81歳、現役心理カウンセラーの内田さん「NHKラジオ『子どもの心相談』を23年間。自宅で今も不登校の子どもたちとその家族のグループ相談会を開催」

2024年4月2日(火)12時29分 婦人公論.jp


81歳の現在も心理カウンセラーとして活動し続けている、内田良子さん(撮影:藤澤靖子)

長い人生、いつも明るい気分でいるのは難しいもの。笑顔が輝く81歳、92歳、101歳の3人の女性は、山あり谷ありの日々をどう歩んできたのでしょうか(撮影=藤澤靖子)

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限界まで我慢せず早めにリセット


東京・杉並区の住宅街に、戦後すぐに建ったという古い木造の家がある。「『お祖母ちゃんの家みたい』ってよく言われます」と微笑むのは内田良子さんだ。81歳の現在も心理カウンセラーとして活動し、26年前には自宅の一角を開放して「子ども相談室 モモの部屋」を開設。不登校の子どもたちとその家族のグループ相談会を続けている。

そんな内田さんだが、小さい頃は体が弱く、「この子は20歳まで生きられないだろう」と周囲から言われていたという。

「それは悲しいというより、私にとってすごくハッピーなことでした。だって20歳から先のことは考えなくっていいんだもの。それなら、好きなことを思う存分できるじゃない、って(笑)」

自分で織った服を着て、自分で焼いた茶碗でご飯を食べて、手づくりの生活で20歳まで好きに生きようと子どもの頃は思っていたという。けれど小説を書きたいという夢が芽生えると、人間の心理を理解するために大学で心理学を学びたいと考えるようになった。

「明治生まれの父は、『女が教育を受けると生意気になる』と、姉や私の大学進学に反対でした。それを救ってくれたのが、実は『婦人公論』(笑)。母が書いた小説が『婦人公論』の第一回女流新人賞を受賞して、賞金を学費の一部にあててくれて進学できたのです」

大学では学生運動に没頭し、あまり真面目に勉強しなかったと笑う内田さん。しかし、学生運動を通じてさまざまな市民運動にも関わることで、力を持つ側ではなく、常に少数の側、弱者の立場からものを考える姿勢が身についたと振り返る。

四大卒の女性はほとんど就職先がない時代、卒業後しばらくは大学の臨時職員として働いた。やがて学生運動を通じて知り合った男性と結婚し、子どもが誕生。30代になって始めたのが総合病院で働く心理カウンセラーの仕事だった。

「病院にはお腹が痛い、頭が痛い、熱を出す、下痢をするといった症状で小児科を受診する子どもがたくさんいます。そのなかで、検査をしてもどこも悪くないという子どもが、心理室に紹介されて来ました。不調の原因はいじめや体罰が多く、学校に問題があるのではと考えるようになったのです」

振り返ってみると内田さん自身も、小学生時代は体が弱く欠席してばかりだった。自分の体調が悪くなったのは、いじめや軍隊帰りの若い教師が何かというと革のスリッパで子どもの頭を叩くのが怖かったり、嫌だったりしたからではないか。「あら、私も同じだったじゃない」。そこから、登校拒否・不登校問題と深く関わっていくことになる。

「私が働いていた27年の間に、心理室の閉鎖やスタッフの解雇といった危機が4回もありました。処分撤回を求める闘いが精一杯で、立場は非常勤のまま、収入も微々たるもの。『いつやめても結構ですよ』という態度です。こちらは働く目的がありますからね。何より、子どもとその家族の相談の場をなくしちゃいけないと思ってふんばりました」

病院勤めをしながら、自宅を相談の場として開放するようになったのは1983年。「自分と同じ登校拒否の子たちと話がしてみたい」という子どもたちの要望を受けてのことだった。

親たちからも「集まる場がほしい」と声が上がり、現在の「モモの部屋」に続く土曜会・水曜会という親の会もスタートした。

「ふすまで仕切った狭い和室に、初回から26人もぎゅう詰めに集まってね。それだけ、同じ経験を分かち合いたい親が多くいたということですよね」

病院の心理室には、60歳の定年まで勤めた。ほかにも、NHKラジオ『子どもと教育電話相談』『子どもの心相談』を88年から23年間担当し、現在も精力的に講演や執筆活動を続けている。

「ここまで長く仕事を続けてこられたのは、私が『野良』でいたからだと思っています。病院勤めも非常勤でしたから、組織の意向に無理して合わせる必要はない。誰にも管理されることなく、どんなときでも、『学校より子どもの命が大事』『子どもに学校を休む権利を』と訴えてきました」

人の悩みや不安を聞くことの専門家である内田さんだが、自身のマイナスな感情とはどう向き合っているのだろうか。

「ストレスがたまったら、温泉に行くの。携帯電話も通じない山奥の秘湯に2〜3日こもると、身も心もスキッとします。コツは、限界まで我慢せずに早めに行って、リセットすることですね」

真面目で責任感の強い人ほど頑張り過ぎてしまう、と内田さん。

「負の感情に囚われて、視野が狭くなっていると感じたら、1週間に1回、1時間でもいいから、自分がいつもいる場所から物理的に離れて、非日常の世界に意識を向けてみてほしいのです」

また、「困ったり悩んだりしている人はすでに、解決に向けて取り組んでいる状態。ただそれがうまくいっていないのは、糸口が見つからないからです。でも実は、心の底に皆さん答えを持っている。それをよき聞き手に話すことで、自身で藪払いができ、考えが整理されて、解決への道が見えてきます」とも言う。

「私は、自分以上でも以下でもない。等身大の自分でこれからも生きていこうって思っているんですよ」と微笑む。プロとして他者の感情と向き合ってきた人だからこその、何ごとにも囚われない柔軟な心の持ちようがとても印象的だった。

ルポ・紆余曲折を乗り越えて
【1】101歳で週6日店に立つ天川さん
【2】81歳、現役心理カウンセラーの内田さん
【3】92歳、シニアチア最年長の滝野さん

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