【GT300マシンフォーカス】10年の蓄積で果たした大願。2代目BRZ“チャンピオンカーへの進化”

2021年12月16日(木)13時46分 AUTOSPORT web

 スーパーGT300クラスに参戦する注目車種をピックアップし、そのキャラクターと魅力をエンジニアや関係者に聞くGT300マシンフォーカス。2021年最終回となる第7回は、2012年の初代デビュー以来脈々と熟成を重ね、2021年シーズンより2代目へと切り替わった61号車『SUBARU BRZ R&D SPORT』が登場。参戦初年度に見事、初タイトルを獲得した2代目BRZだが、初代同様スバル伝統の水平対抗4気筒ターボ“EJ20”を核に、GT300規定車両(旧JAF-GT車両)として鋼管パイプフレームの車体設計により高い運動性能を追求してきた。その生みの親でもあり、自身もトラックエンジニアとしてサーキット前線での指揮も執るR&D SPORTの澤田稔テクニカルコーディネーターに、そんな2021年モデル“進化の要点”を聞いた。


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 2020年11月に北米で世界初公開された新型『BRZ』ベースのGT300車両は、オンライン上で数々の“ティーザー”を経て、日本市場での量産モデル正式発売より早い2021年2月22日に正式お披露目となった。


 それまで約9シーズンを走り抜けてきた初代BRZの開発蓄積を活かし『ライトウエイト・コーナリングマシン』をコンセプトに据えた2代目BRZは、年々高速化するGT300の戦況を考慮し「車体側として、できるだけ剛性面を上げる方法を主に考えました」と澤田エンジニアは説明する。


「重量バランス的なところとか、慣性モーメントも考えると、結構……簡単ではなかったですけどね(笑)。パイプの1本1本から見直して『ここは剛性に関しての、いわゆる寄与率が低いから細くしても大丈夫だろう』とか、その分を『こちら側で太くしよう』とか。そういう意味での全面見直しをしました」


 エンジン、ラジエター、インタークーラーなどの補機類は基本的に初代からのキャリーオーバーとなるため、車両骨格に関して「大掛かりに変更することは、ある程度検討はした」ものの基本構成は不変に。それ以上に、細部のブラッシュアップによる剛性も含めた大きな変化=正常進化が目指された。


 2012年の初代BRZ登場以降、2013年に最初のアップデート、そして2017年にもミッションのトランスアクスル化が施されたシャシーは、最終年となった2020年にもパワートレーンや駆動系の搭載位置をミリ単位で低下させるという”攻め”の改良が施された。


 これにより各マウント類のブラケットを新造することとなり、ジオメトリーの改善によるセットアップ領域の拡大も実現。エンジンベイ内に配置されていたオルタネーターもリヤのトランスアクスル脇に移設することで、前後重量配分の改善に加え熱害によるトラブル回避にも繋がった(2020年のリタイアは開幕戦富士のみ)。


 積年の課題だった信頼性の面でも熟成なった初代BRZ最終型は、キャビン部分にわずかなホワイトボディ部を残しつつ、パイプフレームが基本の剛体を担った上で前後バルクヘッドより外は完全オリジナルのフレームワークに。


 フロント側に張り付くようにして搭載される水平対抗のブロックから、キャビン側に向けてはプロペラシャフトやウォーターインジェクション用のパイピングが走るセンターチューブが設けられ、ここにサクセスウエイト用のバラスト搭載部も配置する。


 さらにEJ20より前方には『ファーストバルク』と呼ばれる隔壁が設けられ、キャビンより伸びるサブフレーム類と接続。これでストレスマウント不可のボクサーエンジンをまるで保護するかのように基本骨格を成立させ、隔壁前方にはタービンコンプレッサーや冷却機系を配置する構成に。ダブルウィッシュボーン上下Aアームのフロントレグも、この隔壁より前側に接続されている。


 そして待望の進化型となる2021年モデルの2代目『SUBARU BRZ R&D SPORT』では、車体の下側で剛性を確保しつつ上屋は軽く、応力の入らない部分は細く。その強化も、やはりフロント側を中心に対策が施された。


「エンジンが前に載っているクルマのフロント剛性は上げづらいですよね。なので一番、頭と時間を費やしたのはそこ。そこをどう上手く上げていくかでした。リヤだとパイプを増やせば増やしただけ剛性は上げられますけど、フロントはそういうわけにはね……。たやすくはないので、一番悩みました」と続ける澤田エンジニア。


 各部に走るパイプフレームの本数も、剛性アップのために増やせば重くなり、作業時には「邪魔に」なることで整備性の効率悪化も引き起こす。「そういう部分では、ある意味で突き詰まってた……ということですよね」との言葉どおり、設計上の大きな配置変更要素は「効きの効率」を求めたフロントのサードダンパー配置と、リヤからフロントに移動したドライサンプ用オイルタンクの位置変更のみとなった。


「前後重量配分もそうだし、総重量でも結局途中の配管がなくなる分だけオイル量が減らせる。なので確実に保水量は減らせました。それによる熱害はどうだろうという懸念はありましたけどね。でも、まあ大きく問題はなく行けたと思います」


 フレームの設計を見直したことでリヤバルクヘッドの高い位置にあったオイルタンクがフロントに降り、軽量化と重量配分改善により運動性能の向上に貢献。さらに2020年度唯一の未完走となった開幕戦富士のリタイアの要因である“電気系”にも手が入り、走行系機能とデータロガー系機能の電源系統を別として配線を見直し「そのハーネスからして軽くできてると思うし、シンプルかつ軽量化は達成できてると思います。その辺はレーシングカーって簡素じゃないと。トラブったりすると大変なので」と、さらなる“チリツモ”を求める努力がなされた。

