映倫が震えたグロホラー映画『真・事故物件』佐々木勝己監督に直撃インタビュー!「グロで癒やされる人もいる」

2022年2月22日(火)13時0分 tocana


 現在公開中のTOCANA製作映画『真・事故物件/本当に怖い住民たち』が全国に旋風を巻き起こしている。「事故物件に住んで幽霊をカメラに収めるまで帰れない」という企画にユーチューバーとアイドルの卵たちが挑戦するも次々と心霊現象に襲われ、その場所が日本犯罪史上もっとも凄惨なバラバラ殺人の現場であることが判明、やがて恐ろしい隣人まで現れ…… という現代的なプロットに“限界まで攻めた”グロテスク描写を重ねながら、しかし決してそれだけでは終わらない鑑賞者の予想を超えた帰結と余韻を残す、Jホラーの新たな地平を切り拓いた問題作だ。




 多くの人の度肝を抜いている本作の監督・脚本を務めた人物こそ、佐々木勝己。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2019の正式招待作品『星に願いを』で一躍注目を集め、『真・事故物件』によって初めて全国の劇場にその名を轟かせることになった、日本映画界きっての新星だ。作品の深部と現場の全てを知る監督自身が、アツい想いと裏話をあますところなく語ってくれた。


■僕はゴアを撮り続ける


——『真・事故物件』、とても楽しめました。怖さはもちろん、斬新な音楽の使い方や終盤に向けて爽快感へと変わる加速力など、今までのホラー映画で見たことがないものでした。監督としてはいかがですか?


佐々木勝己(以下、佐々木)  最後はブーストをかけたいと撮影中から考えていて、実現できたのは良かったです。


——事故物件というメインテーマに、悪魔祓い、バラバラ殺人、血まみれなど様々な要素が投入されていますが、その真意とは?


佐々木  ご依頼をいただいて、最初からやりたい要素をごった煮にしたいと思っていたんです。脚本を書いているうちに、ベースとなる実録部分がだんだんファンタジーになっていきました。


——原案を見たときはどう思われたのでしょうか?


佐々木  「事故物件」と「ユーチューバー」を取り扱うのは、正直難しいと思いました。また原案には「あさま山荘事件」のような要素もあったのですが、お互いさすがにそれは…… となりました(笑)。


 まずは、とにかく事故物件をちゃんと怖いものにすることを目指し、それから原案よりもグロを含めた恐怖描写は多くなりました。前半のJホラー要素のタイミングや間も、“本家”より怖くなるように慎重に編集していきました。でも、Jホラーの王道のような作品は、自分としては得意じゃないんですよ。ラストに向けてのハチャメチャな展開が自分の持ち味だと思っています。


——最後の展開には監督の味が出ていました。やり切った思いはありますか?


佐々木  最終日の撮影は予定の時間を過ぎて、夜に撮影していたはずなのに、外に出たら昼になっていましたね。もう時間の感覚もなくなっていました。心ここにあらずの状態でしたが、撮り切ったとは思います。


——ホラーの怖さにもいろんな種類があると思います。佐々木監督が本作で目指したものとは?


佐々木  僕は、ゴア映画(所謂スプラッター映画。70年代ぐらいまでは、ゴアと呼んだ)、エクスプロイテーションムービー(B級映画)に憧れがあったんです。例えば、ルチオ・フルチ監督、ブルーノ・マッティ監督、日本だと『ギニーピッグ』シリーズとか。当時はビデオで鑑賞して、「ヤバイ映画だ」「変な映画だ」という衝撃が凄まじかったです。そんな風にホラーが娯楽として第一線だったころの映画を、復興はできなくても、何かしらの形に継承したい思いがありました。


 過激なホラー映画は、カルチャーのメインストリームになくても、映画館やストリーミングなど自分で選択して見ることができるなら、あったほうがいいと僕は思っています。川松尚良監督(※)に言われた好きな言葉があります。それは「『風と共に去りぬ』で泣けない人もいるんだよ」です。だから『真・事故物件』が癒やしになる人、生きる力になる人も一定数いるはずです。ニッチな映画は消えてはいけないんです。だから、Jホラーよりさらにコアなゴア描写に特化した『真・事故物件』を才能あふれた若者が見て、道を踏み外してくれるかもしれません。それも狙いなんです。本音をいうとまっとうに映画を作るならグロはやらないほうがいいとアドバイスしたいですけどね……。


——この作品には、次世代につなぐ熱い思いもあったんですね。ホラー監督の川松尚良さん(※)も佐々木監督のことを「ゴア映画に誠心誠意取り組んでいるのは、僕と佐々木監督だけだ」と褒めていました。


※ TOCANAと川松尚良監督が組んだ配信番組「猟奇事件暴露ファイル」はコチラ!


