【内田雅也の追球】「斗魂」継承の勝負強さ

2025年5月29日(木)8時0分 スポーツニッポン

 ◇セ・リーグ 阪神1—0DeNA(2025年5月28日 甲子園)

 阪神連夜の1—0勝利は11長短打を浴び、4四球を与えながらの零封リレーだった。いかに投手陣がピンチで粘り強かったかがわかる。

 味方の好守もあった。1回表はラモン・ヘルナンデスの横っ跳び好捕、中野拓夢の背中越しの飛球好捕で門別啓人の立ち上がりを救った。2回表は6—4—3併殺。5回表2死一、二塁では中前に抜けようとするゴロを木浪聖也が横っ跳びし内野安打で止めた。7回表無死一塁での遊ゴロ併殺も間一髪だった。

 「投手を信頼していますから」と監督・藤川球児はピンチの連続でも平然と見ていたそうだ。

 「湯浅を休ませたい」と6回表は日本でまだ実績のないニック・ネルソンに託した。1死二、三塁のピンチを背負ったが「開き直ってアウトを取る。リリーフには重要なこと」とみていた。連続遊ゴロで切り抜けた。

 この日は「ミスター・タイガース」藤村富美男の命日だった。1992年、75歳で逝った。もう没後33年になる。

 「猛人」とも呼ばれ、闘志が前面に出た。好機にめっぽう強かった。松木謙治郎が著書『タイガースの生いたち』(恒文社)で勝負強さを書いている。<チャンスで打席に回ると、並の選手は萎縮するなか、藤村は喜んで打席に向かっていった。そして、ここぞと言う時によく打った>。

 そんな性質が今の投手たちに引き継がれているのか。藤村のチャンスでの強さが投手たちのピンチでの強さ。藤川の言う「開き直り」も含め「ここぞ」で勝負強いのだ。

 藤村の座右の銘は「斗魂」だった。「斗」は「闘」の俗略字。「闘魂」の意味である。

 もう一つ。難敵アンソニー・ケイから今季19イニング目でもぎ取った1点。カギは左打者だった。左腕のケイだが、試合前時点の被打率は右打者1割9分8厘に左打者は2割5分だった。右打者は内角に食い込む速球やカッターに外角チェンジアップもあり、苦しい。

 5回裏無死一塁は「バントすら難しい」(藤川)と送りバント失敗の後、左の島田海吏を代打で送り、ボテボテの進塁打が効いた。直後、近本光司が外角スライダーを遊撃頭上、左前に運んだのだ。ケイから放った5安打はすべて左打者が反対方向に放っていた。攻略の狙いが垣間見える。

 48試合目。シーズン3分の1が過ぎ、少しずつ勝負強さが備わってきていた。 =敬称略=

 (編集委員)

スポーツニッポン

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