トヨタ3台目は理想の相補関係。マシンだけでなくドライバーにも注目のWRC“ラリー1”初年度

2021年10月13日(水)14時56分 AUTOSPORT web

 2022年WRC世界ラリー選手権の各チームの参戦体制が“ほぼ”固まった。TOYOTA GAZOO Racing WRTは、エルフィン・エバンスとカッレ・ロバンペラが残留し、セバスチャン・オジエはフルシーズン参戦を今季限りで終了。来季は3台目のヤリス・ラリー1をエサペッカ・ラッピとシェアすることになった。


 オジエが何戦、どのラリーに出場するのかについては後日発表される模様だが、普通に考えれば、ドライバータイトル獲得を狙うことはない。今季も第10戦フィンランド終了時点でドライバー選手権首位。総合力はいまもWRCトップなだけに惜しい気がする。


 オジエは選手権リーダーとして長年グラベルラリーで不利な1番手スタートを担い、シーズン中盤のグラベル戦では常にストレスを感じながら戦ってきた。選手権を追わないとなれば、スポット参戦のグラベルラリーでは、有利な遅い出走順からスタートできる。出るラリーすべてで有利に戦い、優勝回数をさらに増やしたいと考えているのだろう。


 シートをオジエとシェアするラッピは、2017年にトヨタがWRCに復帰したときのオリジナルメンバーで、その年のフィンランドでヤリスWRCに2勝目をもたらしたドライバーだ。その後、シトロエンに移籍したが、失敗作と言われるC3 WRCに手を焼いて低迷。今年はWRカーのシートを得られず、ラリー2(旧R5)でスポット出場していた。今年10月のラリー・フィンランドで久しぶりにヤリスWRCを駆り、4位フィニッシュ。一応、プライベート出場というかたちだったが、実際はクルマもチーム体制も完全なワークスで、テスト出場的な意味合いが強かったように思われる。


 オジエとラッピのペアリングはかなり理に適った采配だ。最近のオジエはハイスピードのラリーではあまり奮わず、直近のフィンランドだけでなく、エストニアや冬のフィンランド戦でもいい結果を残せていない。出走順の不利を考慮しても、チームメイトやライバルに速さで劣ることが多かった。一方、路面コンディションが安定しないトリッキーなラリーやスピードレンジが高くないラリーでは依然として超一流の強さを示す。


 ラッピはオジエとは対照的に超高速ラリーを好み、テクニカルなラリーでは改善の余地がある。つまり、マニュファクチャラー選手権を戦ううえではふたりは補い合える関係にあり、オジエは出走順のハンデからも逃れられるということで、非常に興味深いラインナップだ。

2022年シーズンのWRCに参戦するTOYOTA GAZOO Racing WRTのドライバーたち。左からエルフィン・エバンス、カッレ・ロバンペラ、セバスチャン・オジエ、エサペッカ・ラッピ


 ヒュンダイ・モータースポーツは、すでに発表されていたティエリー・ヌービルとオット・タナクの残留組に加え、3台目のマシンをベテランのダニ・ソルドと、元世界王者ペター・ソルベルグの息子オリバー・ソルベルグがシェアすることになった。


 ソルドとの関係継続は手堅く妥当だが、若きオリバーの採用はリスクを含む。たしかに速いが、最近のラリーを見ても確実性をかなり欠いているからだ。もっとも、ヒュンダイはそれを分かったうえで、オリバーを次のスタードライバーに育て上げようとしているはず。ガチガチのマニュファクチャラー選手権狙いから、少し舵を切ったように思われる。


 オリバーの前任的立場だったクレイグ・ブリーンはMスポーツ・フォード・ワールド・ラリーチームのレギュラードライバーに抜擢された。これはブリーン、チーム双方にとって望ましい関係と言える。過去3年間、ヒュンダイのスポット要員だったブリーンはi20クーペWRCで出場した9戦中4戦でポディウムに立っている。本人は「フル参戦すればもっと活躍できる」と常々アピールしていたが、Mスポーツがそれに応えた格好だ。


 ブリーンはすでにヒュンダイを離れ、フォードの次期マシン、プーマ・ラリー1をテストしている。Mスポーツのほかのドライバーについてはまだ正式に発表されていないが、今年も才能の片鱗を見せたアドリアン・フルモーがセカンドを務める可能性が高い。経験はまだ足りていないが、彼もかなりの才能を秘めたドライバー。来季のMスポーツは活躍に期待できる。


 以上のように、ハイブリッドカーのラリー1初年度である来シーズンは、クルマが新しくなるだけでなく、各チームのドライバーの実力均衡化も進み、非常に興味深いシーズンになりそうだ。


※この記事は本誌『オートスポーツ』No.1562(2021年10月15日発売号)からの転載です。

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