佐々木  たしかに周りを見ても他にいないですね……。


 でも例えば、アクションはコメディになりえますし、アクションとの両立もできます。全てのジャンルはつながっているんですよ。だから、グロくても感動する映画、ゴアでもスッキリする映画があっていいんです。ゴアな表現は、普通より味が濃いけど、あくまでも手段なんです。これが好みの人に届いてほしいので、今回たくさんの劇場で公開されるのがすごくありがたいです。


 ここ10年ほど言われてますが、いろんな分野の二極化が映画にも起きています。インディーズか、大作か、という形です。その中間の、商業ベースで変な味付けのものが減っています。たしかに年齢制限などの配慮は重要ですが、配慮され尽くしたものばかり見ていると映画への感動がなくなってしまいます。過激な映画で育ったり、それを見て映画を撮ろうと思った人もいてほしい。次世代のそういう人たちが出るまで、僕はゴアを撮れたらいいなと考えています。



■これはグロホラーのスターターパックだ!


——素晴らしいお考えですね。今作は、映倫が脚本審査を拒否したとのことですが、どういう経緯なのでしょうか?


佐々木  脚本段階では、文字にすると「バラバラにする」「嘔吐する」「四肢が切り裂かれる」といった表現が多用されることになります。それが画になったものを想像すると、あまりにも過激だと受け取られますから、正式の審査前に拒否されたんです。映像にすると、しっかりとしたプロセスがあり、受け止め方も変わるからか、すんなり通りました。


——なるほど。編集では撮った素材をどれくらい削りましたか?


佐々木  2シーンぐらいはカットしましたが、今回はほとんど入れましたね。やり始めるといつまでもできるぐらい編集は楽しかったです。最後に色を仕上げてもらうカメラマンが一番大変だったと思います。僕は好き勝手に切り貼りしていました。


——では、今作ではもっとこうしたかったという後悔はないですか?


佐々木  本当はもっとゴアを盛りたかったですけど、仕上がりはポップになって、いい意味で受け皿を広げられそうな形でまとまりました。グロすぎるだけだと、いろんな人に見られなくなりそうですからね。うまく王道のJホラーの怖さと邦画で見かけない残酷描写が調和して、グロホラー映画のスターターパックのような仕上がりになったと思います。さらに後味がスッキリなので、どんな人でも見やすい映画だと思います。


——今作で監督が苦労したシーンはどこですか?


佐々木  前半の幽霊と、物理面ではやっぱりグロ描写ですね。グロ描写は撮影時間がどうしてもかかってしまうので、大変でした。


 逆に「何を、どうすればもっと怖いか」と脳と神経をフル回転させたのは、幽霊のシーンですね。結局、自分の中でも怖さの結論は出ませんでした。それを知るには、永遠に映画を撮り続けるしかないですね。


——たしかに難しい問いですね。個々によって基準が異なる中で、どうやって恐怖の本質に迫れるか、っていう話になりますもんね。監督個人としては何が怖いですか?


佐々木  うーん……、警察かな。1日2回とか、しょっちゅう職務質問されるんですよ。フィクションより、現実の方が怖いです。


(一同大爆笑)


——何もしてなくても嫌なものですよね(笑)。そういえば、予告編にも一瞬映っている口から“アレ”を引っ張り出すシーンですが、スゴかったですね。あのシーンは思い入れがありますか?


