夢遊病なら殺人もレイプもヤリ放題!? 強姦魔を無罪にする奇病「セクソムニア」とは? 詭弁と屁理屈だらけの判例が酷い=亜留間次郎

2023年4月4日(火)18時10分 tocana

【薬理凶室の怪人で医師免許持ちの超天才・亜留間次郎の世界征服のための科学】


殺人夢遊病

 日本では認められた判例がありませんが、欧米では夢遊病状態で起こした犯罪は心神喪失になります。


 1845年10月27日、アメリカのボストンで殺人事件が起こりました。


 金持ちの御曹司アルバート・ジャクソン・ティレルがマリア・アン・ビックフォードという売春婦につきまとい、彼女を刃物で殺害して売春宿に放火して逃げました。


 ティレルは逃亡先で逮捕されたのですが、金持ちの親が法律の魔術師(The wizard of the law)の異名持つルーファス・チョート弁護士を雇って弁護させました。


 最初、弁護士は自殺だと主張しましたが、首が取れそうになるまで自分で切ったという主張には無理がありました。


 次に主張したのが心神喪失無罪です。


 殺人から放火して逃走という弁護の余地がない犯罪だったのですが、現代日本でも定番の心神喪失無罪を主張しました。


 ティレルは売春宿で彼女と一緒に寝ていて、夢遊病で彼女の首をカミソリで切って放火してそのまま外へ走り出して目が覚めたら知らない場所にいて彷徨っていただけで逃亡じゃありませんと言い張ったのです。


 これこそ世界で初めて殺人夢遊病(homicidal sleepwalking)を使って人殺しの刑事責任を回した法廷戦術の登場でした。


 事件から5カ月後の1846年3月30日、裁判で無罪判決が出てティレルは釈放されました。


 ルーファス・チョート弁護士が使った伝説の法廷戦術は他にも沢山あり、活動期間中に全米最高額の賠償金を勝ち取った弁護士でもあります。彼はどんな事件も心神喪失無罪と超高額賠償金で大儲けという2つの偉業を成し遂げました。


 アメリカの裁判の話題でよく出てくる高額報酬でトンデモ判決を作り出す弁護士の始祖になった人です。


 こうして、夢遊病なら人を殺しても無罪になることが判例として確定すると、欧米では心神喪失無罪の言い訳として夢遊病が多用されるようになりました。


 この事件から4年後の1950年にはオーストラリアでコグドン夫人が夜中に19歳の自分の娘の頭を斧でたたき割って殺人罪に問われたけど夢遊病でやったので無罪になりました。


 1859年1月にロンドンで夜中に自分の赤ん坊を窓から道路に放り投げて死亡させて殺人罪に問われたエスター・グリッグスが無罪になりました。


 この裁判では彼女は夢遊病で家が火事になった悪夢をみて子供を助けようとしたと主張されています。


 1878年4月にスコットランドで一歳半の息子を壁や柱に何度も叩き付けて死亡させて殺人罪に問われたサイモン・フレイザーが無罪になりました。


 この事件では息子が猛獣に襲われた夢を見て猛獣をやっつけようとしていたと主張されています。


 サイモン・フレイザーはその後、精神病院に強制入院させられることもなく、寝るときは一人で寝るように誓約しただけでした。


 20世紀初めまではコレで通じていたのですが、時代が進んで20世紀も終わりが近づいてくると乱用が酷すぎたのと医学が発展したので認定が厳しくなってきました。


 1987年5月23日、23歳のカナダのトロントでケネス・パークスが夢遊病の状態で車を運転して23km離れた義理の両親の家まで行き、義母と義父を殺そうとしました。


 目がさめると自分の手が血で汚れていたのに驚いて自分から警察に行って逮捕されました。


 この事件には高額報酬弁護士は参加しませんでしたが裁判で無罪になりました。


 警察に出頭した時から言動がおかしかったことに加え無罪になった有力な証拠として脳波の異常と血縁者の多くが夢遊病に悩んでいた遺伝子を持っていたことがありました。証言は嘘をつけるけど脳波は嘘をつけないことが認定された決定的な事件でした。


