月21日(月)10時22分 AUTOSPORT web

 開幕戦の岡山以来となる、ホンダのワン・ツーフィニッシュ。スーパーGT第3戦鈴鹿は、ARTA NSX-GTがポール・トゥ・ウインを飾ったが、ARTAはこの3戦目まで、同じブリヂストンユーザーのRAYBRIG NSX-GTやKEIHIN NSX-GTに比べて、セットアップの遅れが指摘されていた。そこから、ARTAはどのように復活を果たしてきたのか。


 ARTAの星学文エンジニアがこれまでの2戦までを振り返る。


「今年のクルマの開発の方向と、エアロの特性とか去年からの流れ、そしてドライバーの好みと、どっちの方向が良いのか開幕までは探っていた段階で、開幕までにきちんとまとめられなかったという感じはあります」


「開幕前くらいまでは手探りの状態だったのですが、そこからドライバーとも話をして、それを受けて少しずつ方向性を確認しながら、第2戦富士から良くなってきたのかなと思います」


 NSX-GTは開幕前のテストからブレーキング時の挙動、フロント部の跳ねが課題となっていたが、その解決について、星エンジニアはこの3戦でアプローチを変えてきているという。


「まあ、変えたと言えば、変えていますね。セットアップの方向はドライバーの乗りやすいクルマという感じですかね。ブレーキングのスタビリティ、ステアバランスの変化が起こりづらい挙動だとか」


「根本的な部分が改善されていないけど、妥協点はここかなと、根本的な部分の解決を求めるよりも、ドライバーが乗りやすくすることを考えています」


「伊沢(拓也)君と野尻(智紀)君、ドライビングの違いはあるんですけど、根本的な部分での好みは同じで、そこはこの前の富士から、この3戦目で合わせられてきているのかなというのがあるので、結果が残り始めたのかなと思います」と星エンジニア。


■伊沢拓也「僕と野尻の好みをどう表現できるかが分かってきた」


 伊沢も、この3戦でのクルマの感触の変化を語る。


「第2戦はNSXのなかでは良い方だと思っていますし、その流れで今回、セットアップを含めて持ち込んだものが相当、うまくいったという手応えはあります。クルマも去年から今年にかけて大きく変わっているので、僕だけでなくチームもそれを理解して、ドライバーの好みに合わせてもらいました」


「これまでちょっと出遅れたところはあったんですけど、ここに来て、僕と野尻選手の好みをどうしたらクルマで表現できるのかというのが分かってきたのかなと。今年、テストを含めていろいろ走行を重ねてきたなかで、やっとひとつの答えが見えてきたのかなと思います」と伊沢。


 この鈴鹿では持ち込みセットアップ、予選、そして決勝と「車高を1mm変えたかなくらいほとんど変えていないです。持ち込みのセットアップからバッチリでした」と伊沢が話すように、クルマをピンポイントで合わせられたのも、チームとエンジニア、そしてドライバーがそれぞれ同調してひとつの方向に進められた結果なのだろう。


 伊沢自身、昨年まで在籍していたRAYBRIG NSX-GTからARTAに出戻り移籍となり、心に秘めるものがあったに違いない。今年で34歳を迎える伊沢は、スーパーフォーミュラ(SF)でもチームを移籍し、ホンダ陣営のなかではもうベテラン中のベテランとなりつつある。


「チームが変わって、流れが変わるのはこの職業ではよくあることですし、SF、GTといい流れが来ているなかで、今回のようにきちんと結果を出せたということが一番、自分にとって大きなことだと思います」


「ただ、昨年から今年にかけて自分のドライビングがなにか変わったというわけでもないので、いろいろな巡り合わせが良かったなと思います」


 特に気負うところなくレースに臨んでいるが、これまでさまざまな苦労を重ねてきた伊沢の強さか。ただ、今回のレースは相手が昨年まで在籍していたRAYBRIGで、しかもレース後半の相手は伊沢がその実力を誰よりも認める山本尚貴。レース前半を担当して新たなチームメイト、野尻にステアリングを託した後、伊沢はどのような心境でレース後半を見ていたのだろう。


■レース後半は「1回、寝ようと思ったくらい見たくなかった」


「レース後半は残り5周くらいになって、2番手との差が広がってきたところでようやく、映像を見られる状態になりました。それまではもう……映像を見たくないというか、見れないというか」


「ああいう(1秒差以内の接近した)展開だと、自分が走っているとある程度読めるんですけど、相方が走っていると、やっぱりドキドキしちゃう。まともに映像を見れないので、1回、寝ようと思ったくらい見たくなかったです。もちろん、寝れなかったですし(笑)」と、その時の状況を振り返る伊沢。


「RAYBRIGも開幕戦でタイヤ無交換であれだけのスピードを表現していたし、今回のレースに限っていえば、向こうはウエイトハンデが重いので、そういう部分で最後に向こうのペースが落ちたと思いますし、ピットインのタイミングもジェンソン(バトン)よりも僕の方が後に引っ張れたので、そういうほんの少しの部分で勝てたかなと思います」と、勝因を振り返る。


 今年はスーパーフォーミュラでも2戦を終えて予選は4番手、5番手と上位で速さをみせている伊沢。国内最高峰カテゴリーのふたつで存在感を増しつつあるが、本人はどう感じているのか。


「そうですね、今年はSF、GTも走った予選は全部上位に来れています。でも、俺自身は何も変わってないですからね。その時にいいクルマ、いいセットアップの好みに合わせてくれているチームのお陰で、レーシングドライバーは1年でそんなに速くなったり遅くなったりはしないというのが、僕の意見です。自分のことはそれほど心配していませんけど、僕らはそれを結果で証明しなければ続けられない職業なので、そういう意味ではこうやって目に見える形で結果が出せて、ホッとしています」とベテランらしい落ち着きを見せる伊沢。


 それでも、自身のスティントで2番手に10秒のマージンを築きながら、セーフティカー導入で帳消しになってしまった時には「『なんでSC入れるんだ!』と、無線でずっとキレていました(苦笑)」と、レーシングドライバーらしいリアクションをした伊沢。野尻とのコンビは相性も良さそうで、ホンダ陣営としてもRAYBRIG、KEIHINに続く3枚目のカードがランキング上位に来たことで、チャンピオンシップもかなり有利になってきたことは間違いない。


 予選でのNSX-GTの速さといい、野尻、伊沢の躍進と合わせて、今年のスーパーGT500クラスのホンダ陣営の層が、ますます重厚になってきた印象を受けた第3戦鈴鹿300kmだった。


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