数字での精査が必要な“超絶燃費大作戦”/チームが繰り返す『重労働』への新提案【トムス東條のB型マインド】

2021年11月17日(水)12時4分 AUTOSPORT web

 スーパーGTのGT500クラスをはじめ、国内の各カテゴリーを最前線で戦うトムス。そのチーフエンジニアである東條力氏より、スーパーGTのレース後にコラムを寄稿いただいています。


 第8回となる今回は、スーパーGT第7戦『MOTEGI GT 300km RACE』の分析と、“サーカス”さながら全国各地を転戦するレーシングチームが抱える、とある問題の提起とその解決案をいただきました。


 まずは第7戦……の前に、当コラムへの“反応”について報告があるようです。


 * * * * *
 オートスポーツweb読者みなさん、こんにちは。トムスレーシングのチーフエンジニア・東條です。


 最近、パドックで関係者の皆様と挨拶を交わす際、「コラム見ているよ!」とか「B型いいよね! うふっ♡」なんてお声がけをいただくことが多くなってまいりまして、じわりと浸透しつつあることに喜びを感じております。


 さて、スーパーGT第7戦もてぎ300kmレースは青空の下で開催されました。11月にしては風穏やかでとても暖かく、予選・決勝ともに気温17〜20度/路面温度27〜30度の範囲で行われました。


 レースの決着は最終ラップに12号車カルソニック IMPUL GT-Rがスローダウンして3位へ後退し、ポールポジションスタートの19号車WedsSport ADVAN GR Supraが2位へ、8号車ARTA NSX-GTがレースを連勝で制しました。強いです。


 シリーズの上位3台をNSXが占める形となりました。GRスープラ勢は我らが36号車au TOM’S GR Supraが16点差で実質4位につけ、14号車がENEOS X PRIME GR Supraが20点差と、ここまでがシリーズ制覇の権利を残して最終戦富士へ向かいます。


 12号車の最終ラップの出来事は、車両を左右に振りつつチェッカーを受けていたことから、わずかに燃料が足りなかったと推察します。


 昨年最終戦富士の37号車KeePer TOM’S GR Supraと同様、とても切ない出来事なのですが、当事者側としてみれば、そこまで攻めないといまのスーパーGTは戦えないという事実の現れです。スロー走行やストップに至らないまでも、多くのチームが燃費とピットストップ時間、そしてラップタイムとのバランス調整をしながら戦っていることを、知ってほしいと思います。

2021スーパーGT第7戦もてぎ カルソニック IMPUL GT-R(平峰一貴/松下信治)


■トムス2台で分かれたタイヤ選択


 11月初旬のもてぎを想定して路面温度15〜35度をカバーすべく、トムスは2種類のコンパウンドを持ち込みました。ソフトとハードとか、ソフトとミディアムとか、勝手に呼ぶことにしていることは以前のコラムで書きました。ですから、優勝した8号車のソフトが37号車のミディアムにあたる場合もあればそうでないことも多々ありますので、どのチームがどのあたりの温度を狙って来ているのか、他チームが正確に把握していることはありません。


 土曜午前の公式練習では、路面温度が22〜29度まで上昇していきました。開始直後はソフトのグリップが高くラップタイムも速かったのですが、路面温度が上昇し始めたセッション中盤以降ではミディアムのほうが若干速く、37号車はサッシャ(・フェネストラズ)がこのセッションを2番手で終えています。


 午後の予選に向けて、路面温度のピークはやや過ぎる時間帯でありスローコーナーでのグリップを優先した36号車はソフトを選択。37号車はスタビリティの高いミディアムで臨むことにしました。

2021スーパーGT第7戦もてぎ au TOM’S GR Supra(関口雄飛/坪井翔)

2021スーパーGT第7戦もてぎ KeePer TOM’S GR Supra(平川亮/サッシャ・フェネストラズ)


 予選では19号車のリトモ(宮田莉朋)がポールを決め、24号車リアライズコーポレーション ADVAN GT-Rがそれに続いて、ヨコハマのワン・ツー。路面温度は29度から一向に下がらず、ソフトの36号車には少し厳しい温度。下位へ沈んでしまいました。


 一方、37号車にとっては適温やや下限となり、Q1をサッシャのアタックで確実に決めたいところ。しかし、4コーナー立ち上がりでスピンしかけて失速。まさかのQ1落ちを喫してしまいました。


 チャンピオンを争うライバルを見ると、サクセスウエイトが厳しいのか、みなさん中段あたり。後半戦で調子を上げてきた12号車や8号車は、ともに上位グリッドから表彰台を狙える位置につけました。


■「少しでも心に余裕を見せたら終わり」を痛感


 レーススタート時の路面温度は30度。サッシャが好スタートを決めてスルスルとポジションを上げて行き、これは表彰台も狙えるのか! なんてちょいと欲張って見ていた矢先、GT300との接触がありドライブスルーペナルティ。相手には大変申し訳なく、そして37号車はチャンピオン争いから脱落してしまいました。


 サッシャは長い間入国がかなわず、これが2レース目。スピード感は即戦力ではあるものの、スーパーGTを戦い抜くのは簡単ではないということなのだと思います。そして、レースとは大変非情なもので、「うしし」 とか「よっしゃ」 なんて少しでも心に余裕を見せたら最後、今回も天は許してはくれませんでした。

ペナルティを受け順位を落とした37号車は10位でフィニッシュ


 一方、36号車は1号車STANLEY NSX-GTとのポイント差を縮める必要があります。


 ここ数戦ではピットストップの後、1号車のギャップアップにやられっぱなしでしたから、今回こそは1号車に合わせた最低周回数でのピットインを遂行する必要があります。(関口)雄飛の超絶燃費大作戦に磨きをかけるべくミーティングを繰り返して来たことが功を奏し、1号車と同時に最低周回数でピットへ呼び込みました。そしてミスなくコースへ送り出すと、逆転に成功します。