 現代日本で耳が聞こえない和製ベートベンのせいで聴覚障害の認定が厳しくなったのと同じように、夢遊病は無意識での脳波の異常がないと認められなくなったみたいです。


 こうして裁判で殺人夢遊病無罪が猛威を振るっていた中、もっとすごい夢遊病による無罪が登場することになりました。



寝たままレイプすれば無罪になる奇病「セクソムニア」

 セクソムニア(睡眠時性的行動症)とは睡眠中に無意識の状態で性行動をやってしまう夢遊病の一種です。「睡眠中の無意識での自慰、性行為」「卑猥な寝言を言う」などの症状が出ます。


 この病気は1986年にシンガポールで34歳既婚男性の症例が初めて報告されました。


 この時の状況は寝ている間にオナニーして射精してしまう謎の夢遊病でした。


 隣で奥さんが寝ているのに朝起きると射精してベッドを汚しているのを怒られたけど全く記憶になかったそうで、奥さんに怒られて病院にいったら診断されてしまいました。


 2007年には正式な病気と認められDSM-5にものっています。


 マイナーな奇病にすぎなかったセクソムニアが注目を集めることになったのは、2007年6月早朝にオーストラリアのアーネムランドで48歳男性レナード・アンドリュー・スペンサーが21歳の女性をレイプした事件が起きてからです。


 弁護士は精神科医のレスター・ウォルトンに電話をかけて呼び出すと法廷で証言してもらいました。


 セクソムニアに苦しんでいて心神喪失無罪だと証言し認められ、無罪になりました。


 この事件後からレイプしても専門家の医師を呼び出してセクソムニアだと主張してもらえば無罪になる魔法の免罪符として悪用&乱用されることになりました。


 オーストラリア睡眠学会(Australasian Sleep Association)では適当にセクソムニアの診断をすべきでないという講演も行われ、診断や意見に注意するように勧告が出ていましたが、あまりにも乱用されまくった結果、オーストラリアでは2年後に法改正が行われています。


 直接的にセクソムニア無罪を禁止にはできないので、裁判における証拠の取り扱いの形で法改正されています。


 専門家を呼び出して裁判で証言させるなら裁判所の同意と十分な事前知識を用意する時間を取らせるということですが、セクソムニアは強姦魔の詭弁だという予備知識を与えるのが目的のようです。


 オーストラリアは対応をとりましたが、当然のごとく世界中で強姦魔による悪用は続きました。


 2014年4月にはスウェーデンで起こったレイプ事件で26歳の男性がセクソムニアだから無罪になってしまいました。2カ月あまりで無罪釈放され冤罪事件として扱われています。


 裁判で無罪判決が世界中に波及してレイプしても自分はセクソムニアという病気だから責任能力なしで無罪だと言い張る犯罪者の多発を引き起こしました。


 レクシスネクシス社の判例データベース(Lexis)によれば2018年にアメリカでは、セクソムニアで心神喪失無罪が争われた判例が213件ありましたが、無罪は1件だけでした。


 意外にも一番乱用されそうなアメリカでは急激に認められなくなっています。


 弁護士が睡眠医学の専門家証人を呼んでも、検察も対抗して専門家証人を呼ぶため弁護側の専門家の証言が採用されなくなってきたことが理由です。


 これはセクソムニアが強姦魔の詭弁として有名になったせいで、加害者が被害者の言葉に返事をしたなどの小さな矛盾を検察側の専門家証人が指摘するだけで陪審員が詭弁を使っていると見なすようになった為です。


