データによると<恋愛経験の豊富な人ほどウソつき>。中野信子「ウソをつくことで次世代を残す可能性が高くなるのであればその子孫はおそらく…」

2025年4月8日(火)12時30分 婦人公論.jp


(イメージ写真:stock.adobe.com)

インターネット上の誹謗中傷について、プラットフォーム事業者に迅速な対応を義務付ける「情報流通プラットフォーム対処法」が4月1日に施行されました。脳科学者の中野信子先生は言語とはその性質上、人間の行動パターンを大きく変えてしまうことがあることを指摘し、「人間の歴史はまじないの歴史」と語ります。「言葉の隠された力」を脳科学で解き明かします。そこで今回は、中野さんの著書『咒の脳科学』から、一部引用、再編集してお届けします。

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不都合な事実が明るみに出たとき


ウソをつくことは美しいか、美しくないか、と問われれば、基本的には美しくないことである、と答える人が大半ではないだろうか。

もちろん、誰かを守るためのウソや、みんなにとって大切なプロジェクトを軌道に乗せるために方便として用いるウソなど、ウソにはさまざまな形態と用途があり、一概に言えるものではないということも理解しておく必要がある。

また、不都合な事実が明るみに出たとき、それを隠匿しようとする人よりは、素直に認めて謝る人に対してのほうが、人々は寛容であるように見える。

一方で、隠匿しようとする人——「この人はウソをつく人だ」という印象を一度でも与えてしまった人については、その行為がいつまでも人々の記憶に残ってしまう。何年経っても、そのこと自体が攻撃の口火となり、積極的にウソをつくわけでなくとも、この人は「不都合な真実をなかったことにしてしまう人だ」と失望と落胆の気持ちを強めたり、支持する気持ちを萎えさせたりしてしまう。

恋愛経験の乏しい男性ほど正直者


独身研究家の荒川和久さんのリサーチによれば、20代〜50代の人を対象に「恋人や配偶者にウソをついている/ついたことがある」かどうかについてアンケートをとってみると、おおむね恋愛経験の豊富な人ほどウソつきであることがわかったという。特に男性では恋愛経験の乏しい人ほど、正直者であることを示すデータとなっている。


『咒(まじない)の脳科学 』(講談社+α新書)

女性はと言うと、恋愛経験の豊富な人ほどウソをつくというデータは同様であったものの、未婚と既婚では正反対の傾向が示された。20代と50代では既婚者かつ恋愛経験の豊富な女性でウソをつく率が高く、30代〜40代では未婚者かつ恋愛経験の豊富な女性でウソをつく率が高かった(荒川和久「恋愛相手や配偶者に嘘をついている割合からわかる『恋愛上手は嘘上手』」Yahoo!ニュースエキスパート 2024年4月7日より)。

このデータをどう解釈するかだが、ウソをつくことに抵抗のない人ほど恋愛経験が豊富になるということだとすれば、ウソをつくほうが次世代を残しやすくなるということにつながると考えることができるだろう。

もしウソをつくことへの抵抗のなさが遺伝的な資質によるものであれば、世代を経るごとに、ウソをつきやすい遺伝子のほうが量的に優勢になっていくと推論できる。

脳でわかるウソをつきやすいタイプ


京都大学の阿部修士教授が、ウソを頻繁につく人に見られる特徴的な脳の活動についての研究結果を報告している。報酬が期待されるときに側坐核の活動がより高くなる人ほど、ウソをつく割合が高いという傾向がわかったのだ。

言い換えれば、自分が得をするならばウソをつくことに抵抗がなくなる、望ましい何かが起きそうなときにはウソをつくことがより多くなる——そんな人の脳の特徴が明らかにされた、と言えばいいだろうか。

研究では、金銭報酬遅延課題と、コイントス課題が用いられている。

金銭報酬遅延課題では、モニターに正方形が表示されるのだが、表示される時間は非常に短く、ごくわずかのあいだだけ正方形が画面に現れる。そのほんの一瞬のあいだにボタンを押すことができれば、被験者はポイントがもらえる。

これはかなりゲーム的な側面のあるタスクであり、脳内における報酬をつかさどる部位である側坐核は、こうしたゲーム性のある作業を行うとき、報酬への期待が高まって活性化することが知られている。そして、タスクを行っているときに側坐核の活動が活発な人であるほど、報酬への欲求が大きいということになる。

コイントス課題でわかったこと


コイントス課題は、コインの裏表を当てるゲームのような単純なタスクである。あらかじめ裏と表どちらが出るかを被験者に予想してもらい、実際にコインを投げ、当たればポイントがもらえる。このコイントス課題で、被験者のウソつき度が試される。

