夜泣きにアヘン、溺れた者には「タバコ浣腸」……今では考えられない昔の医療! 驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」が所蔵する奇妙な本

2023年1月15日(日)14時0分 tocana

——【連載】驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」が所蔵する想像を超えたコレクションを徹底紹介!


「驚異の陳列室」を標榜し、写真集、画集や書籍をはじめ、5000点以上に及ぶ奇妙な骨董品を所蔵する大分県・別府の古書店「書肆ゲンシシャ」。


 SNS投稿などでそのコレクションが話題となり、九州のみならず全国からサブカルキッズたちが訪れるようになった同店。今では少子高齢化にあえぐ地方都市とは思えぬほど多くの人が集まる、別府の新たな観光名所になっているという。


 本連載では、そんな「書肆ゲンシシャ」店主の藤井慎二氏に、同店の所蔵する珍奇で奇妙な本の数々を紹介してもらう。


死体写真は圧倒的に女性人気が高い!?

——第4回目では現代のアーティスティックな死体写真を紹介していただきました。そもそも、死体写真というのは、どんなお客さんたちに人気なんですか?


藤井慎二(以下、藤井):圧倒的に若い女性ですね。4〜5時間ずっと死体写真だけご覧になる方もいらっしゃいます。うちに来る男性のお客様は幽霊や超常現象に興味のある人が多いのに対して、女性は死体写真や医学写真など、よりリアルなものを求めて来るんですよ。性別によってそういう違いがあって、おもしろいなと思います。


——男の子のほうがエロいことやグロいものが好きで、女の子はもっとオカルト的な非現実的なものが好きなイメージでしたが、まるで真逆なんですね。


藤井:使い回された表現ですが、女性は生理で血を見慣れているから、「身体的な意識」というものが男性より強いとは、よく言われていますよね。でも、僕はやっぱり好奇心なんだと思いますよ(笑)。


——今回は新たなテーマで「科学・医学」ジャンルの本を紹介していただければと思います。性別、文系・理系を問わず好奇心に刺さるような本をぜひ、お願いします。


藤井:『世にも危険な医療の世界史』(文藝春秋)は、今では考えられない医療の話が紹介されている大変な名著だと思います。文藝春秋から出ているため入手しやすく、章立てもよくて読みやすいです。なかでも面白いのが、アヘン。100年前には「アヘン入りの鎮静シロップ」が市販されていた時代があったみたいで、子どもの夜泣きがやまないときにはアヘン入りシロップを飲ませて静かにさせようとしたとか。


——「寝させよう」というか、赤ちゃんぶっ倒れるのでは……?


藤井:本当に危ないですよね。あと、昔はタバコががんに効くなど、万能薬と考えられていた時代があるようです。「タバコ浣腸」といって、溺れた人の肛門にタバコの煙を吹き込むと、蘇生できるという話もあったみたいですよ。


——第1回目のヴィクトリア朝の浣腸器といい、この連載にはちょこちょこ浣腸が出てきますね。


藤井:昔の人が惹かれる何かが浣腸にあるんでしょうね。『爆発する歯、鼻から尿——奇妙でぞっとする医療の実話集』(柏書房)という題名からして、もう面白い本があります。同書では昔の不思議な症例がたくさん紹介されていて、「鼻から排尿する女」という章では、耳や乳房、鼻などから排尿した女性がいて、本当に尿か調べたら「かなりの分量の尿素が含まれていた」と。「さながら噴水のようにへそから尿が噴き出てきた」と書かれています。


——もはや、ビックリ人間ですね。


藤井:「あまりに奇怪で本当とは思えない、と考えておられるならそれは多分正しい」と、同書の著者も書いていますね。あと『「最悪」の医療の歴史』(原書房)という本には、麻酔のなかった時代、「歯抜き屋」は、抜いた歯の首飾りをぶら下げ、太鼓の音で患者の悲鳴を覆いかくした、とあります。


——ひいぃ!!


