エンヤにU2、リバーダンス、ガリヴァー旅行記、ラピュタのもとになった物語も…アイルランドの魅力とは

2024年3月29日(金)16時30分 婦人公論.jp


世界で大ヒットしたダンスパフォーマンス「リバーダンス」(写真提供◎H .I .P.)

Perfumeきゃりーぱみゅぱみゅなどのヒット作品に携わり、アーティストやクリエイターの成功とメンタルの関連性について研究を続けている音楽プロデューサーの中脇雅裕さんの連載「美しくそして健康に 音楽のあるHappy Life」。第26回は「アイルランドのアート・エンタメについて」です。

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アイルランドのアート・エンタメといえば


前回は『3月17日はアイルランドのお祭り「セント・パトリックス デー」U2、エンヤだけじゃないアイルランドの魅力とは?』をお届けしました。そして、3月17日に代々木公園パノラマ広場で開催された「グリーン アイルランド・フェスティバル」(在日アイルランド商工会議所(IJCC)主催)そして表参道での「第29回 セントパトリックスデーパレード東京」に参加させて頂きました!


セントパトリックデー代々木公園(写真提供◎中脇さん)

代々木公園での「グリーン アイルランド・フェスティバル」は本当に素晴らしいお天気の中、ステージではアイリッシュダンスや音楽のパフォーマンスが楽しめました!また数多くのお店も出店していて、フィッシュ アンド チップスやロースト ビーフ、そしてギネスビールやアイリッシュ ウイスキーなど様々な飲食を楽しめたばかりか、ちょっと珍しいアイルランドのアクセサリーやファッションアイテムなども売っていて、かなり楽しめました。


セントパトリック代々木ステージ(写真提供◎H .I .P.)

また、「セントパトリックスデーパレード東京」にも参加させて頂きました。バグパイプを先頭に1500名ほどが交通規制された表参道をパレードするのですが、車の走っていない表参道の車道の真ん中を歩かせて頂くという超レアな経験をさせて頂きました!いやー、楽しかった!

また来年も是非参加させて頂ければと思った次第です。
さて、前回は、このアイルランドの歴史などについてお話ししましたが、今回はアイルランドのアート・エンタメについてお話しさせて頂きます。

アイルランドの代表的なアート・エンタメといえば、やはり「文学」「音楽」「ダンス」この3つでしょうか。

まず文学です。実はアイルランドは文学大国なのです。ノーベル文学賞受賞者も小国ながら4名も輩出しています。アイルランドの作家が書いたもので、皆さんも読んだことのある作品が数多くあると思います。

一番有名なものとしては、ジョナサン・スウィフトの『ガリヴァー旅行記』でしょうか。この他にもオスカー・ワイルドの『サロメ』、ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』、ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』そしてあの20世紀を代表する詩人の一人、ノーベル文学賞受賞者のウィリアム・バトラー・イェイツもアイルランド国籍です。さらにノーベル文学賞受賞『ピグマリオン』で有名なジョージ・バーナード・ショー、さらにノーベル文学賞受賞『ゴドーを待ちながら』のサミュエル・ベケットなどなど、数多くの素晴らしい作家たちがアイルランド人なのです。

ジョナサン・スウィフトとは


しかしやはり、この中でご紹介するべきは、ジョナサン・スウィフトの『ガリヴァー旅行記』でしょう。多くの方は子供の頃に絵本などで小人の国に迷い込んだガリバーの話を読まれたのではないでしょうか。

ジョナサン・スウィフトは、1667年にアイルランドのダブリンで生まれて1745年にダブリンで亡くなったアイルランドの作家、詩人、政治評論家です。もちろん、彼の代表作は風刺文学の傑作と言われている『ガリヴァー旅行記』(1726年)ですが、その他にも多くの詩、エッセイ、政治パンフレットなどを書いています。


アイルランド ダブリン(フリー素材)

スウィフトの作品は、その鋭い風刺と皮肉で知られており、当時の政治、社会、そして人間性への鋭い批判を含んでいました。

スウィフトはダブリンの大学で学び、その後、英国とアイルランドで政治家の秘書として働きました。彼の政治キャリアは、アイルランドの政治的・社会的状況を向上させようとする気持ちから生まれ、当時アイルランドで深刻な問題であった貧困と民衆への政治的抑圧に対して、その解決策を提案するべく多くの文書を書き上げたのです。

スウィフトには『ガリヴァー旅行記』の他に、もう一つの有名な作品『穏やかな提案』(1729年)があります。これは、アイルランドの貧困問題を解決するために、貧しい子供たちを食用にすることを提案するという衝撃的な内容の風刺文です。この作品は、スウィフトの風刺的手法が最も顕著に表れている作品と言われていています。