被験者には、ウソをつくことができないように、予想を紙に書いてからコインを投げる方式と、ウソをつくことが可能な、予想は紙に書かない方式の両方で、このコイントス課題をやってもらう。後者では、紙にも書かず、口にも出さないわけだから、ウソをついたのかどうか、証拠は残らない。

しかし、その人の正解率がチャンスレベル(偶然の確率)以上になっていれば、明らかに不自然に正解を多く申告しているという間接的な証拠になり、その被験者は一定の水準以上にウソをついている、ということになる。

さて、これらの実験を被験者にやってもらったところ、金銭報酬遅延課題(瞬間ボタン押しの課題)で側坐核の活動の高かった人ほど、コイントス課題でウソをついていたという結果になった。

食事やセックスの“快楽中枢”がウソをつかせる


側坐核というのは、脳におけるいわゆる“快楽中枢”である。オールズとミルナーの実験が有名だと思うが、ラットの脳に電極を刺し、レバーを押すことで電気刺激が入るようにしておくと、ラットは飲食を忘れてレバーを押し続けた。この実験におけるラットの行動から、こうした俗称がついたようである。


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この領域は、食事やセックスといった、人間にとって報酬となり得る多くの行為に関連している。依存症の病態にも関与している。定期的にスクープされる、派手な性行動が記事にされてしまうタイプの人の中には、適切な投薬や心理社会的治療が必要な人もいると考えられるが、側坐核における活動が一般的な人々とは違うという可能性も推測される。興味深い研究では、ある種のドラッグによって引き起こされる快感と、音楽の快感とがほとんど同じだと指摘するものもある。

ところで、側坐核の活動が高くても、ウソをつかなかった場合には、またさらに特徴的な脳の活動パターンが見られ、背外側前頭前野(はいがいそくぜんとうぜんや)の活動が高くなったという。この領域は、理性的な判断、また行動の抑制に重要な領域であると考えられている。

わかりやすく噛み砕いて言えば、ウソつきは、ウソをつく快感を覚えてしまっていて、いつもブレーキを利かせていないと正直な言動ができない、ということになるだろうか。もっと言えば、頑張って努力して抑えていないとすぐウソをついてしまう脳である、と言ってもよいかもしれない。

人生相談での、ある公務員の告白


やはり面白いのは、ウソをつくことがやすやすとできる人のほうが恋愛強者である可能性が示唆されているというところではないだろうか。私たちは、言語というツールを手に入れたことによって、他の生物よりずっとたやすくウソをつくことができるようになった。そして、ウソをつくことによって、より次世代を残す可能性が高くなるのであれば、私たちの子孫たちはもっと高度にウソをつく能力を発達させていくということになるのではないだろうか。


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ともあれ、現実の運用を考えたとき、ウソをついているのかどうか、完全に見抜くことは難しい(だからこそ私たちは証拠を必要とする)。側坐核が活発に活動しているかどうかも、実験室で計測するのでなければ他人から見てわかるものではない。また仮に活動が高かったとしても、必ずしもその人が百パーセントウソつきということにもならない。実際にウソつきの可能性が高い人に出会っても、その人がそのまま悪者ということにはならない、ということは明記しておく必要があるだろう。

ある雑誌の人生相談のコーナーで、自分は公務員の職にあるが、ウソをつくことがやめられない、他人をだまそうとか迷惑をかけようとかいう意図はないのだが、つい息をするようにウソをついてしまう、どうしたらいいのか、という相談を受けたことがある。

ウソを自然についてしまう自分を恥じているような文面だった。もし、そもそも脳の傾向としてこうした性質を持っていると自覚があるのなら、ウソをつくことが基本的には推奨されない職をなぜ、高い障壁を自らに課すようにして選んでしまったのだろう、と興味深く感じた。

ウソは必要不可欠


人間は、どんな人でも平均的に10分に3回はウソをつくという試算がある。

ウソは私たちにとって必要不可欠なものだ。美しい虚構を創造したり、優しいウソを使いこなして人々を癒したり、楽しませたりする仕事を、精力的に行う人もいる。それはひとつの才でもある。

人を貶めたり騙したりして搾取するために使うウソは恐ろしく、できるだけ回避したいものであるが、人の心を安んじ、喜ばせるためのウソであればよりよい運用がなされるように願いたいものである。

持てる能力を活用する方向に持っていくことが人間の美意識であり、知性というものではないだろうか。

※本稿は、『咒の脳科学』(講談社)の一部を再編集したものです。

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