成果を上げながら定時で帰る仕事術 第245回 多数決が意思決定の質を下げる理由

2024年3月4日(月)10時52分 マイナビニュース

本連載の第244回では「会議での無用な反発を避けるために気を付けるべきこと」という話をお伝えしました。今回は多数決により意思決定の質が下がってしまう理由についてお話します。
会議で何らかの意思決定をするときに多数決を使うことはありませんか。新規エリアへの出店、フレックスタイム制の導入、営業支援システムのクラウドへの移行など、経営に大きく影響するような重要な意思決定について多数決で決めている会社もあるかと思います。しかし、本当にそれでよいのでしょうか。
そもそもなぜ多数決で意思決定を行っているのかを問うと、様々な回答が返ってきます。「以前から重要な意思決定については多数決を行うことになっているから」という回答もありますが、これはもはや理由ではなく経緯なので論外として、他にも「民主主義的に決めるのがよいから」という政治信条とも受け取れる回答や、「過半数の人が賛同するならそれなりに正しそうだから」という希望的観測による回答、それに「手っ取り早いから」という意思決定のスピードに着目した回答もあります。
最後に挙げた回答のように、多数決は確かに「手っ取り早い」意思決定方法かもしれません。もし当該の意思決定における最優先事項がスピードにあって意思決定の質を問わない場合、つまり重要でない事柄であれば多数決でもよいかもしれません。しかしながら、重要な意思決定であれば多数決はお勧めしません。それは、意思決定の質を下げてしまうからです。
意思決定を多数決に委ねるということは、「多数派の選択が少数派より正しい」とみなしていることと同義です。しかし、多数派の選択は少数派より正しいのでしょうか。政治の世界では、少なくとも民主主義の制度が浸透している国であれば選挙を通じて多数派の意見が反映されるようになっています。しかし、民主主義的であるかどうかと「その選択が論理的・客観的に正しいかどうか」は本来関係がないはずです。
なお、会議での意思決定において明確に採決を取らないにしても、「なんとなくこっちの方がいいよね、という雰囲気が漂っている」という空気感で物事が決まっていくことがあったりします。これについても気を付けなければなりません。意思決定の際には「多数派=正しい ではない」ということを意識して臨みましょう。
また、多数決では当然、多数派にとって不利なことは採用されません。そして、それは組織や会社全体の全体最適の実現を邪魔することになりかねません。論理的に考えて会社の成長や顧客にとってプラスになるようなことであっても、意思決定に多数決を採用してしまうと会議参加者の多数派にとってマイナスになるようなことは否決されてしまうのは必定です。
たとえば、会社全体でDX(デジタルトランスフォーメーション)をすることになったとします。そのための第一歩として、「まずは現場の声を聴こう」ということで営業所のペーパーレス化を推進するために、社員のAさんは大量の紙に埋もれて業務をしている営業所員を集めて次のように話しました。
「まずは手始めに、営業所のペーパーレス化から取り組みたいと考えています。その前提として現場の皆さんの意思を尊重する必要があるので、ペーパーレス化の推進是非について皆さんに問います。ペーパーレス化に賛成の方は挙手をお願いします。」
この進め方は明らかに悪手です。というのもこのケースのような場合、特に年配のベテラン社員が多い場合には、「変化することへの抵抗感」から反対する人が多いのです。ペーパーレス化によって現場の業務を効率化すれば営業所員の業務も楽になるはずなのですが、長年の経験で体に染みついたやり方を変えることは当人にとって面倒でしかありません。ましてや会社全体にとってのプラスになるかどうかという視点を過半数の営業所員が持ち合わせていることはあまり期待できません。
このように、多数決で意思決定をすることによって却って部分最適に陥ってしまったり、部分的にすらマイナスの結果をもたらしたりすることになりかねません。
また、多数決を選んだ時点で思考停止してしまうのも問題です。そもそも意思決定とは複数あるオプションの内どれか1つ、或いは複数のオプションを選択することですが、本来は「なぜその選択肢を選ぶのか」を突き詰めて考えた上に答えを出すべきものです。
そもそも意思決定しなければならないのは、会社や組織のリソースが限られているからです。もし人、モノ、カネといったリソースが無限にあれば、やりたいことは全てやればいいはずです。しかし大小の差はあれど、会社や組織のリソースが限られている以上は「何を取って」「何を捨てるのか」を決めなければなりません。つまり、貴重なリソースをどのように配分するのかを決めるのです。そのために意思決定においては「これがベストな選択だ」と自信を持って言えるものを選ぶべきです。
それにも関わらず多数決で決めようとするのは、その時点で考えるのを放棄してしまうのと同義であり、会社や組織の貴重なリソースを無駄にしてしまっても構わないのか、と疑われても仕方ありません。
意思決定は多数決ではなく、しっかりと議論をした上で結論を導くことがどれほど重要かを理解していただけていれば幸いです。
相原秀哉 あいはらひでや 株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役 慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 "Lean Master"に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。著書に『リモートワーク段取り仕事術』(明日香出版社)がある。 この著者の記事一覧はこちら

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