藤井:かつては「虫歯の虫」というものが信じられていたらしく、患者の口の中に火をつけたローソクを入れたり、薔薇を燃やした煙でいぶり出したりして、追い出そうとしていたということも紹介されています。同じく虫歯の治療法として、瀉血や、神経を酸で焼いて溶かした金の液ですすぐ処置が行われることもあったそうです。


——昔は大真面目にそんな治療がされていたんですね。その積み重ねが科学や医学の歴史なんでしょうけど……。


ひとりの切断手術で3人殺害?2分半の早技テキトー外科医

藤井:『世界病気博物史——ゴードン博士が語る50の話。』(時空出版)という本では、 「トリプル・プレイ」と書いているんですけど、ある外科医が一回の手術で3人殺したという話が載っています。


——ハットトリックみたいなノリですか……。ワールドカップですね。


藤井:とにかく、早技でチャチャっと手術することで有名なリストンという外科医がいたらしいのですが、腿を切断するわずか2分半の間に手術を失敗してしまう、と。患者は切断した部分が化膿したため後日死亡。また、手術中に手を滑らせて若い助手の指も切断してしまい、やはり化膿して後日死亡。さらに弾みで、手術を見学していた有名な医師の急所——あそこでしょうね——にもナイフが突き刺さり、彼も恐怖のあまりショック死してしまった。「これが史上唯一の死亡率300パーセントの手術である」と書いてあります。


——ドジっ子(笑)。不条理ギャグ漫画みたいな話ですけど、実話ですかねぇ……。


藤井:さぁ……(笑)。あと、冒頭に紹介した『世にも危険な医療の世界史』と対をなす、『世にも奇妙な人体実験の歴史』(文藝春秋)もオススメで、これは文庫化もされています。コレラに関して「瘴気説」を唱えていた化学者が間違いを認めず、「コレラ菌の入ったフラスコをかかげ、フラスコの内容物を飲み干し、同僚たちを震え上がらせた」「彼は激しい胃けいれんと下痢を起こし、その症状は1週間続いた」といった具合に、さまざまな人体実験にまつわる話が紹介されています。コレラを飲んだ化学者の症状は比較的軽度で、死にはしなかったらしいですけど、後日「湿った土壌がコレラ発症に関わっている」とする自説が空想の産物だとわかって、ピストルをこめかみに当てて自殺したそうです。「これが彼の最後の実験となった」とあります。ウイルスの発見やワクチンの開発についても書かれているため、いま読んでもおもしろいと思います。


——瘴気説というのは、細菌やウイルスが発見される以前に考えられていた、「悪い空気」が病気を引き起こすといった考えですね。現代日本では、瘴気って『風の谷のナウシカ』のイメージしかないですけどね。


藤井:ナショナルジオグラフィック社もいろんな奇妙な本を出していて、『科学で解き明かす 禁断の世界』(日経ナショナル ジオグラフィック)は、変わった科学を紹介している本です。たとえば「死体と交わるカラス」には、屍姦するカラスを目撃した科学者の話が書かれています。そのことをきっかけに彼女はカラスの死にまつわる行動について研究を始め、彼女の実験では24パーセントのカラスが死体をつついたり引っ張ったりして、中には死体をバラバラにしたケースもあったそうです。


——うへぇ……。この本の帯には「気持ち悪いこと、怖いこと、そしてタブーも全部面白い」とまで書かれていますね。


藤井:ほかにも同書では、エレナと呼ばれたひとりの女性を愛しすぎたゆえに7年間、遺体をずっと手元に置き、屍姦までしていたフォン・コーゼルの話も紹介されています。エレナの死体を解剖した医師たちによると、屍姦の痕跡が見つかったそうです。結局、彼は時効で処罰を免れ、12年後に自宅でひとり亡くなるのですが、そのとき彼のそばには実物大のエレナの人形があったそうです……。ネクロフィリアの間では非常に有名な話で、『死せる花嫁への愛——死体と暮らしたある医師の真実』(早川書房)という本にもなっています。その本もプレミアがついて2万円ぐらいしますね。


——どことなく、いい話のタイトルの本なのかと思いきや、ネクロフィリアの話なんですね……。



書肆ゲンシシャ
大分県別府市にある、古書店・出版社・カルチャーセンター。「驚異の陳列室」を標榜しており、店内には珍しい写真集や画集などが数多くコレクションされている。1000円払えばジュースか紅茶を1杯飲みながら、1時間滞在してそれらを閲覧できる。
所在地:大分県別府市青山町7-58 青山ビル1F/電話:0977-85-7515
http://www.genshisha.jp

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