生き方の選択肢を提案する、地域コーディネーター・石坂達さん。

2023年3月7日(火)11時0分 ソトコト

未来が変わる実感が得られる、人口約7000人の離島で。


自然に人に助けを求められる人だと思うんです。『困っているよ』とか、『これ、みんなでやりたいよ』っていうのをちゃんと伝えているから、島の人に愛されるんだと思います」


久米島で地域コーディネーターとしてさまざまな活動を行う合同会社『PLUCK』の代表・石坂達(とおる)さん。前述のコメントは妻の未来さん(愛称はうっちーさん)による人物評だ。島の誰からも「いっしー」と呼ばれて親しまれ、久米島の暮らしを豊かにするべく日々奔走している。さぞかし、久米島へ強い思い入れがあるのかと思えば、「大事なのは、単純に自分がやりたくて、いたくて久米島にいること。その結果として『地域のためにもなるよ』くらいの温度感だと思うんです」と、飄々と語る。 それが、入れ込みすぎて空回りした時期があったからこその、石坂さんなりの地域との距離感なのだ。自分を受け入れてくれたことへの感謝と、社会実験のためのフィールドと捉えている。





さて、久米島がどこにあるかご存じだろうか。那覇空港から飛行機に乗ることおよそ30分、沖縄本島の西約100キロに位置する離島だ。人口およそ7000人の小さな島で、その自然は美しく、古くから「球美の島」とも呼ばれるほど。取材の日は石坂さんがご家族で空港まで取材班を迎えに来てくれて、彼のフィールドである久米島を案内してもらった。訪れたのが2022年の11月の終わりということもあって、すれ違う車の数も少ない。





「これは僕の感覚ですが、仕事を頑張ると喜んでくれる人がちゃんとすぐそばにいて、その結果として未来がちょっと変わる。それを体感できるのが人口1万人以下の島。だから、この規模感の場所で、衰退期の日本の田舎で楽しく生きていける方法を模索したかった。そしてそれには関係人口、つまり仲間をつくることがとても大切な要素だと思うんです」


地方で体験した、「受け入れられる」こと。


石坂さんは埼玉県朝霞市の出身。東京農工大学農学部を卒業後、ITメガベンチャーに就職。職場は東京・千代田区永田町の近辺だった。都会暮らしは刺激的な一方、多忙で疲れも溜まる。息苦しさを感じていたころに、友人からの勧めもあって移住したのが島根県は隠岐諸島・海士町だった。現在の『風と土と』という会社で、地域づくり・教育事業コーディネーターとして働いた。





その時に感じたのが、何かをした訳でもないのに、「いていいんだよ」と言ってもらえる感覚。東京から弾き出されたようにして移住してきた石坂さんにとって、ありのままの自分で受け入れてもらえた体験は大きな出来事だった。だから、都会でもし居心地の悪い人がいたなら、地方に居場所がある、ということを知ってほしい。そういう場所をつくっていきたい。それが活動の根っこになった。


「海士町で学んだことを試せる場所が欲しかったし、外で結果を残すことで、海士町に恩返ししたい、という思いもあるんです」








<思いを同じにする、仲間と呼べる 関係をつくっていきたい!>








シェアで生活コストを減らし、「身の丈にあった起業」で生計を。


島根県・海士町で地域コーディネーターとして働いていた石坂さんは、「事業をしている人の話を聞く、人をつなぐ」ということだけではなく、次第に自分で事業をやるなど「打席に立ちたい」と思うようになった。そんな時に声をかけてくれたのが『Prima Pinguino』の藤岡慎二さん。全国各地で教育の魅力化に取り組んでいて、久米島でもその事業を立ち上げた頃だった。


さっそく久米島に行くと、「泡盛の酒粕やウコンで鶏を育てる『久米島赤鶏牧場』の山城昌泉さんなど、おもしろい取り組みをしている人がいて、そういう人の周りには心地よいコミュニティもあって。ちょうど、第2次久米島町総合計画の発表の時で、『これから生まれる未来に自分も関われそうだな。自分が関わることで変わる未来があるかも』という期待感がありました」。社会の変化を感じ取れそうな島の規模感と、美しい海。さまざまな要素に惹かれて、起業を視野に移住を決意した。





まずは地域おこし協力隊隊員として移住定住推進の仕事に従事。移住に関する情報をまとめたホームページを運営したり、移住フェアなどのイベントを企画したりしながら、起業のための基盤を固めていった。妻の未来さんは地域おこし協力隊の1年後輩だ。








移住から3年後の2019年に合同会社の『PLUCK』を起こした。現在の活動で主なものは大きく2つある。ひとつは「地方の暮らしは所得が低いことが多いので、物を所有することに向いてない」という思いから始めた「久米島シェアランドプロジェクト」。シェアを通して生活コストを下げるため、「島民で物を貸したり、共有したり、譲ったりしていこう」という趣旨でスタートし、Facebookに立ち上げた「久米島 あげます・譲ります掲示板」は現在、500人ほどが参加している。





もうひとつは「身の丈にあった起業」。そのためにつくったのが「久米島町 複業ギルド」という仕組みだ。ホームページやパンフレットの制作、webライティングなどの仕事を請け負っては、複業をする仲間に仕事を割り振って協業している。「関係人口の創出って、言い換えると仲間づくりなんです。地域の活性化とか、ある仕事の欠員を補充するためとかっていう目的のために増やすのではなくて、一緒に働いて楽しい仲間をつくりたい、仲間と関わり続けたいから仕事をつくる、そんな温度感なんです。だから僕にとっては、関係人口の創出は地域を活性化するための手段ではなく、それ自体が目的なんです」。


地域の活性化をどうするか。それは何も難しい話ではなくて、大切なのは、自分たちの暮らしのフィールドを豊かにするために「一緒にいたい仲間と、心地よい居場所をつくりたい」、そんなシンプルな思いなのかもしれない。


都会の暮らしで息苦しいと感じる人がいたなら、少しだけ顔を上げてあたりを見回してみてほしい。ほかにもきっと居場所はある。もちろんその選択肢のひとつに、久米島がある。





『PLUCK』・石坂 達さんが気になる、関わりを楽しむコンテンツ。


Website:Learning Village
https://learningvillage.sharevillage.co
コミュニティプラットフォームを運営する『シェアビレッジ』さんの新事業。「まなぶをふかめる」「たびしてまなぶ」「まなんでかせぐ」をテーマに、ゼミやフィールドワークを運営しています。僕もゼミを持たせてもらっています。


Website:キャンプ沖縄事業協同組合
https://coop.campo.ooo
沖縄のキャンプ事業者と愛好家による、全国でも稀な組合です。毎月第1金曜日に「組合キャンプ」と称し、誰もが参加でき、関係が生まれるようなコミュニティを運営しています。僕もそのメンバーに入っています。


photographs & text by Masayuki Sesoko


Radio:FMくめじま
http://fmkumejima.com
久米島で唯一のコミュニティFMです。町のお知らせから民謡まで、さまざまな超ローカル情報が満載。知っている人が登場するのが楽しく、親近感が湧きます。妻のうっちーもこちらのパーソナリティをしています。


記事は雑誌ソトコト2023年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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