「認知症の人への丁寧な指示はときに逆効果になる」と理学療法士が断言するワケ。言いすぎない・伝えすぎない<省エネ介護>でスムーズに

2024年4月11日(木)6時30分 婦人公論.jp


(マンガ:中川いさみ)

厚生労働省によると、認知症の患者は2025年に約700万人まで達するとされています。一方で「認知症の症状は、お天気と同じで晴れたり曇ったり。思うようにいかない日があれば、心が通じ合う<晴れ>の瞬間もある。周囲はそんな<晴れ>を増やす方法を知っておくことが大切だ」と理学療法士の川畑智さんは語ります。その川畑さんいわく、認知症の人には「細かく指示をすること」が、足枷になってしまうことがあるそうで——。

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指示されると、できなくなってしまう?


認知症になると、普段は問題なくできている行動が、指示されたとたんにできなくなってしまうことがあります。

たとえば、別れるときに普通にバイバイと手を振り、お箸で上手にご飯を食べている人が、「さよならと言いながら、右手を前に出して左右に振ってください」「左手で茶碗を持って、右手でお箸を使ってご飯を食べてください」と言われたとたんにできなくなってしまいます。

これを「観念運動失行」といって、認知症の人には必ずあらわれる「失行」という症状のひとつです。

「観念」によって「運動」を「失行」する。

自分で自然にやっている場合にはできるものの、誰かの指示が入ると、たちまち体を動かすための運動計画がまとまらなくなり、体を動かすことが難しくなるという現象が起きてしまうのです。

指示をして動きにくくなるのなら、指示をしなければいい


このことを知らないと、介護の場で、かなり大変なことになってしまいます。

「はい、じゃあトイレに行きますよ。まず手すりを持って、しっかり踏ん張って立ち上がりましょうね、頭を下げますよ、せーの」

観念運動失行が起きている人は、この指示でもうフリーズです。

よかれと思って、

「ほら、足を踏ん張って。太ももに力を入れなきゃ立てないでしょ?」

と言葉を重ねるほど、「どうしたもんかねぇ」と動きは止まってしまいます。

ただし、観念運動失行への対応は、決して難しくありません。

あれこれ指示をして動きにくくなるのなら、指示をしなければいいのです。

ご飯を食べるときは、「じゃあ食べましょう。右手でお箸を持って、左手でお茶碗ですよ」と指示をするのではなく、「いただきます!」と言い、食べる姿を見せるだけ。トイレに連れていきたければ、「こっちへ来てください」と手招きするだけで、自然と立ってついてきてくれます。

そうやって、動作のはじめの合図になるところだけを出してあげて、あとは自然と体が動くという状況をつくってあげましょう。


『ボケ、のち晴れ 認知症の人とうまいこと生きるコツ』(著:川畑智、監修:内野勝行、マンガ:中川いさみ/アスコム)

言いすぎない、伝えすぎない


細かくていねいに伝えるほど理解が深まるというのは、私たちの常識です。

ところが、認知症の人には、それが足かせになってしまうことがあります。

言いすぎない、伝えすぎない。

とくに、運動をともなう指示の場合は、それが鉄則です。


『ボケ、のち晴れ 認知症の人とうまいこと生きるコツ』より

絶対に削ってはいけない言葉とは


でも考えてみれば、これは、介護をする側にとってもメリットしかありません。

なんとか伝えようとして言葉を尽くし、ますます伝わらなくなって、イライラしてしまうのに、正解は、「伝えすぎない」ことなんですから。

最小限のコミュニケーションで、最大の効果を得る。

これぞまさに「省エネ介護」ですよね。

ただし、絶対に削ってはいけない言葉もあります。

それはやっぱり、「ありがとう」「助かったよ」などの感謝の言葉です。

たとえば、立ってくれたときに「ありがとう、じゃあ行こうか」と言って手招きをすれば、感謝されたから次の動作に移れるという状況になります。

そして「こうやればいいのね」と理解がきちんと通じるので、本人の安心にもつながります。

※本稿は、『ボケ、のち晴れ 認知症の人とうまいこと生きるコツ』(アスコム)の一部を再編集したものです。

婦人公論.jp

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