MotoGP:宇川徹×青山博一対談。日本人は今の最高峰クラスで戦っていけるのか?

2017年9月12日(火)18時49分 AUTOSPORT web

 2018年から中上貴晶がLCRホンダから参戦することが発表され、4年ぶりに日本人MotoGPライダーが誕生することになった。果たして日本人ライダーは今の最高峰クラスで通用するのか、また中上に続く日本人ライダーは今後現れるのか。HRC(株式会社ホンダ・レーシング)で若手ライダーの育成に関わっている元GPライダーの宇川徹氏と青山博一氏のふたりが語った。


☆  ☆  ☆  ☆


−−最高峰クラスには4年間日本人ライダーが参戦していませんでしたが、近年のMotoGPを見ておふたりはどう感じていましたか?


宇川:日本人が居なかったので寂しかったですよね。なので2018年から中上選手が参戦するということで、また見どころも多くなるし、同郷の日本人として応援したいです。僕が乗ってた2002年〜2005年、その時代と比べたら今の最高峰クラスは全然違いますよ。まず馬力がかなり上がっているのと制御関係。僕らの時代は60度なんてバンク角は考えられなかったんですけど、今はもう当たり前ですし。


青山:宇川さんと一緒に走っていたベテランライダーが今も活躍していて優勝することもあれば、2016年にスズキからヤマハのファクトリーチームへ移籍した(マーベリック・)ビニャーレスといった若手ライダーも開幕戦から優勝したりしています。今までは勢力が偏っていて勝つ選手が決まっているところがありましたけど、今シーズンはいろいろな選手やメーカー・チームが優勝しているので、今まで以上に面白い展開が多いですよ。


−−もし自分が現役時代のままで、今のMotoGPマシンに乗っておふたりが勝負すると考えたら、どちらが勝つでしょうか。


宇川:それは僕のほうが速いですよ(笑)。


青山:勝てないっす(笑)。宇川さんはバレンティーノ(・ロッシ)に勝ってるんですから。2002年の第2戦南アフリカグランプリで、王者だったバレンティーノと“ガチバトル”をして、最後は逃げ切って優勝したレースが今でも印象的です。


宇川:でも博一は世界チャンピオンになってるからね。やっぱりそこはすごいよ。


青山:たまたまです。たまたま……。


宇川:いやいや、羨ましいよ。僕は結局ランキング2位、3位くらいにしかなれなかったし、チャンピオンだけは獲れなかったからね。

どちらが速いか?という質問で盛り上がる宇川氏と青山氏


■中上は大排気量のマシンが合っている


−−2018年は中上選手が最高峰クラスに昇格して戦っていきますが、中上選手の昇格が決まった時はどのような心境でしたか。


宇川:やっぱり嬉しいですよ。日本人がMotoGPでちゃんと走れるというのは。中上選手は、大排気量のバイクは結構向いてると思うんです。すでにMotoGPマシンに乗ったりしているんですけど、それなりのタイムで走ってますし、あとスーパーバイク、鈴鹿8耐で1000ccのマシンに乗ってもちゃんと扱いきれているので、そういう意味では中上選手は大排気量のマシンで結構走れるんじゃないかというのはありましたね。


青山:宇川さんの世代、僕の世代ときて、そのあとMotoGPクラスに日本人選手が居ませんでした。今回、中上選手がせっかく掴んだチャンスなので、最高峰クラスで彼のベストな結果を残して、全力で戦っていい成績を収めてほしいです。個人的にも応援してますし、「頑張って!」という思いでいます。


宇川:やっぱり最高峰クラスに日本人が誰も居ないんじゃ“高嶺の花”だしね。近年は、MotoGPを夢だったり目標としていてもたどり着けない雰囲気だったのが、こうやって日本人が参戦します。そこで成績を残していけば間違いなくこれからの若い世代がMotoGPを目標にできますから。


青山:そうですね。二輪のモータースポーツ全体としてみると、世界選手権はヨーロッパの選手が主体というところがあって、アジア人は少し入りづらいところがありました。そういった経緯もあって(日本人選手の参戦に)間が空いていたりというのがあるのですが、彼はそれを開拓していくひとりになると思っています。彼に続く人が入っていきやすいように、アジア人としてMotoGPでの地位を確立してほしいです。

宇川徹氏


宇川:僕らの時代でも岡田(忠之)さんとか伊藤(真一)さんといった先輩ライダーが250ccクラスから最高峰の500ccクラスに上がっていくという道があったんですよ。その人たちが一線を退くと最高峰クラスへ上がれるような。そういうステップアップの仕組みを、今回、中上選手が作ったので、また日本人が最高峰クラスに行くかもしれませんし、ステップアップできるんだという希望にも繋がると思います。


青山:宇川さんも僕も、今はイデミツ・アジア・タレント・カップというアジアの若手ライダーを育成するプログラムに関わっています。対象となるのは日本人だけでなく、タイ、マレーシア、インドネシア、トルコなどの若手ライダーで、車両はNSF250Rのワンメイク。成績の良かった選手はスペイン選手権に行って、その次はMotoGPのMoto3クラスへ行きます。僕らがやっている若手育成から世界の頂点までつながる形がようやくできてきたので、中上選手にはみんなが目標として目指す人になれるような成績を残してほしいですね。