 ピットインを前に、前走の23号車MOTUL AUTECH GT-Rや1号車とは10秒ほどのギャップがありました。その差を燃費戦略だけで詰められるはずはなく、そもそも論として10秒のギャップは燃費走行でタイムロスした分なのか、ソフトコンパウンドが厳しくてペースが上がらなかったからなのか、はたまた実際に相手に対してどの程度給油時間を短縮できたのか、数字で追いかける必要があります。

8位でゴールし、タイトル戦線に踏みとどまった36号車


■4週連続レースの過密日程を終えて……


 さて、SFもてぎ→GTオートポリス→SF鈴鹿→GTもてぎと、ここまで4週連続のレースでした。


 こうした生活には慣れているとはいえ、レースを戦っていると体力面だけではなく、諸々のダメージが蓄積されてゆくものです。レースチーム、メンテチーム、設営グループなどのように分業化されていれば、過密日程でも問題はないのかもしれません。


 しかし、日本のレースの現場はそのような構造にはなっておらず、それこそ経費がかさみチーム自体が倒れてしまうことになりかねません。レースが好きで情熱を注ぎ続け、ある日ふと我に返ると先が見えなくなり絶望する。そして去ってゆく仲間を、何人も見てきました。はたしてこのような環境のままで、日本レース界の将来を持続可能にできるのだろうか……。


 興業的な面だけではなく、本来レースに備わっている力や機動力といったものを、どのように活用すべきなのか。たとえば今季スーパー耐久に参戦した水素カローラでは、社会インフラをも巻き込むような壮大な取り組み方があることを示して下さりました。これは私たちのSDGsのひとつなのだと思います。


 カタい。話がカタすぎるついでに、もう少しだけレースチームのことなど。


■“設営直後”を見計らってやってくるアノ人たち


 トムスは2台体制で参戦しています。車両と機材の運搬に3本のトレーラーを使用します。木曜日に機材一式を積み込んでトレーラーを送り出し、金曜早朝から現地へ移動。到着後ピット周辺の設営やレースの準備を整える。土日のレースを終えてからすべてを撤収して御殿場に深夜着。翌月曜日には機材を降ろし、メンテナンスへ(長距離移動を伴うオートポリスでは、このサイクルに約1週間を要します)。


 これの繰り返し。


 同じ機材を上げたり下げたり、単純にこれって無駄なんじゃないか、そんな風に考えてはや数十年。トレーラーの運転手さん不足やメカニックの人材不足と高齢化のなかで、このまま対策を打たずに持続できるのだろうか? これがBESTのやり方なのか?


 また、そんなに忙しくて、いったいいつメンテナンスをしているの? 休みはどうなっているの? というような疑問がわいてくると思うのでコッソリお話をすると、トムスの場合は各車両に1〜2名の専属メカニックがいて、彼らは他のカテゴリーを兼任しません(←これ大事)。


 毎週レースへ移動するのは彼ら以外のメカニックとエンジニア、そして業務やホスピタリティ担当のスタッフですから、計画的に代休をいただいております。それ故GTもSFもそしてSFLも、トムスの車はいつでもピッカピカの新品なのです。


 ついでにお話ししておくと、サーキットに到着したら全員でトレーラーから機材を降ろします。そう、全員です。専門性を必要としない作業では、腕を組んでへらへらしている人など、あのB型の人くらいしかおりません(汗)。


 もちろん安全には充分な配慮が必要です。その後、担当毎に分かれてピット裏スペースにテントを張ったり、ピットガレージ内の設営をしたりしながら、車検の準備、アライメント作業、タイヤの準備や各種ミーティング……それはそれは走行前日から結構な労力を要するのです。

走行前日は荷下ろし・設営・車両の準備と、チームは大忙し


 そして、B型エンジニアとその一味はというと、ホスピタリティブースを細やかに装飾するような美的センスの欠片もなく、かといって屈強なメカニックたちとは活動量に雲泥の差があるのでガレージやクルマのあたりをウロチョロするのも邪魔になるということで、ピットエリアからは道一本挟んだサインエリアに隔離され、小屋(サインガードテント)を建立する役目を仰せつかっているのです。


 これが結構大変な作業でして、真夏の直射日光、あるいは雨や小雪などを遮るものは何もありません。


 そんななか配線やらモニター類を準備すること2時間半、ようやく組み上げた頃合いを見計らったかのように、いや、きっと柱の陰から明子姉さんのように見ていたに違いのない、サッシャとかアレジとか一貴とかが、それはもう涼しい顔で 「ハロー!」などとやって来てトラックウォークへと連れ出されるのですから、堪ったものではありません。それが真夏の鈴鹿だったりした日には、もうビールですよ。ほんと。


 そこで日本レース組合員(NK-INN)は、このように声を上げるのです。


「委員長! 機材をサーキットに常設できないでしょうか?」


「却下します(瞬殺)」


 まぁね、そうだよね。


 でもね、最近流行りのオーバーヘッド関連のモニターや照明の設備、ピット内のパーテーション、ピット裏の機材スペースの備品やホスピタリティスペース、そしてサインエリアの小屋。これらがどのサーキットでも同じ規格で常設されていれば、看板や備品をサササっとかけるだけ。ピット装飾用のパーテーションが有機ELパネルか何かでできていれば、データを渡してポポポポン。機材便の縮小と設営時間の大幅短縮が可能になると思うのですが、いかがでしょうか?

ツインリンクもてぎのサインガードに“小屋”を建立する筆者

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