受診歴がない病院で胸部レントゲン診断を受けると…医師が解釈を間違えやすいパターンとは?《総合診療医が解説》

2025年2月4日(火)7時0分 文春オンライン


健康診断の結果という“数字の羅列”を、身体を読み解くコンパスに変える——。総合診療医・伊藤大介氏が、「画像診断」欄の所見をチェックする際に覚えておくべきことについて 解説します 。


■月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」で一気に読める「 連載:健康診断は宝の地図だ 」
・ 第1回 「進行レベル」と「進行速度」を意識せよ
・ 第2回 健診結果の見方は〈年代別〉で全く違う!
・ 第3回 肝臓、腎臓のダメージが分かる「検査項目の組み合わせ」  
・ 第4回 血圧、動脈硬化のリスクが分かる「検査数値の組み合わせ」
・ 第5回 糖尿病リスクが分かる「検査数値の組み合わせ」
・ 第6回 頭が重い、肌荒れ…体調不良の原因が分かる検診結果の見方
・ 第7回 胸部レントゲン・心電図の「C・D判定」は即病院に向かえ!
フル動画 総合診療医が実況解説! 健康診断の活用術



◆◆◆


分かりにくい画像診断の所見


 読者のみなさんは、健康診断の結果表に記載されている「胸部レントゲン」や「心電図」など画像診断の所見を気にしたことはあるでしょうか。


「胸膜肥厚」や「T波低下」などの難しい専門用語が書いてあり、「どうすればよいかわからない」と戸惑われた方も多いと思います。ただ、画像診断からも重篤な病気のリスクがわかるので、決して無視すべきではありません。



医師が解釈を間違いやすいパターンがある (写真はイメージ)©masamasa3/イメージマート


 そこで、今回は画像診断の解釈の仕方から、意外な裏事情までを、わかりやすく解説していきます。


画像診断は「芸術作品」の解釈に似ている


 本題に入る前に、まずは前提として知っておいてほしい事実があります。


 レントゲンやCT、MRIなどの画像から体の状態を読み解く技術は、 科学的な根拠に基づいた高度な医療技術であると同時に、実は医師の経験と洞察力に大きく左右される側面も持ち合わせている、ということです。ある意味では“芸術作品”の解釈にも似ていると、私は思っています。


 特にレントゲン画像の診断は、 まるで展覧会の絵を読み解くようなものです。


 例えば、一枚の抽象画を想像してみてください。背景の一部に、細かくてよくわからない「何か」が描かれているとします。よく見ると、遊んでいる子供のようでもあるし、動物のようでもある。「何に見えるか」は見る人の主観や知見に左右されます。「子供」と答える人もいれば、「動物」と答える人もいるでしょう。


 レントゲンの画像も同じです。


 ある医師は、レントゲン画像に写る肺や乳房の影の形や大きさ、濃淡を見て「これは、がんだ」と判断するかもしれません。注意深い医師であれば、そこからがんの種類や進行度までをも高い精度で推測できることもあります。一方で別の医師は、同じ影を見て「炎症だろう」と判断するかもしれない。絵画を見る人によって解釈が異なるように、その医師が備えている経験や技能、洞察力によって診断結果が変わってくることがあるのです。


医師が解釈を間違いやすいパターンは?


 なかでも、医師が画像診断を間違えやすいパターンがあります。


 その一つは医師の専門分野によってズレが生じるケースです。「胸部レントゲン」の同じ画像を見ても、呼吸器の専門医であれば、当然、肺に注目しますし、循環器の専門医であれば心臓に注目します。一枚の画像もそれだけ注目すべき箇所が多く、導き出される診断結果にも幅が出てしまうのです。


 このことは同じ絵画を見ても、画家であれば作者の技法に注目し、美術史家であれば、その絵画が描かれた時代背景に注目するといったように専門分野によって注目ポイントが異なることと似ています。


 もう一つは、患者さんの体質や病歴を考慮できないケースです。


 例えば、長年にわたり喫煙習慣のある患者さんの肺のレントゲン画像に影が見つかった場合、医師は、喫煙歴のまったくない患者さんと比べて、当然、肺がんの可能性が高いと考えるでしょう。


 その患者さんの過去のレントゲン画像と比較することで、 変化の有無をより正確に判断することができるのですが、時々しか利用しない病院で診察を受けたり、そもそも受診歴がない病院だったりすると、過去の画像を参照できないことになります。そのようなケースが意外に多いのです。


 本来、医師であれば、患者さんの過去のレントゲン画像と比較することの重要性は、研修期間中に繰り返し教え込まれているはずです。私も研修医時代、指導医から「過去の画像を見ずに診断するなんて、楽譜を見ずに演奏するようなものだ」と厳しく叱責されたことを今でも鮮明に覚えています。



※本記事の全文は、文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(伊藤大介「 健康診断は宝の地図だ 第7回 」)。
全文では、医師の診断基準の「厳しさ」と「緩さ」、画像診断を間違われないために患者にできること、画像診断で「C」や「D」が出た時の対処法、胸部レントゲンで注意すべき所見などについても、伊藤医師が解説しています。



■ 連載「健康診断は宝の地図だ 」
・ 第1回 健康診断は宝の地図だ  「進行レベル」と「進行速度」を意識せよ
・ 第2回 健診結果の見方は〈年代別〉で全く違う!
・ 第3回 肝臓、腎臓のダメージが分かる「検査項目の組み合わせ」  
・ 第4回 血圧、動脈硬化のリスクが分かる「検査数値の組み合わせ」
・ 第5回 糖尿病リスクが分かる「検査数値の組み合わせ」
・ 第6回 頭が重い、肌荒れ…体調不良の原因が分かる検診結果の見方
・ 第7回 胸部レントゲン・心電図の「C・D判定」は即病院に向かえ!
・【動画】総合診療医が実況解説! 健康診断の活用術



(伊藤 大介/文藝春秋 電子版オリジナル)

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