何が人類の脳を大きくしたのか? 「あるたった一つのきっかけで2倍以上巨大化…」新仮説登場

2021年3月29日(月)14時0分 tocana

画像は、GettyImagesより引用

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 人間が他の動物に比べて頭脳が大きいことは知られているが、ではなぜ、人間の脳は大きくなったのだろうか? 今回、その疑問への回答となり得る新しい仮説が発表された。


■獲物の小型化が人間の脳を大きくした


 260万年前から1万1700年前までの更新世の間に、人間と類人猿の脳は大きく成長した。


 初期の人間は十分な脂肪を持つ象などの巨大な、しかし動きの速くない動物を狩り、食物にしていた。しかし「これらのメガファウナと呼ばれる巨大型草食動物の数が減少した後、より小さく、より速い獲物を狩ることができるようにと、人間の脳は成長した」という仮説をイスラエル、テルアビブ大学の考古学者ミキ・ベンドール氏とラン・バーカイ氏が打ち立てた。


 200万年前には平均650立法センチメートルだったヒト成人の脳容量は、食料生産革命が起こる直前のおよそ1万年前には、2倍以上の約1500立法センチにまで発達していた。



 多くの学者は、人間の脳は1つの要素ではなく、幾つかの小さな要素に反応して成長したと主張する。しかし先の考古学者両氏は、環境の1つの大きな変化に理由を求めた方が、よりよく説明できると主張している。


「獲物の小型化は、脳容量の増大だけでなく、人類の生物学的、文化的な変化を統一的に説明するものであると考えています」と、バルカイ氏は、科学ニュースサイト「ライブ・サイエンス」に答えている。


 メガファウナは、更新世の時代に地球上に生息し、新生代第四紀に絶滅した巨大動物だ。その時代には、3トンにもおよぶ巨大ナマケモノや象が生息しており、ヒトの食料となっていたと考えられている。



 しかし何らかの理由から、約460万年前から1000キロを超える巨大な動物がアフリカ全体で減少し始め、約100万年前には、350キロを超える草食動物も減少し始めた。メガファウナの衰退の原因は明らかではないが、気候変動、人間による狩猟、またはその2つの組み合わせである可能性があるという。


 巨大かつ動きの遅い動物が姿を消し始め、人間は狩りの対象をより小さな動物に切り替えることを余儀なくされた。動きがすばしっこい小動物の狩猟はそのぶん複雑だったので、この変化はヒトの脳に進化的圧力をかけ、脳が大きくなったのだとテルアビブ大学考古学者たちは考えている。


 確かにこの説は、更新世全体におけるヒトの行動の変化が説明できる。小さな獲物を狩るハンターは、獲物の場所を仲間に伝え、共に追跡するために、言語と社会構造を向上させる必要があったかもしれない。また火の制御を学ぶことで、人間の祖先は、骨に含まれる油を含め、小動物から可能な限り多くのカロリーを抽出することが可能となったであろう。また、小さな獲物の皮や肉を削ぐためには、道具や武器をより進歩させる必要があったと考えられる。


■まだわからないことが多い人間の脳


 しかし、この説に真っ向から異議を唱える学者もいる。米ワシントンDCスミソニアン博物館の人間起源プログラムの責任者である古人類学者のリチャード・ポッツ氏は、この仮説に疑問を呈する。


 ポッツ氏は「ライブ・サイエンス」に、初期のヒトがメガファウナを狩ったかどうかは明らかではないと語った。確かに発見された幾つかのメガファウナの骨に人間が付けたと思われる傷があったが、それはヒトがメガファウナを殺したのか、それともメガファウナの死肉を食べたのかまではわからないという。



 そして脳に関して言えば、サイズが全てではない、とも述べている。例として、6万年から10万年前に現在のインドネシアに住んでいたホモ・フローレシエンシスなどの原人は、脳容量はわずか380立法センチであった。しかし、脳が小さいにもかかわらず、島に住む象とげっ歯類の両方を狩れる知恵を持っていた。


 確かに小さな動物を狩る生活は、ヒトの脳に進歩的圧力をかけたことは間違いない。それによって、より手先が器用になり、動きも敏速になったであろう。しかし、果たしてそれだけでヒトの脳サイズが倍近くになるものだろうか。そこには、幾つか異なる圧力が同時にあったと考える方が自然かもしれない。


 私たちはまだまだ人間の脳について、まだ知らないことが多すぎるのだ。


参考:「Live Science」、 「RealClearScience」ほか


 

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