元福岡GKセランテス「また日本に戻りたい」独占インタビュー【前編】

2022年10月19日(水)18時0分 FOOTBALL TRIBE

GKセランテス(当時アビスパ福岡)写真:Getty Images

2019、2020シーズンの2年間、アビスパ福岡でプレーし、幾多のビッグセーブと人情味あふれるキャラクターでサポーターに愛されたスペイン人GKジョン・アンデル・セランテスが、フットボール・トライブの独占インタビューに応じてくれた。


セランテスが、当時J2リーグに所属するアビスパ福岡への入団を決めたのは、2018年の年末のこと。それまで所属していたCDレガネス(2014-2018)ではスペイン1部での出場経験があり、セランテスの加入には驚きの声もあった。2020年福岡はJ1昇格を決め、本人は残留を強く希望するも契約満了により退団。現在はスペイン3部(UDログロニェス)でプレーする。


このインタビュー前編では、日本でプレーした2年間での印象的なシーンや、日本人選手とのエピソード、福岡退団時の真相や、サポーターに対する現在の想いなど、セランテスが明かしてくれた盛りだくさんの話の一部をご紹介しよう。




インタビュー中のセランテス

伝説のシュートストップシーンは


ーまず日本で、アビスパ福岡でプレーすることはどのように決めたのでしょうか。


セランテス:とても素早い判断だったよ。日本とスペインは移籍期間が違っていて、オファーが届いて1週間ぐらい猶予があったんだけど、すぐに決めることができた。日本が好きで、昔からキャプテン翼が好きだったから、日本でプレーしてみたかったんだ。だから、他のオファーを待つどころじゃなかった。


ー福岡の2年間で、印象に残っているシーンを教えてください。


セランテス:自分のなかでより印象的なのは、1年目(2019年)だ。ファビオ・ペッキア監督と過ごしたときの新潟でのファインセーブ(第5節・1-0でシーズン初勝利)をはじめ、1年中にわたってたくさんのファインセーブを披露できた。またシーズンが終わったあと、アビスパのサポーターがこのシーズンにおいてのベストプレーヤーとして、僕を選んでくれたんだ。それがとても嬉しくてね。2年目は新しい選手やスタッフがたくさんいて、そのなかには経験のある選手が多かった。1年目とは全然違う年になったけれど、どちらもとても印象的な年だったよ。


ー2019年のなかでは第30節、愛媛FC戦でのシュートストップが伝説です。覚えていますか?


セランテス:もちろん覚えている。日本にいたときの僕の最大のセーブだと思っているよ。(残留争い真っ只中で)勝たなきゃいけない試合だったし、その場面では0-0だった(最終的には3-0の勝利)。このときのとても素晴らしい感覚は、今でも残っている。最近Twitterでそのときの画像を見つけたから、iPhoneのなかに保存しているよ。ゴール裏で観ていたサポーターたちも、物凄く大きな声を出したり大きなリアクションで応援してくれていた。とても元気をもらったよ。そのセーブのあと、スタジアムのビジョンでリプレイが流れた。そのときにサポーターがすごく驚いた顔をしていて、なんてすごいことをしたんだと、鳥肌が立ったことを覚えているよ。


GKセランテス(当時アビスパ福岡)写真:Getty Images

GK村上とは家族ぐるみの付き合いも


ーポジションを争い、現在も福岡の守護神である村上昌謙について、エピソードや印象を教えてください。


セランテス:村上はとても良いGKで、とても素晴らしいチームメイトだった。彼は少しヨーロッパのGKに近いんだ。どういうことかというと、間違えることを良い意味で恐れている。際どい場面では無理に繋ぐことを考えないで、第一に安全性を考える。あとは自分のプレーはそこまで目立たなくとも、いつも集中しているんだ。これはGKのなかで重要なスキルの1つだよ。彼や拓己(山ノ井)などと、とても良い時間を過ごすことができた。村上の奥さんと僕の妻はとても仲が良くて、一緒にスタジアムで試合を観るなど、家族ぐるみで仲が良かったんだ。


アビスパ福岡 GK村上昌謙 写真:Getty Images

ー他に、日本人選手とのエピソードはありますか?


セランテス:1番印象的だったのは(2019年に)宮崎でキャンプをやったとき、日本に来て1週間目のことだ。ファビオ・ペッキア(監督)が、1日休みにしてくれた。そのときに田邉(草民)とかリキ(松田力=現愛媛FC)とダイスケ(石津大介=現FC岐阜)がいたから、日本語で『すみません、どこ行きますか?』と聞いてみた。そうしたら田邉はちょっとだけスペイン語を話せたこともあって、一緒に行こうと誘ってくれてね。みんなでディナーに行ったんだけれど、自分はそのとき日本語がなにもわからない状態で、自分の(日本語の)本を見ながら『これはなんですか』とか、日本語でいろんなことを聞いていた。それに対してみんな答えてくれたりとか、笑ってくれたりとか、とても楽しかった。ディナーのあとには、カラオケにも行ったよ。そのときに聞いていたことや覚えたことは全部メモして、覚えようとした。


ー福岡は、2019年は終盤までJ2残留を争い16位。2020年は首位(徳島ヴォルティス)と同勝ち点の2位でJ1昇格を達成。わずか1年で、大きく変貌しました。どういった点が違ったのでしょうか。


セランテス:やっぱり1番の違いは、J2でのプレー経験など経験豊富な選手が加入し、たくさんいたこと。(ドウグラス・)グローリ、フアンマ、カルロス(・グティエレス)とかの外国籍選手もそうだし、日本人選手もとても力強くて印象的だった。とても強いチームだったよ。また前の年とまったく違うサッカースタイルにもなっていたことも大きいし、あととても重要だったのはベスト電器スタジアムでプレーできたこと(2019年は博多の森陸上競技場で9試合を開催)。サポーターが側にいることを感じられて、ちゃんとサポーターの力を感じることができたんだ。


GKセランテス(当時アビスパ福岡)写真:Getty Images

一刻も早く、日本に戻りたい理由


ー福岡からの退団が発表されたとき、他のクラブから何か反応はありましたか?


