医療的ケア児の母「一緒に映画館に行けるなんて」…機器操作のため照明など配慮し上映会、神奈川で開催

2025年1月20日(月)16時47分 読売新聞

神奈川県庁

 日常的に医療支援が必要な「医療的ケア児」に映画を楽しんでもらおうと、神奈川県などが主催する上映会「ともいきシネマ」が昨年12月、茅ヶ崎市の映画館で開催された。同伴の保護者らにも好評で、黒岩知事は定期開催に意欲的だが、課題も見えてきた。(山崎永麗南)

 医療的ケア児は、たんの吸引や人工呼吸器の装着など医療支援が欠かせない子ども。使用する機器が音や光を発するため、これまで映画鑑賞は難しかった。

 ともに生きるを略した「ともいきシネマ」は、医療的ケア児を持つ親から「映画館で一緒に映画を見るのが夢」という声を聞いた黒岩知事自らが企画した。2023年、県施設「あーすぷらざ」(横浜市栄区)で開催し、参加者から好意的な意見が寄せられ、昨年12月26日には民間の映画館としては初めて「イオンシネマ茅ヶ崎」で開催された。約140人の医療的ケア児と家族などが全国上映中のファンタジー映画「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」を楽しみ、上映後には拍手が起こるなど盛り上がった。

 車いすやストレッチャーに乗ったままでも安全に鑑賞できるよう、上映中は照明を明るめに設定し、手元が見やすいようにするなど工夫が施された。

 茅ヶ崎市の中学2年(14)と一緒に鑑賞した母(43)は「たんの吸引も問題なくできた。一緒に映画館に行けるなんて思ってもみなかった」と喜んだ。

 一方で、定期開催にはハードルもある。通常のシアタールームでの鑑賞はストレッチャーに寝ている状態だと前の座席の背もたれが視界を妨げるため、広い会場を用意する必要がある。車いすやストレッチャーの出入りにも時間がかかるため、映画館側は今回、他作品の上映時間をずらしたり、入場時間を通常より多く確保したりして対応した。

 また、館内にバリアフリー化されたトイレがない場合、一度外に出なければならない。今回は参加者にシールが配布され、チケットを提示しなくても簡単に再入場できるようにした。

 映画館の担当者は「参加者の喜ぶ顔が見られ、力になれたことがうれしい。定期開催には協議を重ね、課題を解決していく必要がある」。黒岩知事は「ともいきシネマが当たり前に開催できる社会にしていきたい」と述べた。

 県医療企画課によると、県内の医療的ケア児は2023年度時点で872人と推計される。ケア児を抱える家庭への支援や情報提供のため、県は「かながわ医療的ケア児支援センター」を設置し、県内16か所に相談窓口がある。専門資格を持つコーディネーターがいたり、各自治体の支援内容を紹介したりしている。

 県と共同で「ともいきシネマ」を主催した、医療的ケア児の保護者らで作る「呼吸器生活向上委員会」の鈴木妙佳子代表(48)は、「映画館の下見など県が全面的に協力してくれた」と感謝し、次はスポーツ観戦を実現させたいと期待する。「ストレッチャーを使う子どもは、車いすエリアでは体を起こすことができず競技が見られない。一歩ずつ課題をクリアし、バリアフリーの概念を広げていきたい」と話す。

ヨミドクター 中学受験サポート 読売新聞購読ボタン 読売新聞

「医療」をもっと詳しく

「医療」のニュース

「医療」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