フロントに搭載された1994cc 水平対抗4気筒ターボ『EJ20』。最高出力は450ps/6250rpmだ。
EJ20より前方には『ファーストバルク』と呼ばれる隔壁が設けられ、キャビンより伸びるサブフレーム類と接続。
リヤセクション。ギヤボックスはヒューランド製6速+後退1速のシーケンシャル(パドル)を搭載。
SUBARU BRZ R&D SPORTのコックピット


■「なにをおいても一番に大きい変更要素」ベース車の変更によるエアロダイナミクスの伸びしろ


 こうした車体側の積み重ねを下地に「変更要素としてはもう、なにをおいても一番に大きい」という分野が、ベース車の変更によるボディワークの変化。つまりカウルの刷新によるエアロダイナミクスの伸びしろだった。


「ベースのクルマにエアロ形状を載せて行ったのはSTIさんの方で。基本的な解析をSTIさんのチームで進められて、それを見て我々からも『ここをもうちょっとこうしませんか、ああしませんか』というやり取りをしました。当然ダウンフォースを出せるように。かつ、ドラッグにあまりならないように、という。考えることはみなさん同じだと思いますけど、やはりフロントのダウンフォースは欲しがるので、フロント周りは細かいところまで注意して解析もやってもらいました」と澤田エンジニア。


 そのSTI解析チームからは「スポーツプロトタイプを参考にした」フェンダー前端の切り立った峰のような処理により、確実にドラッグ低減とダウンフォース向上が「数値で示され」た上、フロントバンパーコーナーで2種類を用意しながら、2020年型では実戦投入までに紆余曲折を経た“カナード版”と“ボックス版”のエアロも「早い段階からそれありきで考えてたので、充分に入れ込む時間があった」という。


「ハンドリングへの影響は……ありますけどね。ありますけど、ダウンフォース量を取るのか、ドラッグを取るのか、その選択肢という。ただ『こっちの仕様だとデメリットがあって使えないんだよな』というのはなくなりました」


 2020年仕様からグリップ向上を狙い、フロントのサスペンションジオメトリーを見直してキャンバーやキャスター角の許容範囲を広げ、より高い接地性を確保する変更を施していたが、2021年シーズンはそのレベルをより高い段階へと引き上げた上で、空力とのマッチングが図られた。


 同じく、2020年シーズン序盤に「4種類ほど組み合わせを試した」というフロア面のストレーキも「前のモデルで一番良かった形状」でフィックス。積極的に負圧を発生させ、車体姿勢が変化した際にも安定感を高める狙いの“切り欠きリヤフェンダー”や“カナード付きリヤディフューザー”などは「JAF-GT300ではシーズン中の開発もできなくなったので、そこはもう登録で」1年を通じて使用。これにより前モデルより飛躍的なダウンフォース量アップを実現したのに加え、新造車ならではの恩恵も得た。


「根本的に細かいチリも含めて精度良く作らなきゃ、ということで製法も含めて変えています。クルマの建て付けなども良く見られる方は『仕上がり良くなったね、建て付け良いね』って言ってくれます。従来は補修の繰り返しで重量増に繋がった部分も一新できたので、その構成も見直して結果的に『軽く作ろう』が実現できた。なのでボディカウル関係は良いものができたと思っています」


 こうして走り出した新生BRZは、シーズン序盤こそ剛性アップとダウンフォース増量により硬めのクルマに変化したことで、リヤタイヤのライフに課題を抱えた。しかし「古い引き出しを……タンスを開けてみたら『いいモノ、転がってたよ』ということがある」と、かつてのセットアップ論法の再確認に取り組んだことで、中盤以降は重さにも負けず、レースペースの衰えを抑え込むクルマ作りが進んでいった。


「おかげで、ブレーキ周りは2020年シーズンから不変ですが、もうマックスですよ。これもまた今思えば性能の9割くらいしか使えてなかったのが、今年は100%で使ってます。レース後の劣化がもう……。だから今は圧倒的にブレーキは使っていますし、ドライバーが詰められるようになってますね」


 こうしてSTIによるEJ20の開発状況と同様に、ほぼ極限の領域まで到達したように見える車体側の開発だが、澤田エンジニアの目には“チャンピオンカー”となった現状の仕様にもまだ改善点が映り「来年に向けては、ちょこちょこできることやりましょう、という話をしています」と、その手を緩める気配はない。


「ざっくりと言っても、ただ単純に運動性能を上げる。派手に『まだありますよ』って言いたいですけど『見ててください、来年はここガーンと大きく変わりますよ』というのはないです(笑)。それでも時間がある時にしか手をつけられない部分というのはあるので、そういう細かいところで『コンマ1を10』集めて『1秒にしましょう』と」


「なかなか100点は取れないし、終わらない。永遠にテーマは尽きないし、年々補強して重くなって『次は軽量化をやらないといけない』とかね。速いクルマを作るには立ち止まっていられないな……と思いながら、それが楽しくて楽しくてしかたがないのですよ。僕らはそれがやりたいのでね」

フロントフェンダー後端上部のえぐり
切り欠きリヤフェンダーも前モデルからの飛躍的なダウンフォース量アップ実現を支える
積極的に負圧を発生させ、車体姿勢が変化した際にも安定感を高める狙いのカナード付きリヤディフューザー
SUBARU BRZ R&D SPORTのフロントマスク
フロント足回り。前後ともにダブルウィッシュボーン式サスペンション。
リヤ足回り。ブレーキは前後ともにAP RACING製。フロント6ポット、リヤ4ポット。
タイヤサイズは前後ともに330/710 R18。ホイールベースは初代BRZより16mm長くなり、2696mmとなる。

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