ゼロポッド・メルセデスの真価/楽勝気配のレッドブルに警鐘【後半戦ココだけは抑えたいF1技術トピック(1)】
2022年8月24日(水)13時2分 AUTOSPORT web
新世代F1マシンが導入された2022年シーズンには、技術的観点においていくつか興味深い出来事があった。後半戦を前にした今、主な疑問を取り上げ、F1ジャーナリスト、サム・コリンズ氏に解説してもらった(全3回)。
第1回では、「メルセデスはゼロポッド・コンセプトで成功できるのか」「レッドブルRB18とフェラーリF1-75、残り9戦で有利なのはどちらか」について聞いた。
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■メルセデスはゼロポッド・コンセプトで成功できるのか
メルセデスが2022年シーズン後半戦にどれだけの強さを発揮できるのか。それは最大の未知数といっていい。シーズン序盤は彼らのマシンコンセプトはうまく機能していなかった。W13は非常に乗りづらいマシンで、ジョージ・ラッセルもルイス・ハミルトンもその挙動にずっと文句を言っていた。
バーレーンテストにW13が姿を現した時、そのサイドポッド(というかサイドポッドのないこと)が大きな注目を集めた。メルセデスはイギリスのスペースシップメーカーから得た革新的な冷却システムを採用することによって、多数の冷却類をマシンのセンターラインに移し、従来はサイドポッドに設置する他の冷却類の小型化を図ることも可能になったのだ。
このアプローチは理論的には空力上、大きなアドバンテージをもたらすはずだった。だが、走り始めた瞬間から、ゼロポッドのマシンはひどい空力オシレーション、いわゆるポーパシングに見舞われた。サイドポッドを極小にしたことで、露出するフロアの面積が大幅に増えたことが原因のひとつだ。メルセデスはシーズンここまでを費やして、彼らのデザインをどうすればうまく機能させられるのか理解しようと努めてきた。
モナコGPのころに、シルバーアローはバルセロナでのプレシーズンテストで走らせた仕様、つまりより従来型に近いサイドポッドを持つデザインに戻すことを検討したといわれる。だがチームのエンジニアたちは、上司や同僚たちに対し、今のデザインを断念しないよう説得した。その後、彼らの取り組みはうまくいき始めた。
W13の最新フロアは、各チームが今年の新世代マシンにこれまで導入してきたもののなかで最も複雑な形状をしたものだ。そしてメルセデスはこれからもさらに改善を加えていくと宣言している。コンストラクターズランキング首位から転落したことで、メルセデスはシーズン後半、風洞やCFDにおいて許される作業量が増えていることも有利になるだろう。
このところ、メルセデスW13は実は非常に速いマシンであるという兆候が時折見られるようになった。シルバーストン、ポール・リカール、ハンガロリンクでは、優勝していてもおかしくなかった。メルセデスはこの調子でパフォーマンスを向上させていき、後半戦で、より多くのポイントを獲得する可能性がある。そしてそうなった場合、ある意味皮肉にも、それがレッドブルのタイトル獲得を助けることになるかもしれない。
■レッドブルRB18とフェラーリF1-75、残り9戦で有利なのはどちらか
今年のフェラーリとレッドブルの戦いは実に魅力的だ。正反対の性格を持つマシン同士でありながら、パフォーマンスが非常に僅差なのだ。2022年の技術レギュレーションが発表された時には、この規則ではマシンを開発する上でエンジニアが得られる自由度が非常に小さいと激しく批判された。だが実際にはレッドブルRB18とフェラーリF1-75のデザインにはこれ以上不可能と思えるほどの違いがある。
ふたつのマシンは細かい部分までほとんどすべてが異なっている。最も明白な違いは、サスペンションのレイアウトで、レッドブルはフロントにプルロッド、リヤにプッシュロッドを採用しているが、フェラーリはフロントはプッシュロッド、リヤはプルロッド式という選択をした。
サイドポッドの違いも明らかだ。フェラーリはこれ以上ないほど大きなサイドポッドを備え、レッドブルはサイドポッドをできる限り小さくしようと試みた。
ふたつのマシンは得意とする部分も異なる。フェラーリはハイダウンフォースのサーキットで強く、低速コーナーで一貫して速い。トラクションがよく、パワーユニットが素晴らしい加速を見せるのだ。一方レッドブルは逆に、ホンダ製パワーユニットの力によりトップスピードが極めて高く、低ドラッグのデザインだ。高速コーナーでも際立って速い。データを見るたびに分かるのは、フェラーリはストレートではレッドブルより明らかに遅いが、コーナーでは速いということだ。
総合的に見ると、F1-75が最速のマシンだ。だが、信頼性が非常に低く、その上、チームがレース戦略において何度かひどい失敗をしていることで、ポイントにおいてレッドブルから大きく離れてしまった。
残り9戦、トップ2の戦いはどのような展開を見せるのか。タイヤ選択やピットストップのタイミングでミスをする可能性を今は除外し、ふたつのマシンの純粋な能力だけを考慮して、後半戦、どちらがどのサーキットで有利なのかを見ていこう。
ベルギーとイタリアの高速レイアウトのサーキットでは、レッドブルが強いだろう。同じホンダ製パワーユニットを搭載するアルファタウリにも期待できる。フェラーリはホームグランプリであるイタリアで敗れることになりそうだが、それは如何ともしがたい。しかしフェルスタッペンは、イタリアで勝利を収める代わりに、母国のザントフォールトでは敗北を喫する可能性がある。このサーキットのツイスティなレイアウトは、フェラーリとの相性がいいはずだ。
ヨーロッパラウンドが終わった後、シーズン終盤戦ではエンジンペナルティあるいはギヤボックスペナルティがトップ2チームの争いに影響してくる。フェルスタッペンはすでに今シーズン中に許される最後のトランスミッションに達しており、シンガポール・マリーナベイのストリートサーキットは彼のマシンにとって厳しいものになるかもしれない。その上、このレイアウトはフェラーリの方に有利だ。従って、レッドブルはここで大きなペナルティを消化してしまうという決断をする可能性がある。ここでパワーユニットを交換してしまえば、日本GPの鈴鹿では最新のホンダパワーユニットで戦えることになる。鈴鹿はレッドブルとの相性がいいが、フェラーリはセクター1で強さを見せるだろう。
アメリカCOTAとブラジル・インテルラゴスは、レッドブルとフェラーリのどちらかが圧倒的に有利ということはないので、かなりの接戦となるだろう。標高が高く、ハイダウンフォースレベルのメキシコシティでは、フェラーリの方がわずかながら勝るかもしれない。
そして最終戦アブダビGPだ。ヤス・マリーナはフェラーリが圧倒的に強いだろう。シーズン終盤には、サマーブレイク前ほど2チームのポイント差が大きくはなくなり、接戦になっていることを期待する。