WEC:ワークス独占から次世代へ。”LMP1戦国時代”に向け挑戦者たちが始動

2017年10月19日(木)16時33分 AUTOSPORT web

 ハイブリッド車両のLMP1-Hと非ハイブリッドのLMP1-Lの統合や、ウインターリーグ制への移行措置として採用される2018/19年という長きにわたる、変則”スーパーシーズン”の導入など、過渡期に入ったWEC世界耐久選手権。アウディが去り、ポルシェも退場を表明した今、その新生LMP1という新たな戦場に向け、挑戦者たちが続々と動きを見せはじめている。


 現時点では細部のディテールが確定していないものの、FIA国際自動車連盟とACOフランス西部自動車クラブは来季以降のトップカテゴリー向けテクニカルレギュレーションの方向性を示しており、現行のLMP1規定を統合しハイブリッドもノン・ハイブリッドも性能調整の元に同等のパフォーマンスレベルに揃える措置を取ると明言。


 これにより、現状変更なしのシャシー規定と合わせて、ハイブリッドはもちろん、ターボや自然吸気、ディーゼル、そしてフルEVなど多くのパワーユニット選択肢が考慮可能となる。


 FIAとACOの最大の狙いは、膨らみすぎたLMP1開発・参戦コストの抑制だが、このルールがもし費用対効果の改善につながるのであれば、参戦を検討すると発言するコンストラクターが数多く存在している。


 マクラーレンを率いるエグゼクティブディレクターのザック・ブラウンは、「WECはリセットボタンを押す機会があると信じている」と発言し、かつてのポルシェ956や962の時代のように、マニュファクチャラー系のワークスチームと、プライベーターチームがともに勝利の可能性を賭けて戦うことができる時代の復権を希望する、と語った。

1995年にル・マンGT1初年度を関谷正徳とともに制したマクラーレンF1は、最終的にF1 GTRまで進化(写真は1997年)


「この数年、ハイブリッドLMP1によりトップカテゴリーのコストは信じがたいほど上昇した。しかもメーカーはそのコスト上昇に見合った対価を得ていないように感じられる」とブラウン。


「ローコストで高いレベルのコンペティションを実現し、誰にも勝利の可能性を開いたLMP2の精神を思い出せばいい。それをLMP1にも適用するんだ。ちょうどIMSAのDPiみたいにね」


「可能なら我々マクラーレンとしてもル・マン24時間に”復帰”することを望んでいる。500万ドル(約5億6000万円)のLMP2に対し、20倍のコストを必要とする現行LMP1にその価値はなく、もし彼らがDPiのような精神に立ち戻り(新生LMP1が)2000万ドル(約22億6000万円)で戦えるというなら、我々は非常に興味があるよ」


 同じくイギリスを拠点に活動し、2007年から2014年までアキュラとHPDのために製作したプロトタイプ・スポーツカーで成功を収めたR&D企業、ワース・リサーチもプライベートLMP1マシンのデザインで国際的スポーツカーレーシングの表舞台への復帰に取り組んでいる。

2009年にアキュラ「ARX-02a」でタイトルを獲得するなど数多くの戦績を残すワース・リサーチ。2012年にはニッサンにスタディの提案も行った

CFD設計の優位性を主張するニック・ワース。マノー、マルシャのF1時代にもそれを貫いた


 創業者であり代表を務めるニック・ワースは、2019年のWECシーズンに向けノン・ハイブリッドP1マシンの開発に着手していることを明かし、「いくつかのファクトリーチームが去った今、我々の持つクローズド・スポーツカーの豊富なノウハウを活用して、何か面白いことを始めるべきだと考えた」と語っている。


「さまざまなパワープラントを見て評価し、ルールを解析して何が可能かを見極めなければならない。我々は競争力のあるものをグリッドに並べられる……と感じない限り実行に移すことはない。我々のビジネスモデルは、ジネッタがやっているようにシャシーだけを製作して誰かに販売する、というものではないからね」とワース。