佐々木  学生のころからずっと口から何かが出てくる描写がやりたかったんです。それは2本の映画から影響を受けています。一つは、ルチオ・フルチ監督の『地獄の門』という映画で、一度死んだ神父に睨まれた女の子が目から血を流し、内臓を吐き出すシーン。もう一つは、ブルーノ・マッティ監督の『ヘル・オブ・ザ・リビングデッド』でラストにゾンビの大群に囲まれたヒロインが舌を引っこ抜かれて、目ん玉が「ポーン!」と出て終わるシーンです。あれは衝撃でしたね。眼球が吹っ飛んで、何を思えばいいんだろうと真剣に考えました。


——驚きで言葉を失いそうですね。あのシーンの撮影は大変でしたか?


佐々木  予算的にも時間的にも、リアルさの追求には限界があるので確かに大変でしたが、持ち駒をフルに使って何とか良いシーンに仕上がったと思います。



■家族連れや高校生カップルにこそ見てほしい


——撮影で危険だったことはありましたか?


佐々木  いや。本物の古い刃物が出てくるので、その扱いに注意したくらいですね。演者さんに悪かったのは撮影時間が長くなってしまったこと。他に危ないことは僕も、スタッフもさせないようにしていました。


——現場で心霊現象は起こりませんでしたか?


佐々木  残念ながらなかったですね。撮影が終わって、外の駐車場の地べたに座ってたら、野良猫が来て、血のりのついた指をペロペロ舐めていたぐらいですかね。


——その光景だけ見るとホラーですね(笑)。撮影現場ではなく、監督個人として心霊体験はお持ちですか?


佐々木  本当にないんですよね。唯一あったのは、霊感があるタレントさんに「監督、後ろに髪の長い女性が憑いていますよ」と言われたことくらいです。「一体誰なんですか」と僕が聞いても、タレントさんは「フフッ」としか教えてくれませんでした。別の仕事で霊媒師さんには、「マイペースな霊が憑いてるから、他の霊障が近寄ってこないです」と言われました。その霊のおかげで平和なのかもしれませんね。


——いや、客観的に恐怖を追求できるわけですから、ホラー監督としては望ましいことだと思いますよ。今作は、イオンシネマなど日本全国で公開されます。どんな人に見てほしいですか?


佐々木  イオンに家族連れで来た人たちにぜひ見てほしいですけど、見ちゃダメですよね(笑)。でも、R-15指定なので高校生カップルにはオススメしたいですし、泣きながら映画館から出てきてほしいです。彼女が「なんでこんな映画選んだの!」、男が「知らなかったんだってー!」みたいな微笑ましいケンカが見たいです。そのまま学校で口から何かを出すのが流行したりしないですかね〜!


——今後はどんな作品を予定していますか?


佐々木  スプラッターミュージカルをやりたいんです。『ゆれる人魚』(ポーランド/2018年/アグニェシュカ・スモチンスカ監督)みたいな作品です。曲を作って、振り付けがあって、と予算がかかりそうなので、なかなか企画は通りづらいですが……。


——最後に読者にメッセージをお願いします。


佐々木  トカナ読者の方は、グロ描写にも耐性があるでしょうし、ぜひご覧いただきたいです。また、スターターパックなので、出演者さんのファンの方やホラーが苦手な方でも面白く見られる作品になっています。よろしくお願いします。


 映画『真・事故物件/本当に怖い住民たち』は今、全国で多くの観客を動員し、SNSなどでも大きな盛り上がりを見せている。ここで佐々木監督が語ってくれたような想いが、着実に届いている証拠だろう。観客はもちろんのこと、次世代ホラーの創り手に向けたグロ表現と怖さの追求が本作にはたくさん詰まっている。商業ベースの中でギリギリまで攻め、自主規制ばかりの現代日本エンタメ界でもっとも清々しく振り切った、この斬新な表現をぜひとも劇場の大スクリーンで味わってほしい。




映画『真・事故物件/本当に怖い住民たち』
(制作・配給:TOCANA)
ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、新宿シネマカリテ ほか全国公開中!
【公式サイト】https://shin-jiko.com



佐々木勝己(ささき・かつみ)
映画監督。1989年生まれ。2019年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭正式出品作品『星に願いを』で注目をされ、本作の監督・脚本に抜擢された。
Twitter:@kiikuruute


 

tocana

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