■育ち始めている若手ライダーたち


−−世界選手権で活躍しているのはヨーロッパの選手が大半を占めていますが、このなかで日本人ライダーが最高峰クラスで戦っていけるのか? おふたりの考えを聞かせてください。


宇川:僕は戦っていけると思いますけどね。実際、日本人のタレントが少ないのは間違いないと思いますよ。僕らが走っていた時代はトップ選手たちが多くて、頂点に行く人の枠も多くありました。でも今はその枠が小さいので、頂点に行くことが難しくなっています。ですが、中上選手や、今Moto3クラスで走っている若い日本人もいます。そういう選手が少しずつ上がっていければ、まだまだ可能性はあると思いますね。

青山博一氏


青山:アジア・タレント・カップが始まってから5年経って、卒業した選手が今年、MotoGPのMoto3クラスに出場していて、少しずつですけど、アジア人が上のクラスに上がっています。明らかにタレント性がある選手たちがステップアップしているのですが、今すぐパっと花が咲くかというとそうではなくて、もう少し時間がかかると思っています。そういった選手たちの花開くようにサポートしていって、しっかりと実になるようにしてあげれば、日本人がまた活躍する日も来ると思います。それをお手伝いすることが僕らの役割だと思っています。


宇川:今は、全日本のJ-GP2とMotoGPのMoto2はまったく違うマシンになってしまっているんですね。僕らの時代は、250ccクラスや500ccクラスが日本にあって、世界選手権にも同じクラスがある。そういう意味で直接のつながりがあったのですが、今はそういうのが無くなってしまいました。ですが、博一が話しているアジア・タレント・カップから上に上がっていく、アジア人タレントはどんどん育ってきているんです。レッドブル・ルーキーズ・カップのオーストリア戦では、日本人が表彰台を独占しましたしね。そのなかから、またMotoGPへと上がっていく選手が出ていってくれるんじゃないかなと思ってます。だから希望はあるし、また最高峰クラスの表彰台で君が代がたくさん聞ける日が来ますよ。


−−では最後に、2017年シーズンのMotoGP日本グランプリ。その見どころはどんなところでしょうか。


宇川:去年はちょうどもてぎでMotoGPのチャンピオンが決まったので、そういった意味ではホンダのお膝元で、(タイトル獲得の)可能性の高い(マルク・)マルケスにチャンピオンを決めてもらいたいなと思います。今シーズンはすごく混戦なので、チャンピオン争いも最後までもつれると思うんですけど、今年は近年まれに見る接戦で、ファンの方もポイント差が少ない方が誰がチャンピオンを獲るのかなどハラハラするので面白いと思います。


青山:宇川さんと同様に、やっぱりツインリンクもてぎはホンダの地元なので、マルクとダニ(・ペドロサ)にチャンピオンを決めてほしいですね。それと日本グランプリは日本人の選手がワイルドカードで何名か出場すると聞いているので、そういった日本の選手たちがMotoGPで活躍する姿も見てほしいですね。


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 日本グランプリでチャンピオン誕生はあるのか。Moto2クラスでのラストランとなる中上は日本グランプリで優勝することができるか。MotoGP日本グランプリは10月13日〜10月15にツインリンクもてぎで開催される。


■宇川徹


1973年千葉県生まれ。幼少のころからポケバイに慣れ親しみ、18歳にはホンダのワークスライダーとなった。その後、1993年、1994年と全日本ロードレース選手権GP250クラスでチャンピオンを獲得。1996年からは戦いの場を世界選手権に移す。250ccクラスの4年間を経て、2001年には最高峰クラスであるMotoGPクラスに昇格。2002年にはバレンティーノ・ロッシとのテール・トゥ・ノーズのバトルを制し、第2戦南アフリカGPでクラス初優勝を飾る。この勝利は、最高峰クラスにおける日本人初の優勝でもあった。また、鈴鹿8耐でも活躍し、優勝回数5回という鈴鹿8耐最高優勝回数の記録を持つ。2006年に現役を引退。現在はHRCの研究員として働いている。


■青山博一


1981年千葉県生まれ。ミニバイク、モトクロス、ダートトラックなどの経験を経て、18歳のときに名門ハルク・プロに入門、同時に全日本ロードレース選手権に参戦を開始する。2003年に全日本GP250クラスでチャンピオンを獲得すると、翌2004年から世界選手権250ccクラスに参戦をスタート。参戦から6年目の2009年、250ccクラスとして最後のシーズンとなったこの年に、チャンピオンを獲得。世界選手権250ccクラス最後のタイトルホルダーとなる。翌2010年からは最高峰クラスであるMotoGPクラスにステップアップ。途中スーパーバイク世界選手権への参戦もはさみながら、2014年までフル参戦を続けた。現在はHRCのテストライダーを務めるほか、イデミツ・アジアタレントカップのアドバイザーを担っており、若手ライダーの育成に注力している。


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