平均年収700万円の顧客に対して年収700万円向けのサービスは絶対ダメ…真のターゲットを求める数字の扱い方

2024年5月12日(日)15時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Perawit Boonchu

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新商品やサービスのターゲット設定をするとき、数値はどう用いるべきか。経営コンサルタントの斎藤広達さんは「例えば住宅相談に来る6人の平均年収が700万円だった場合、実際にその中に年収700万円の人がいるとは限らない。少ないサンプルで計算した『平均』をビジネスプランのベースにしてしまうと、まったく効果のない施策になってしまいかねない。世の中には平均値が溢れているが、ビジネスパーソンなら平均値を見たときにまず、『その数字は偏っていないか』『サンプルの数は十分か』などを疑うべきだ」という——。

※本稿は、斎藤広達『頭のいい人が使っているずるい計算力』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/Perawit Boonchu
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■「みんな」に踊らされないための平均値との付き合い方


社内では、「多くの」「みんな」「いつも」「平均的に見て」といったセリフが当たり前のように飛び交っています。一見すると、これらの言葉には説得力があるように感じられますが、はたして本当にそうでしょうか。


おそらく、「ほかの言葉はあいまいだけど、平均だけは計算して出しているのだから、ある程度信用できるはず」と考える人もいるでしょう。


本当に「平均」は正しいのか、考えてみます。


【例題1】
テレビで、あるダイエットサプリを使った5人の体験者が効果を語る、というCMが頻繁に流れているのを見たAさん。CMによると、サプリを使った結果として全員の体重が平均で5kg減ったらしく、試してみたいと思いました。
でも、心のどこかでは「本当に正しいのかな?」という疑問も捨てきれません。
このサプリは本当に効果があるのでしょうか。

体験談からサプリの効果を確かめるには、5人の体重の増減を確認します。


Aさん:−4kg
Bさん:−3kg
Cさん:−6kg
Dさん:−5kg
Eさん:−7kg


上記のように体重が変動していた場合の平均は、


4kg+3kg+6kg+5kg+7kg=25kg


25kg÷5人=5kg


よって、−5kgの減量に成功しているとわかります。


これなら、確かに「みんなちゃんと体重が減っているから、効果があるのかも」という気持ちになるかもしれません。


しかし、もし5人の体重の増減が以下の結果だったらどうでしょう。


Aさん:+1kg
Bさん:−7kg
Cさん:+2kg
Dさん:−4kg
Eさん:−17kg


これでも平均値は同じ−5kgです。


ですが、内訳を見るとEさんが−17kgというすさまじいダイエットに成功している一方で、サプリを飲んでいても体重が増加している人が2人もいます。


これでは、「必ず効果が出る」とは言えません。同じ平均−5kgでも、まったく印象の違う結果になるパターンもあるのです。


これが平均の歪みであり、多くの人が騙されるポイントです。


■「偏りのない真ん中の値」を計算する方法


今度は営業の仕事を例に、平均の歪みを見てみましょう。


【例題2】
住宅販売メーカーで営業を担当しているBさんは、住宅相談に来る人の平均年収が700万円であると計算しました。そこで、さっそく年収700万円の人に向けた新サービスを始めてみましたが、まったく手ごたえがありません。
その日相談に来た6人のお客さんの年収は、それぞれ300万円、400万円、400万円、900万円、1000万円、1200万円でしたが、一体なぜでしょうか?

6人の平均値を計算すると


300万円+400万円+400万円+900万円+1000万円+1200万円=4200万円


4200÷6=700万円


Bさんの計算通り、6人の平均年収は700万円になります。


しかし、実際に年収700万円の人は1人もいません。年収700万円の人に向けたサービスは、おそらく年収300万円〜400万円の人にはやや高額に感じられるでしょう。一方、年収1000万円クラスの人にはあまり魅力的に映らないに違いありません。


つまり、どの顧客も新サービスのターゲット層に当てはまらないのです。


このように、少ないサンプルで計算した「平均」をビジネスプランのベースにしてしまうと、まったく効果のない施策になってしまうケースがあります。


世の中には平均値が溢れていますが、ビジネスパーソンなら平均値を見たときにまず、「その数字は偏っていないか」「サンプルの数は十分か」などを疑うべきです。


では、サンプル数が少なくとも、「偏りのない真ん中の値」を計算する方法はないのでしょうか。


そんなことはありません。「中央値」という数値を使えば、限られたサンプル数での「真ん中の値」を計算できます。


■9人チームの中央値は上からも下からも5番目


中央値について理解するため、もう少し身近なケースを見ていきましょう。


【例題3】
昨今の働き方改革の影響を受けて、Cさんの会社でも「有休消化率50%」の目標が出されました。Cさんの部署は9人で、与えられる有給休暇日数は10日です。
目標を達成するには、1人あたり何日取得すればよいでしょうか。

答えは簡単で、1人あたり5日取得すれば50%に到達します。


しかし、現実では「その年の有給だけでなく、これまで累積してきた有給休暇をフルに使いきった人」もいる可能性も考えられます。


Aさん:5日
Bさん:2日
Cさん:0日
Dさん:0日
Eさん:8日
Fさん:20日
Gさん:5日
Hさん:2日
Iさん:3日


仮に、上記のような有給休暇取得率だったとしましょう。


平均有給休暇消化日数は5日です。先ほどの平均の歪みと同じですね。


このような状況で、実際の有給休暇取得率を計算したいときに役立つのが「中央値」です。


中央値とは、すべての人を並べたときに、真ん中に位置する人の数値を示すもの。このケースの場合は9人のチームですから、ちょうど「上からも下からも5番目」に当たる人を指します。よって、答えは「3」です。


有給休暇取得率30%なら、肌感覚に近い数値ではないでしょうか。


出所=『頭のいい人が使っているずるい計算力』(PHP研究所)

■求めるべき数値が「平均値」か「中央値」か


ちなみに有給休暇に限った話をすれば、労働基準法の改正により、2019年4月1日以降、従業員に年5日の有給休暇を取得させなければ、企業に罰則が科されると定められています。1人でも5日未満の人がいてはならないのです。



斎藤広達『頭のいい人が使っているずるい計算力』(PHP研究所)

そこで、過去の有給取得日数から中央値を割り出し、最低取得日数との乖離がわかれば、全員が無理なく5日以上取得できるようにするにはどうすればいいか、対策を考える際などに活用することができます。


たとえば「年間で5日」というのではなく、「2カ月に1日」と人事が定期的に呼びかけるなど、いろいろ考えられますね。


複数の数字を扱う際は、求めるべき数値が「平均値」か「中央値」かを見極める必要があります。数字に騙されないためには、提示された数字を鵜呑みにせず、考えるクセをつけることが重要です。


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斎藤 広達(さいとう・こうたつ)
経営コンサルタント
シカゴ大学経営大学院卒業。ボストン・コンサルティング・グループ、ローランド・ベルガー、シティバンク、メディア系ベンチャー企業経営者などを経て独立。現在はデジタルトランスフォーメーションに関わるコンサルティングに従事している。主な著作に『数字で話せ』(PHP研究所)、『「計算力」を鍛える』(PHPビジネス新書)、『入社10年分の思考スキルが3時間で学べる』『仕事に役立つ統計学の教え』『ビジネスプロフェッショナルの教科書』(以上、日経BP社)など。
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(経営コンサルタント 斎藤 広達)

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