シーズン前半の苦闘から一転、チャンス射抜いたガスリー。「いいタイミングで勝てたと思う」

2017年8月22日(火)11時2分 AUTOSPORT web

 変転する気象状況と今季初のドライタイヤ2スペック制とが絡み合い、皆にとって未知の要素が急増したスーパーフォーミュラもてぎ戦。そこで初優勝を果たしたのは、今季最注目新人のピエール・ガスリー(TEAM MUGEN)だった。シーズン前半の苦闘から一転、F1候補生でもある大器はホンダのパフォーマンスアップと幸運も味方に、チャンスを確実に射抜いてみせた。


 ガスリーのもてぎ戦は、金曜日専有走行でのコースアウトから始まった。ブレーキトラブルがあったらしく、「僕はパッセンジャーのような状況で、どうにもできなかった」とガスリー。

ガスリーのスーパーフォーミュラもてぎ戦はクラッシュで始まる波乱の幕開け


 他の選手たちが20周前後するなか、ガスリーは初コースで4周しかできずにこのセッションを終える。ここまではシーズン前半の苦闘の延長のように思われた。


 しかし、結果から言ってしまえば、未知との戦いの度合いが増した今回のレースの表彰台を、ガスリー、小林可夢偉(KCMG)、フェリックス・ローゼンクビスト(SUNOCO TEAM LEMANS)といった、海外キャリア中心の選手が占めたのはどこか象徴的だ。


 タイヤに関する充分なデータがなくとも、考えられる範囲で考えて、あとはとにかくいってみる。少し荒っぽい言い方にはなるが、そういうシンプルな野太さが活きるレースウイークだったとはいえるだろう。


「(専有走行のことは)悩んでいてもしかたがないので、気持ちを入れかえて土曜日に臨んだ。初コースだけど、もてぎは自分に相性のいいコースだとも感じていたからね」

決勝レース、ガスリーはミディアムタイヤでのスタートを選択した


 2日がかりになった予選を5番手〜4番手〜4番手(Q1〜Q3)で終えたガスリーは、今季最上位の4番グリッドから決勝に臨む。スタートタイヤをソフトにするかミディアムにするかの判断はほぼ五分五分に分かれることとなるが、予選トップ3がソフトを選んだのに対し、ガスリーはミディアムを選択。


 しかし、これは“上の3人とは逆を行って、展開を突こう”という狙いによるものではなかった。


「また雨になる可能性もなくはなかったけど、朝の予選(Q2〜Q3)が終わった後、僕は決勝が(ずっと)ドライコンディションなら絶対にミディアムスタートだと思った」


「グリッドの周りにはソフトもミディアムもいたけれど、僕は確実にミディアムでのスタートがいいと思っていたんだ。ミディアムの方が気持ち良く走れていたからね」


 もちろんチーム内で綿密な議論はあっただろうが、結果として、理論上の最速ストラテジーうんぬんやライバルの動向に左右されることなく、「ソフトのデグラデーションも分からないから」というなかで自分のフィーリングから得た結論を“決め打ち”できるところに、ある意味では日本ほど緻密ではない(だろう)欧州レース界育ちの強さが感じられる。


 そしてレースでは、可夢偉のピット作業ロスという要素がガスリーにはラッキーだった面もあるが、参戦4大会目(5レース目)にしてスーパーフォーミュラ初優勝を成し遂げた。

ガスリーはスーパーフォーミュラ参戦4戦目で初優勝を手にした


「素晴らしいレースだった。最高にハッピーだよ。チームにはとても感謝しているし、ホンダが素晴らしいエンジンアップデートをしてくれたおかげだとも感じている」


「開幕前のテストでは僕たちは好調だったけど、開幕してからはチームとしても悩むところがある展開だった」


「でも、みんなと一緒に懸命に頑張ってきて、今日ここで優勝という結果を出すことができた。本当に素晴らしいと思う。今後もこういうレースウイークを繰り返していけるようにしたい」


 後半戦仕様へのエンジン切りかえがあった今回のレースに関して言うと、シーズン前半は少し旗色が良くなかったホンダがトヨタにほぼ追いついたといえそうな雰囲気もある。そういった要素もきっちり生かして、ガスリーは初優勝した。


 2016年のGP2(現F2)王者にして次期F1レギュラー候補とも評される彼にとって、ある意味でのライバルは去年の新人ストフェル・バンドーン(当時DOCOMO TEAM DANDELION RACING)だろう。

2016年のスーパーフォーミュラ第7戦鈴鹿レース2を制したストフェル・バンドーン(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)


 バンドーンは2016年に2勝して、2017年はマクラーレン・ホンダF1のレギュラーシートに収まった。しかし、彼は1レース制の250km戦では勝っていない(バンドーンは第5戦岡山のレース1と第7戦鈴鹿のレース2を制した)。


 もちろん勝利の価値は一概に比較できないし、バンドーンの場合もガスリーの場合も、スーパーフォーミュラでの成績が翌年のシートに直結するという立場ではないわけだが、シーズン前半の苦戦でやや輝きを失いかけたガスリーは、これで一気に“成績面での印象点”をクリアしたともいえるだろう。


 レース後、少々無理筋な質問であることを承知で「来季にとって意味をもつ勝利になるか?」と水を向けると、それはちょっと話が違うかな、というような表情を浮かべて笑いながらも、ガスリーは「いいタイミングで勝てたとは思う」と話した。そちらの面でも彼にいい流れが来ることを願いたい。


 次のオートポリスも実戦は初だが、ガスリーはタイヤ開発テストで走行機会を得ており、まったくの初舞台ではない。


「テクニカルで速いコースだ。高速コーナーが多くて、僕の好きなタイプのコースでもある。でも、攻略が難しいコースだと思うね。今回のレースウイークで、こうするといい、こうすると良くない、というようなことの(セットアップ面の)理解も進んだので、オートポリスでも今回と同じようなペースでいきたい」


 残り3大会、ふたたび強い輝きを放ちはじめたガスリーという原石にはこれまで以上に注目すべきようだ。

スーパーフォーミュラ第4戦もてぎを制したピエール・ガスリー(右)と15号車の星学文エンジニア(右)、TEAM MUGENの手塚長孝監督(中央)


AUTOSPORT web

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