5・6東京ドーム「井上尚弥vs.ルイス・ネリ」、番狂わせは起きるのか? 忘れ難き34年前の衝撃─。

2024年3月25日(月)7時30分 マイナビニュース

世界から注目を集める4団体(WBA、WBC、IBF、WBO)統一世界スーパーバンタム級タイトルマッチ、井上尚弥(王者/大橋)vs.ルイス・ネリ(メキシコ)が刻一刻と近づいている。両者は本格的なスパーリングを開始しており調整に余念がない。
これまでの長き間、私たちは井上尚弥の圧倒的な強さを目の当たりにしてきた。パウンド・フォー・パウンドにも選出されるなどモンスターの評価は世界的にも高い。そのため大方の予想は「井上優位」だが、果たしてそうか。ネリは、これまでの相手とは違い勇猛な漢、差し違える覚悟を胸にリングに上がる。アップセット(番狂わせ)の予感も─。
○■ドーピング検査をパスしたネリ
[選手名:ルイス・ネリ、採取日:2024年3月5日、結果:陰性]
これは3月20日に、ルイス・ネリをプロモートするビバ・プロモーションからX(旧Twitter)を通して発表されたものだ。VADA(ボランティア・アンチ・ドーピング協会)による抜き打ちのドーピング検査をパスしたようである。
ウェイト・コントロールもWBC等により事前チェックされているが、こちらも順調とのことだ。
今回、ネリは米国テキサス州エルパソにある「ダイナミス・フィットネス」でトレーニングを積んでいる。指導しているのはメキシコ人トレーナー、サミール・ロサーノ氏。ここで4月半ば過ぎまで調整を行い、試合の約2週間前に来日予定だ。
ネリは言う。
「大きな舞台である東京ドームで試合ができるのは光栄だ。多くのスポットライトが当たる。私の12年間のボクシングキャリアの中でも最大の試合になるだろう。ここで最善を尽くせるように、いま頑張っている。世界を驚かせるまで、あともう少しだ」
もしモンスターと称される最強王者・井上尚弥を破れば、ネリはスーパーバンタム級4団体統一世界王者となり、一気に世界に名を轟かせる。今回のファイトマネーも破格だが、勝てば次の試合ではさらに額が上がる。ネリは井上と闘えることに満足してはいない、貪欲且つ狡猾に、その先を見据えている。
○■何かが起こる東京ドームのリング
海外メディア、あるいは元ボクサーのYouTubeなど至るところで試合の勝敗予想が繰り広げられている。そして、ほとんどが「井上圧勝」を予想。井上の戦績は26戦全勝(23KO)、世界戦に限っては21戦全勝(19KO)と圧倒的なレコードを誇る。
強い相手をなぎ倒してきた井上がフェイバリットと見るのは妥当だろう。今後、話題に上がる海外のスポーツブックの掛け率も井上に偏った数字になるはずだ。
それでも私の中で「番狂わせ」の予感が消えない。
ネリは、これまでに井上が闘ってきたボクサーたちとは種類が違うからである。
ポール・バトラー(英国)、スティーブン・フルトン(米国)、マーロン・タパレス(フィリピン)…直近3試合における井上の相手の闘い方は決してアグレッシブではなかった。井上の強打を警戒するあまりに序盤から後手にまわりペースを摑まれ、結局は倒されてしまった。
だがネリは、彼らと同じではない。
おそらくは序盤から前に出るだろう。強打を恐れていては、井上にアッサリとペースを握られ勝ち目がなくなる。そうならない闘い方、つまりは「倒されてもいいから倒しに行く」プランを立てるはずである。
バトラー、フルトン、タパレスと比してネリは一撃の破壊力で上回る。加えて簡単には井上に距離を支配させない巧さもある。自分の身を守るのではなく玉砕覚悟で刺し違えよう。
互いに果敢に前に出る攻防の中で、打ち終わりを狙った一撃が井上の顎にヒットしたなら一気に挑戦者に流れが傾くかもしれない。ネリは、そんな展開に持ち込める可能性を秘めた技術と強固なメンタルの持ち主だ。
また、舞台が東京ドームであることも「番狂わせ」を匂わせる。
34年前、1990年2月11日の東京ドーム。米国時間に合わせて真昼に行われた世界ヘビー級タイトルマッチ、王者マイク・タイソン(米国)vs.ジェームス・バスター・ダグラス(米国)は、まさかの結末だった。
当時、『ゴング格闘技』誌の編集長だった私は連日、タイソンの練習を取材していた。調子が上がっていないことは見て取れたが、それでも無敗の快進撃を続けていたタイソンである。まさか伏兵ダグラスに倒されるとは思わなかった。ラスベガスのスポーツブックの掛け率は「40-1」だったのである。
ところが、思わぬ展開に。
8ラウンドにダウンを奪ったタイソンが、10ラウンドにダグラスの右アッパーカット、そして連打を喰らいマットに沈んだのだ。あの衝撃は生涯、忘れることができない。
絶対的な強さを誇り勝ち続ける者も、どこかで敗れる。これが勝負事のセオリーだ。
年内に井上は、4団体統一世界スーパーバンタム級王座防衛戦3試合を予定している。
まずvs.ネリ、夏か秋にvs. ムロジョン・アフマダリエフ(元WBA&IBF同級王者/ウズベキスタン)、そして12月にはvs.サム・グッドマン(WBO1位/オーストラリア)。
この中で番狂わせを起こせるボクサーがいるとすれば、やはりネリだろう。
「井上優位」が本線、それでも「番狂わせ」の予感を消し切れない。決戦当日、超満員のファンで埋まる東京ドームには、これまでになかった独特の緊張感が漂う。
▼ネリ、井上尚弥との大一番へ真摯に取り組む 試合2ヶ月前の時点で体重は約60キロになっていると陣営が明かす『Prime Video Presents Live Boxing 8』記者会見
文/近藤隆夫
近藤隆夫 こんどうたかお 1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等でコメンテイターとしても活躍中。『プロレスが死んだ日。〜ヒクソン・グレイシーvs.高田延彦20年目の真実〜』(集英社インターナショナル)『グレイシー一族の真実 〜すべては敬愛するエリオのために〜』(文藝春秋)『情熱のサイドスロー 〜小林繁物語〜』(竹書房)『ジャッキー・ロビンソン 〜人種差別をのりこえたメジャーリーガー〜』『柔道の父、体育の父 嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。
『伝説のオリンピックランナー〝いだてん〟金栗四三』(汐文社)
『プロレスが死んだ日 ヒクソン・グレイシーVS髙田延彦 20年目の真実』(集英社インターナショナル) この著者の記事一覧はこちら

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