セランテス:アビスパとの契約が切れてから、実は他のクラブからもオファーはあったんだ。だけどアビスパで過ごした2年のパフォーマンスを考えると、実際にもらったオファーよりももう少し良いオファーを期待していた。だからそのときは、とても悲しかった。アビスパで良いシーズンを過ごしたし、J1までたどり着いたにもかかわらず、そのあとは何が起きたのか自分でもわからない。アビスパとの契約が満了になってからの2か月間は、自分のキャリアをそこで終わらせようかとさえ思った。でも今は立ち直って、日本で復活できるよう希望を持っている。その希望は持ちつつも、今のクラブでとても幸せだから後悔はないよ。


ー福岡からの退団が発表されたときには、サポーターからたくさんのメッセージが届いたと思います。今でも、彼らの記憶に強く残っています。メッセージはありますか?


セランテス:まずは、ありがとうと伝えたい。アビスパで過ごした期間に、本当に感謝している。お別れを告げたときには、1,000以上ものメッセージをもらった。その気持ちはとても嬉しかったし、彼らの愛を感じたよ。もちろん僕も彼らを愛しているし、とても素晴らしいサポーターだと思っている。彼らのおかげで、自分が特別であること感じられた。スタジアムやイベントで声をかけられたときのことなど、今でも彼らと過ごした期間を思い出せる。だから、みんなにまた会いたいよ。


ー福岡を離れた後も、日本にいたいとコメントしていました。なぜだったのでしょうか。


セランテス:まず、今でも日本でプレーしたいと思っているよ。一刻も早く、日本に戻りたい。なぜかというと、この国がとても素晴らしいから。まず、試合の周りにある雰囲気が良い。ヨーロッパはサポーターがハングリーで、負けていたらすぐに怒る。でも日本は仮に負けていても、サポーターがとてもリスペクトしてくれる。もちろん、選手もサポーターもみんな勝ちたい。でもいくら勝ちたくても負けてしまうこともある、ということを理解してくれることが素晴らしいんだ。チームの状況が難しいときでも、サポーターが側にいてくれるということに感動していた。だからできれば一刻も早く、日本に戻りたいと思っている。今でも日本語を忘れたくなくて、スペインで日本人を見かけたら日本語で『すみません、あなたは日本人ですか』と話しかけたりと準備しているよ。話さないと、どんどん忘れていってしまうからね。


アビスパ福岡のサポーター 写真:Getty Images

日本とヨーロッパのGKの違い


ー現在、福岡はJ2降格の危機(10月18日時点15位)にいます。選手やサポーターにアドバイス、メッセージをお願いします。


セランテス:まず心から『頑張って(日本語で)』ということを言いたい。日本の最高峰のJ1でプレーすると、ベストな日本人選手と戦ったりできるし、とても素晴らしいことだ。もしJ1に残れるとなったときにスタジアムがどれくらい盛り上がるかということを想像して、この際どいときだからこそ自分たちの家族やサポーターへの気持ちを持ちながら戦ってほしい。やればできると信じているよ。


ーJリーグでプレーする日本人GKについて、どういう印象を持っていますか?


セランテス:日本のGKはヨーロッパのGKと違って、結構リスクを取る。とても勇敢で、ボールを持っているときにはとても自信を持っているし、ビルドアップのときにもチームのために繋ごうとする。だけど自分がヨーロッパのGKとして感じるのは、たまにリスクが大き過ぎるんじゃないかな、ということだ。ヨーロッパのGKにとって重要なのは、まず第一に(判断を)間違わないこと。間違えると失点につながるからね。だから他のことはあまり考えずに、ミスをしないことを第一に考えている。でも日本ではリスクを負っても繋ぐことを考えていて、そこが違っていた。ただ、以前は上手くいかなかったかもしれないけど、今の日本人のGKは基礎ができているし、反射神経が良いし、それもGKとしての武器になっている。


ー福岡在籍時に肩の怪我を負っていましたが、影響はありませんか?


セランテス:この質問は好きではないな。僕がアビスパにいた期間で、実際に怪我していたのは1か月だけなんだ。心配してくれる人がいるのはありがたいんだけど、その質問は不要だし、今もとても元気だよ。


Jリーグの試合球 写真:Getty Images

ーJリーグや日本のサッカーは、今もチェックしていますか?


セランテス:今でも追っているんだけど、自分がいる環境やテレビで観られるものを考えると試合全部を観るのは難しい。でも、もちろんハイライトは観ている。あとは例えばフアンマとか、日本に残っている友達に今どんな感じなのか、聞いたりしているよ。


ー日本で訪れた場所で、特に思い出に残っているところを教えてください。


セランテス:休日には必ず新幹線で、日本のいろいろなところを旅していた。特別にここというところはないんだけど、大阪、京都、東京はとても素晴らしかったし、自分が特別な気持ちを抱いたのは長崎や広島だ。原爆の資料館を見たりしてとても悲しい気持ちになるとともに、その場所には気持ちがこもっているということを感じた。心残りは、札幌に行かず雪まつりが見れなかったことだね。でも、たくさんの素晴らしいところに行くことができたよ。




アビスパ福岡、日本への愛情を強く示してくれたセランテス。日本に戻りたいという希望は、決してリップサービスではない。日本でプレーできるよう「お願いします」と日本語で伝えられたことを、ここに記しておきたい。情熱あふれる彼のプレーが、再びJリーグで観られることを期待している。

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