樋口恵子 家事やお風呂、歳をとるとすべてが「老っ苦う(おっくう)」に。うまくつき合うワザは「家族以外の人の手を借りる」こと。樋口さんが利用するサービスとは

2025年1月20日(月)12時30分 婦人公論.jp


(写真提供:Photo AC)

内閣府が公表している「令和6年版 高齢社会白書」によると、令和52年の平均寿命は男性で85.89年、女性で91.94年になる見込みだそうです。年々平均寿命が延び「人生100年時代」ともいわれる昨今ですが、92歳の評論家・樋口恵子さんは「80代、90代を心身ともに健やかに生きるのは至難の業」と語っています。そこで今回は、樋口さんの新著『老いてもヒグチ。転ばぬ先の幸せのヒント』から“ヨタヘロ期”を生きていくための心得を一部ご紹介します。

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毎日が「老っ苦う」。うまくつき合うワザがある


後期高齢者の仲間入りとともに湧いてくる億劫の虫

歳をとったらすべてが億劫さとの闘いです。食卓を整えるのも、お風呂に入ることさえも、なかなか行動に移す気になりません。体を動かさないと次に進めないので、「エイッ!」と気合いを入れて無理やり自分を鼓舞している状態です。

億劫は「老っ苦う(おっくう)」。これを老っ苦うといわずして何と呼べばいいのでしょう。まさに、老いの苦しみとの闘いです。

友だちに会いに行くのも、以前はあんなに楽しみにしていたのに、いまは雨でも降ろうものなら、出かけるのが億劫でやめてしまうありさま。家で寝っ転がって、テレビでもみていたほうが楽だと思うからです。

「これではいけない」と思い直し、そのたびに、億劫を追い払っているわけですが、闘い過ぎると疲れ果て、逆に生きる気力が萎えてきます。がんばりが効かないのも、また老いなのです。

はて私は、何歳ぐらいまで億劫さを感じなかったのか?

振り返ってみると、70代半ばくらいまでは、地方での講演も苦にならず、元気よく行っていました。それが「アラ傘寿」の声を聴くようになった頃から、億劫の虫が頭をもたげてきたのです。

75歳以上の人を「後期高齢者」と呼ぶのはいかがなものか、と思っていましたが、75〜80歳くらいが、老いの階段を上がり始める一、二歩めであることは認めざるを得ません。

人前に出る機会を作り、気合いを入れて億劫を振り払う


では、億劫に立ち向かうために、どこで気合いを入れるかというと、私の場合は仕事です。

仕事の依頼があれば、資料を読み込んだり、文章を書いたりしなければなりませんから、横になっている体を無理にでも縦にして机に向かいます。


『老いてもヒグチ。転ばぬ先の幸せのヒント』(著:樋口恵子/清流出版)

新聞や雑誌の取材があれば、あらかじめ与えられたテーマについて、考えをまとめて、記憶違いがないか調べたりします。たまに、テレビ出演なんてこともあり、そんな時は美容院に行って身なりを整えます。緊張もしますから背筋がシャンとします。

人と会ったり、人前に出るとなれば、自ずと気合いが入るものです。

億劫になるのは、たぶん、すぐにでもやらなければならない緊急性や切迫した事情がないからだと思います。

だとしたら、意識して人と会ったり、人前に出る機会を作ったりするのはどうでしょう。そのためには、外に出かけて行かなければなりません。趣味の習い事でもいいし、勉強会でもいいのです。月に1回や、週に1回の予定をカレンダーに書き込むだけでも、やる気が出てくるのではないでしょうか。

負担になる家事は人に頼み、億劫と上手につき合う


とはいえ、いつも、やる気満タンでいるわけにはいきません。そこは疲れない程度に調整しながらやっていくのがいいのです。

億劫を否定するのではなく、老いの自覚をもちつつ、ある程度は受け入れたほうが、自分の身を守ることができます。

負担になってきた家事などは、人に頼むというワザを使いましょう。私の場合は、週に2日、シルバー人材センター[注1]の人に来てもらい、食事作りと、掃除、洗濯をしてもらっています。

最初は代金が割安なのがいいと思いお願いしたのですが、スタッフは地域に住んでいる人たちなので、知っている先生がいた学校のことなど、共通の話題があるのです。親近感が湧いて、いまではとても心強く思っています。

それに、皆さん家事のベテランです。食事はおいしく、部屋はすっきり清潔にしてくれます。

億劫に立ち向かいながらも、苦しい部分は無理をせずに人にお願いしながら、上手に老いとつき合っていく。その億劫を自分だけ、家族だけで解決しようとしないこと。これは、人生100年時代を生き抜く知恵の一つです。

自助より共助


家事を、家族以外の人の手を借りて解決することを可能にする、世の中の仕組みも徐々にできつつあります。食事に関しては、コンビニには少量パックのお惣菜がいろいろあるし、宅配のお弁当も便利です。お財布に余裕があれば、家事代行サービスを利用するのもいいでしょう。

それらを利用し、家事や調理をアウトソーシングすること自体、働ける人が働けない人を助ける仕組み作りに貢献します。

高齢になればなるほど、自助より共助が大事なのです。

注1 シルバー人材センター:「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」に定められた、地域ごとに設置されている会員組織。原則60歳以上が会員として登録可能で、仕事の種類や発注などの詳細は地域のシルバー人材センターにより異なる。

※本稿は、『老いてもヒグチ。転ばぬ先の幸せのヒント』(清流出版)の一部を再編集したものです。

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