 アメリカのセクソムニアで悲惨なのは子供に性的な悪戯をしちゃった人達です。


 有罪判決を受けて懲役を食らった上に生涯監視付きでミーガン法により児童性犯罪者として社会に告知されてしまい社会的に死んでいます。


 逆に病気だから無罪と主張するなら死ぬまで出られないと評判のコーリンガ精神病院に強制入院なんてことにもなります。


 懲役五年で済むところを実質的な無期懲役です。


 セクソムニアだからレイプしても無罪は一周回って強姦魔の詭弁と認知されるようになってしまい認められなくなってきたようです。そこで、とんでもない発想の逆転が登場しました。



セクソムニアの女性はレイプされても訴えられない

 男性の強姦魔が心神喪失無罪に悪用しているセクソムニアですが、2017年にロンドン南部でジェイド・マクロッセン・ネザーコット(Jade McCrossen-Nethercott)さんが男にレイプされた事件ではトンデモない使われ方をされました。


 加害者男性ではなく、被害者女性がセクソムニアだから無罪と主張され、認められたのです。


 医学的に認められているセクソムニアの症状の一つに「卑猥な寝言を言う」があります。


 つまり、被害者女性は卑猥な寝言を言って男を誘っていたから同意が成立していたと主張されました。


 その寝言は病気で本人の意思じゃないけど男性は同意があったと認識していたからレイプは成立しませんと言い張って不起訴になりました。


 英国の法律では眠っていて意識がない女性と性行為をすることは同意のないレイプであると見なされますが、セクソムニアでエロ寝言を言っていたら起きていたように見えるから同意があったと見なされるという屁理屈です。


 この事件の裁判は王立検察局(Crown Prosecution Service)に却下されました。決め手となったのは、裁判以前に被害者女性と会ったこともない専門家2人の証言でした。


 彼女は睡眠障害やセクソムニアの診断を受けたことはありませんでしたが、事件後に会ったこともない2人の睡眠専門家は彼女がセクソムニアだったと言ったのです。


 被害者女性は自分の訴えが却下されたことが不服で2023年現在も王立検察局相手に係争中です。


 ジェイド・マクロッセン・ネザーコットさんは比較的珍しい名前なこともあってググるとこの人が上に出てきます。今も争いを続けているので気になる人は調べてみてください。


 最近はセクソムニアで無罪が通じなくなってきたので、闇の法曹界では強姦魔を弁護するための新しいメソッドの開発が急がれています。


参考資料

ルーファス・チョート弁護士(1799年10月1日 – 1859年7月13日)。法律の魔術師(The wizard of the law)の異名持つ弁護士。
https://en.wikipedia.org/wiki/Rufus_Choate


夢遊病殺人を起こしたアルバート・ティレル
https://en.wikipedia.org/wiki/Albert_Tirrell


1986年に初めてのセクソムニアの報告
睡眠中の自慰行為ーー夢遊病の変種?
http://smj.sma.org.sg/2706/2706smj16.pdf


セクソムニアによるレイプのスウェーデン人男性に無罪判決
https://abcnews.go.com/Health/swedish-man-acquitted-rape-due-sexomnia/story?id=25629309


セクソムニアと主張する性犯罪者の増加(2014年10月7日)
https://www.smh.com.au/national/nsw/more-sex-offenders-claiming-sexsomnia-20141007-10rg8p.html


セクソムニア: 夢遊病を有する若年成人男性においてビデオ睡眠ポリグラフで記録された睡眠時自慰行為の1例
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1984006316300396


セクソムニア ー 新しい睡眠時異常行動?
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12866336/


アメリカ精神医学・法学アカデミージャーナル
繰り返される性犯罪の弁護としてのセクソムニア
https://jaapl.org/content/46/1/78


睡眠法科学学会(Sleep Forensics Associates)のHP
https://sleepforensicmedicine.org/case-studies/sleep-terrors/


オーストラリア2009年 刑法改正 専門家証拠法
https://legislation.nt.gov.au/LegislationPortal/Acts/~/link.aspx?_id=95DF43D9D9C5455594B1302BA304E1B5&_z=z&format=assented

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