初代登場から20年以上経つエコ王者の“特別”な存在、トヨタ・プリウスPHV【ベースマシン一刀両断!!】
2019年12月4日(水)7時30分 AUTOSPORT web
モータースポーツ専門誌のauto sport本誌では現在、スポーツカーをはじめ、ホットハッチ、セダン、スポーツクーペなどあらゆる市販ロードカーを“ぶった切る”ピリ辛・市販車インプレッションを不定期連載している。同企画に登場するのは、モータースポーツの中でも、いわゆる“箱車レース”と呼ばれるカテゴリーにおいて、レーシングマシンのベースとなるロードカーたちだ。
今回はそんな『ベースマシン一刀両断!!』シリーズの第12回目、トヨタ・プリウスPHV編をお届けする。
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PHV=プラグ・イン・ハイブリッド車というのは、外部からの電力でバッテリーを充電できるハイブリッドカー(HV)のこと。通常のHVは、エンジンの動力などにより生み出した電力で充電するが、外部の電力のほうが格安なので、結果としてPHVのほうがランニングコストは低くなる。エンジンの熱効率×発電効率よりも、発電所の熱効率×送電効率のほうが、3倍以上効率は良さそうだ。
1997年、初代トヨタ・プリウスが登場した時は衝撃的だった。クルマとしてのパッケージは優れていたものの、動力性能や運動性能は極めて低く、快適性と操縦性も論じるレベルになかった。
とくに不安定でリニアさなど微塵も感じられないブレーキと、何の前触れもなく大きな衝撃とともに始動するエンジンには“?”が5つほど浮かんだ。「未来からやって来た」という触れ込みだったが、分かったことは「未来は暗い」ということだった。
とにかく、燃費だけを徹底的に追求し、他はどうでも良かったのだろう。初モノなどその程度、と達観することも必要ではあるが、それにしても試作品のまま世に出てきたような完成度の低さは、極めてトヨタらしくなかった。
■PHVは通常版に比べて乗り味も質感もアップ しているが……
PHVは先代にあたる3代目から設定されているが、単に外部充電が可能というだけでなく、シリーズにおける上級モデルとなっている。ちなみに大型のマルチインフォメーションディスプレイは専用装備だ。
先進的なイメージはあるものの、ご存じの方もいると思うが、エアコンやオーディオなどのコントローラーを廃して画面に組み込むのはコストダウンの手法でもある。
通常版から進化しているのは、THS(トヨタ・ハイブリッド・システム)そのものだ。基本的な構造は同じだが、これまで発電に使用してきたジェネレーターを駆動にも使えるようになっている。しかし、発進時にスロットルを全開にしても、エンジンは速度が上がるまで少しの間始動せず、モーターの力だけでダッシュする。
トヨタ製HVは、アクセルを大きく踏んでも加速が始まらず、タイムラグがあってから加速が始まる。これはエンジンの始動・駆動開始に時間を要するためで、構造的に仕方のないこと。しかし、PHVはエンジンの力を借りなくてもいいので、スッと加速できるのだ。
また、THSの欠点のひとつだった『EV状態での最高速度』もPHVでは従来の100km/hから135km/hへと引き上げられている。なお、高速道路でエンジンが稼働しっぱなしになる点は燃費の面で不利だが、エンジンを稼働させないと、THSのコアとなるプラネタリーギヤが回転限界を超えてしまうので、これは避けられないのだ。
車重が150kg増えたのは、バッテリーが追加されているだけでなく、遮音/防音対策もされているためだ。そのため電車のような唸り音は、少なくとも車内ではあまり聞こえない。
ちなみにPHVから通常版に乗り換えると、剛性感の低さ、ハンドリングの不正確さ、遠慮なく入ってくるノイズなど、初代からの悪しき伝統をしっかりと受け継いでいることが分かる。価格差は70万円ほどだが、実際に走らせると半額程度の感触だ。
プリウスPHVは、燃費だけを限界まで追求したストイックなクルマではなく、もっと普通に快適性や質感を気にしていることを感じる。ただし、この20年間でTHSにも多少の改良が加えられているが、基本的な構造は初代プリウスから変わっていない。PHVに限るなら別のハイブリッド方式のほうが適切だろうが、そもそもTHSを採用している以上、脆弱なドライバビリティからは逃げられない。
“エココンシャス”を演じたい人にはプリウスPHVはピッタリのクルマかもしれない。だが、本質を見極めて生きたいと思う人には、まったくマッチしないクルマである。
■トヨタ・プリウスPHV Aプレミアム“ナビパッケージ”主要諸元
車体 | |
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車名型式 | DLA-ZVW52-AHXHB |
全長×全幅×全高 | 4645mm×1760mm×1470mm |
ホイールベース | 2700mm |
トレッド 前/後 | 1530mm/1540mm |
最低地上高 | 130mm |
車両重量 | 1530kg |
乗車定員 | 5名 |
駆動方式 | 2WD(FF) |
トランスミッション | 電気式無段変速機 |
ステアリングギヤ形式 | ラック&ピニオン |
サスペンション前/後 | ストラット式コイルスプリング/ダブルウイッシュボーン式コイルスプリング |
ブレーキ 前/後 | ベンチレーテッドディスク/ディスク |
タイヤサイズ | 195/65R15 |
エンジン/モーター | |
エンジン/モーター 型式 | 2ZR-FXE/1NIM 1SM |
エンジン形式 | 水冷直列4気筒DOHC |
エンジン排気量 | 1797cc |
内径×行程 | 80.5mm×88.3mm |
圧縮比 | 13.0 |
エンジン モーター最高出力 | 72kW(98ps)/5200rpm 53kW(72ps)/23kW(31ps) |
エンジン モーター最大トルク | 142Nm(14.5kgm)/3600rpm 163Nm(16.6kgm)/40Nm(4.1kgm) |
使用燃料 | 無鉛レギュラーガソリン |
タンク容量 | 43L |
auto sport 2019年8月2日号 No.1511より転載