そんなスウィフトは生涯を通じて多くの病を患いました。特に晩年は精神的な病に苦しんだとされています。しかし、彼の文学作品は今日でも高く評価され、風刺を通して社会批判をし、読んだ者に考えることを促すということで、社会にも大きな影響を与えたと言われています。

スウィフトの代表作『ガリヴァー旅行記』


そして、そのスウィフトの代表作『ガリヴァー旅行記』ですが、もちろん子供向けのファンタジー作品というわけではなく、当時の社会に対しての痛烈な風刺文学なのです。

正式なタイトルは『船医から始まり後に複数の船の船長となったレミュエル・ガリヴァーによる、世界の諸僻地への旅行記四篇』。当初、その内容が大衆の怒りを買うのではないかと恐れた出版社が大きく手を加え、その初版が1726年に出版されました。そして1735年にオリジナルの完全なものが出版されたのです。

そして、その中身はご存知の通り、四篇から構成されています。

最初は「リリパット国」。小人たちの国の話ですが、これはカソリックとプロテスタントの対立を描いとものとされています。

次の「ブロブディンナム王国」は巨人の国のお話し。小人の立場から人間社会を見上げる様な話となっています。

そして次の「ラピュータ島その他の変物の国々」はスタジオジブリの「天空の城ラピュタ」のモチーフになったとされるもので、理論だけに頼ることの危険性や、人間の無知と視野の狭さを風刺しています。

最後の「フーイーヌム国」では人間そっくりの動物ヤフーが馬として使われています。ここでは人間性への深い洞察、そして理性と野蛮の関係を探ることで強力な社会批判を展開しています。

この様に『ガリヴァー旅行記』は子供向けのファンタジーではなく、まさに現代でさえも、我々大人が読むべき本である様に思います。

もう一人のアイルランドを代表する作家


さて、もう一人アイルランドを代表する作家をご紹介しましょう。
それは、詩人で劇作家、思想家。民俗学者でもあるウィリアム バトラー イェイツです。

イェイツは、幼少の頃から親しんだアイルランドの妖精の話などモチーフとする抒情詩で注目され、その後、芸術活動を通じて「ケルト復興運動」の担い手となりました。「ケルト復興運動」とはアイルランドにおけるケルトの歴史や文学の研究、アイルランド語復興を目指し、さらに言語や文学だけでなく、スポーツやダンス、音楽などにおいてもアイルランド以外のものを排除し「アイルランドの伝統」とされるケルト文化を復興させようとした運動です。

そして、このような活動の中、現代詩の世界に新境地を切りひらき、20世紀の英語文学、現代詩において最も重要な詩人の一人となりました。とはいえイェイツは1922年から6年間、アイルランド上院議員も務めたものの、生涯のほとんどをイギリスを拠点にして活動しました。


ウィリアム バトラー イェイツ(フリー素材)

そのイェイツの代表的な作品をご紹介します。

「イニスフリーの湖畔に」

今、立ち上がり、イニスフリーに行く
そこに泥と小枝で作られた小さな小屋を建てよう
九列の豆をそこに植えよう、蜂蜜を集めるための巣箱も
そして蜂の羽音の賑やかな林でひとり静かに暮らそう。

そこでは平和が得られるだろう、平和はゆっくりと降りてくる
朝のベールから、クリケットが鳴く場所まで雫が落ちるように
真夜中はキラキラと輝き、正午は紫の光が差し
夕方はリンネットの翼で満たされる。

今、立ち上がり、イニスフリーに行く
常に夜も昼も湖の水のさざ波が岸辺で穏やかな音を立てているのを聞く
私が道路に立っているときも
灰色の舗装の上でも
その音を心の深いところで聞くのだ。

イェイツは生涯を通じて多くの変化と進化を遂げたことで知られています。
しかし、その作品の根幹にはアイルランドの神話、民話、歴史、風景があり、また、自身の探求と霊的な追求に満ちていると言われています。そしてイェイツは「霊感に満ちた詩作」が高く評価され1923年にノーベル文学賞を受賞するのです。


イェイツの墓跡(フリー素材)


アイルランド ストリートミュージシャン(フリー素材)

アイルランドの音楽の世界


次にアイルランドの音楽の世界を見ていきましょう。
アイルランドはポップミュージックの宝庫でもあります。
アイルランド出身のポップ系の有名ミュージシャンといえば、シンリジー、クランベリーズ、ヴァン モリソン、シンニード オコナー、ギルバート オサリバン、そしてエンヤとU2などなど。

この中で特にアイルランド=ケルト的なミュージシャンはなんと言ってもエンヤでしょう。
エンヤ(Enya)の本名はエニヤ・パトリシア・ニー・ブレナン。アーティスト名のエンヤは彼女の名前でもありますが、音楽プロデューサーを務めるニッキー・ライアンと、その妻で歌詞を手がけるローマ・ライアンとの共同プロジェクトの名前でもあります。そのエンヤは1961年アイルランド生まれのシンガーソングライター。ケルト音楽のエッセンスをベースにニューエイジ、ポップ、クラシック、アンビエントミュージックの要素を融合させた音楽は唯一無二です。