新型LMP1の風洞実験を開始したと発表したジネッタ
P2のデザインを下敷きにした新型ジネッタLMP1は、すでに3台を受注したという


 同じくイギリスのリーズに拠点を構えるジネッタは、まだ販売先を明かしていないものの、すでに3台のLMP1を受注したと発表。初期生産では10台の製作を計画し、すでに6台が販売可能な状態のローリングシャシーとして完成しているという。


 また、前出のワースが希望する形態に「よく似ている」と自身が認めるのが、ロシアのBRエンジニアリングとSMPレーシングをパートナーに迎え、LMP1マシン製作に取り組むダラーラだ。


 すでに彼らは”BR1″と名付けられた新型LMP1マシンのシェイクダウンテストを実施しており、プライベーターのSMPレーシングが2018/19″スーパーシーズン”からの参戦を目指している。


 最終的なマシンの仕様は規定が確定する時期に左右されることとなるが、来年1月にはフィックスし、希望する顧客への販売を行う用意があると、BRエンジニアリング代表のボリス・ローテンバーグは説明する。


「WECシリーズ(FIAやACO)は、我々がグリッドに並ぶ後押しをしてくれるだろう。望むなら、このマシンと同じものを顧客に販売する用意があり、モディファイに対応することもできる」

早くからLMP1参入の計画を明かしていた、ロシアのBRエンジニアリングは先日シェイクダウンを完了


 そして同じくイギリスのエンジン製造メーカーであるジャッドは、ノン・ハイブリッドLMP1ユーザーに向けた72°のバンク角を持つ新開発V10エンジンの設計製作を表明。


 この5.5リッターの自然吸気V10は、日本のデザイン企業であるAIMとの共同開発で以前の汎用ジャッドよりシリンダーブロックの大幅な軽量化を実現。全く新しい燃焼室形状とピストンを採用しているという。


 さらに、そうした動きと異なる方向からアプローチを見せるのが、オープンソースのプロジェクトとして予てからスポーツカー耐久のプランを発表してきた英国のペリンだ。


 活動実態をWEB上のオープンソース・ネットワークに置き、設計開発者集団として技術ソリューションを提供するペリンは、過去にもプロトタイプ・カテゴリーの車両設計を幾度かアナウンスしてきたが、今回10月17日にアナウンスされた「プロジェクト424」と呼ばれるマシンは、既存のシャシー設計を活用しながらも完全に”エレクトリック”とされている点が新しい。


 この特徴的なプロジェクトでは、ル・マンを筆頭にニュルブルクリンク、ポールリカール、COTA(サーキット・オブ・ジ・アメリカズ)の各EVコースレコードを、それぞれ15〜25秒は更新できる性能を有しているとされ、2017年の計画発表を経て2018年のル・マンにモックアップを展示。その年の暮れまでには2台のマシンを完成させ、19年から本格参戦というロードマップを描いている。

今年の5月にはLMP1-L向けのシャシー受注を発表していた英国のPERRINN


 このフルEV-LMP1は500kgのシャシーに600kgのEVパワートレーンを搭載。フロント250kW、リア400kWで総出力600kWのモーターを備え、車体中央部には400kgにもなる54kWhのバッテリーを搭載する。


 一方で、こうした暫定的とも思える新規チャレンジャーの出現が続くなか、現行唯一のLMP1マニュファクチャラーとなるトヨタだが、パドックの見方としてはハイブリッド開発での参戦意義が薄れることからも、活動存続が懸念されている。


 ただし、同じように一部のジャーナリスト間の噂では、現状のTOYOTA GAZOO Racingとしてオレカとのタッグで参戦してきた形態は解消されるものの、トヨタ・ブランドとしては引き続きル・マンへのチャレンジが継続され、可能性が最大限に実現したとすれば、かつてル・マン参戦経験のあるトップチームそれぞれにニューマシンを託した、3台体制での参戦もあると囁かれている。

この「プロジェクト424」ではフルEVでのLMP1参戦をアナウンスした

2018/19シーズン以降のル・マンLMP1クラスがどのように変化していくかに注目が集まる


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