地味な仕事が大多数で比較的消極的な人が多い裁判官。元判事「テレビで裁判官にふさわしくない発言をすれば、場合によって懲戒処分ということも…」
2025年4月13日(日)6時30分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
2009年に裁判員制度が始まり、以前よりは裁判が身近になったとはいえ「自分には関係ない」と思っている方も多いのではないでしょうか。そのようななか、令和6年に再審無罪が確定した袴田巌さんの事件を例にあげ、「日本国民であるあなたは、捜査官が捏造した証拠に基づき死刑を執行される危険性を日々抱えたまま生きている現実を知らなければなりません」と語るのは、元判事で弁護士の井上薫さん。そこで今回は井上さんの著書『裁判官の正体-最高裁の圧力、人事、報酬、言えない本音』から一部引用、再編集してお届けします。
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目立つ事件でスター気分に浸る
裁判官は比較的消極的な人が多いのですが、中には、目立つ仕事をしたいと願っている裁判官もいます。
新聞に大きく出るような判決、たとえば憲法違反だとかというような判決は、裁判官にしてみるとちょっとしたスターになった感じですね。
テレビのニュース番組で法廷場面が放映されますし、傍聴席から見ると真ん中に裁判長が座っていて判決を読み上げたりするとスター気分になります。
一方、世の中そういう著名でない裁判もたくさんあります。数からいえば地味な裁判が仕事の大多数を占めます。著名事件以外はそんなスター的な要素はありません。
そうなると、いつもは仕方がないけど、たまには自分も目立つ仕事をやりたいと思う裁判官もいます。
ぜひ報道してほしいと思っていても……
徹夜までして一生懸命に書いた判決です。報道陣の前で朗々と読み上げて、テレビや新聞で大きく報道されることを想像すると、なんとも高揚するのでしょう。
裁判官室を後にして、法廷に向かう際には、「ジャーン」という音楽まで頭の中で聞こえてくるかもしれません。しかし、扉を開けてみたら、新聞記者は皆無だった——などということもあり、「あれ」と拍子抜けする場合もありますが。
ぜひ報道してほしいと思っていても、裁判所は弁護団のように記者クラブに赴いて、「明日の判決はすごく面白いから、ぜひ法廷に来てね」と事前に予告することはできません。
ですので、せっかくの判決なのに、誰も注目してくれなかった……などと残念に思うこともあるのです。
やはり裁判官も大勢いますから……
判決などで目立たない地味な人生を送るようにしている裁判官がかなりいて一つの傾向を成している一方で、一部の裁判官が判決などでスター気分を味わいたいというのは、これとは相反する考え方だと思います。
むしろ世間で目立ってスターのような立場になりたいというのですから。ではこれらは矛盾しているのかというと、そうとも限らないのですね。
(写真提供:Photo AC)
やはり裁判官も大勢いますから、性格も違うし、考え方も違う裁判官もいるだろうと思います。また事件によりますかね。それで中にはスター気分を味わいたいと、そういう出番が回ってこないかなと期待している裁判官もいるだろうと思います。
著名事件の判決の言い渡しで裁判長としてテレビに出たいと思っても、それは別におかしいことではありません。普通の裁判官の職務のうちですから問題などありません。
憲法違反を含む判決を言い渡すと……
もちろん、裁判官の職務とは別にテレビに出るとなると話は別です。時によっては脱線して裁判官にふさわしくない発言をしたということになると、場合によっては懲戒処分だとかということもあるだろうと思います。
しかし、判決の言い渡しで正当な手続のもとに写真撮影とかテレビ録画などがされて放送される分には、別に悪いことはしていないわけですから問題はないわけです。
憲法違反を含む判決を言い渡すと、だいたい新聞ではトップニュースとして扱われ、新聞の一面に出ることが多いのではないかと思います。私もカメラが法廷に導入された初期の頃の話ですが、写真撮影が行われて新聞の記事に写真が載ったことがあります。そのときに記念にどうぞということで新聞社から写真をもらったことがありました。
私はそこまで考えて仕事をしていたわけではありませんが、結果として悪い気はしませんでした。この辺は微妙な心理で人によるので、何とも言えませんが、スター気分を待ち焦がれている裁判官も中にはいるといってもよろしいだろうと思います。
※本稿は、『裁判官の正体-最高裁の圧力、人事、報酬、言えない本音』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
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