エンヤの音楽キャリアは、彼女の家族で結成されていたバンド、クラナドの一員として始まりましたが、1980年代にソロとなりました。そしてエンヤのソロデビューアルバム「Enya」を1987年にリリース。その後アルバム「Watermark」(1988年)をリリース、その中の曲である「Orinoco Flow」がグローバルヒットとなり、エンヤの名を世界中に知らしめました。

エンヤはその後も多数のアルバムをリリースし続けますが、特にアルバム「A Day Without Rain」からのシングル「Only Time」は、2001年の9月11日の同時多発テロの後に広く流され、多くの人々に慰めを与えました。また、「May It Be」という曲が映画「ロード・オブ・ザ・リング」で使われて、アカデミー賞にノミネートされたこともあります。

エンヤの音楽は何度も録音で声を重ねたレイヤードボーカル(一つのメロディーに対して100回以上も声を重ねているという説もあります!)を駆使した壮大で幻想的なサウンドが特徴で、その売り上げはCDベースで推計7500万枚。ニューエイジ音楽として最も成功したアーティストの一人と考えられています。

プライベートでは非常にプライバシーを重んじる人物としても知られ、公の場にはほとんど姿を見せず、なんと一度もライブをやったことないそうです。そのミステリアスな雰囲気もエンヤの魅力の一部となっています。

アイルランドの伝統的なダンス


そして、最後にご紹介するアイルランドのエンタメはダンスです。もちろんダンスは音楽抜きでは成立しませんのでダンス+音楽ということになります。

アイルランドの伝統的なダンスは、エネルギッシュで複雑なステップが特徴で、やはり、なんと言っても足の動きが特徴的で、その複雑なステップは「タップダンス」へと進化していきます。そして音楽は伝統的なケルトミュージック。そのテンポが早いリズムカルな音楽とダンスの組み合わせは唯一無二!一度観たら病みつきです。

このアイリッシュダンスはいくつかの種類があります。
まず「セットダンス」。グループで踊るこのダンスは、基本は2組のカップル=四人一組になり、方陣を作って踊ります。アイルランド各地域に固有のセットダンスがあり、その地域ごとに異なるステップや振り付けがあります。

「シーリーダンス」。これは比較的自由なスタイルのアイルランドの社交ダンスで、輪になったり、長い列になってして踊ります。誰でも参加しやすいカジュアルなダンスです。日本でいう盆踊り的なものでしょうか。

そして「アイリッシュ・ステップダンス」。これがアイルランドの一番特徴的なダンスです。精密な足の動きとは反対に上半身を固定するのが特徴的なダンスで、ソロで踊られることが多いです。「リバーダンス」という世界で大ヒットしたダンスパフォーマンスがあるのですが、その中で多く見られるダンスです。そのスピーディーで複雑なフットワークは世界中で大人気です。

上半身を動かさない理由


「なぜ上半身をあまり動かさないのか」ですが、アイルランドがイギリスに抑圧されていた時代、娯楽さえも制限されていたアイルランド人が「家の中で踊るとき、通りがかったイギリス兵達に窓越しに見られても踊っていることがわからないように足だけで踊った」と言う説があります。しかし、実はこれはジョークだと言われています。アイルランド人は辛いことはジョークにして笑い飛ばすのだそうで、長年イギリスに統治され嫌な思いをしてきたアイルランド人から生まれたジョークだと言われています。
実際のところは、足技に集中しながら、上半身を直立不動にすることで、床を踏みながら音を出すテクニックを視覚的、聴覚的に楽しむためなのだとか。つまり、足の動きに特化したダンススタイルということですね。

私もこの「リバーダンス」20年ほど前の来日公演に行き、いたく感動したのをはっきりと覚えています。

ダンスパフォーマンスももちろんですが、音楽も素晴らしく、またステージ構成もストーリー性があって感動的です。基本、ダンスと音楽のみで進行していきますので、英語が分からなくても全く問題なく楽しめるのも良いところです。


リバーダンス公演(写真提供◎H .I .P.)

この「リバーダンス」なんと9年ぶりに東京と大阪で来日公演を果たします!私も絶対に行きます!
本当におすすめのステージです。
詳細はこちら。
https://www.hipjpn.co.jp/live/riverdance2024/
さて、2回にわたってアイルランドの魅力をお伝えいたしました。
とはいえ、まだまだアイルランドの魅力は沢山あります。多分、近々アイルランドに行くことになりそうですのでその時は改めてアイルランドの魅力をレポートさせて頂きたいと思います。

前回「U2、エンヤだけじゃないアイルランドの魅力。ハロウィーンはケルトの収穫祭「サウィン」が元に。小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の「怪談」にも通じる」はこちら

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