横浜市西区の商店街にあるユニークで新感覚な極小デパート|藤棚デパートメント

2023年4月13日(木)11時15分 ソトコト

極小のデパートがつくるサーキュラー・エコノミーの実験場。


今回取り上げるのは、神奈川県横浜市西区のローカルな商店街につくられた極小のデパートだ。54平方メートルのワンルームの空間の中に、設計事務所とコミュニティスペースとシェアキッチンの3つの機能が同居している。シェアキッチンは「お試しショップ」となっていて、カレンダーを見ると毎日違うお店の名前が書かれている。日替わりでお店が入れ替わり立ち替わり経験できるとなると、確かにこれは“新世代のデパート”なのかもしれない。
空間デザインの点からおもしろいのは、床に描きこまれたグラフィックデザインである。これは、家具や植栽の定位置を示す。空間の利用者は、毎日このグラフィックに従って空間を原状回復させる。シェア空間を運用する際の説明のわずらわしさを回避し、同時に空間をお洒落にまとめていくうまいやり方だ。余白が、余白として空間に知覚されるようにするために、商店だった元の空間はていねいに分解され、透明感のある公共空間として現れている。最小限ながらも鮮やかな手つきだ。
この空間を企画し設計したのは、永田賢一郎という新世代の建築家だ。永田氏はこのプロジェクトで、なんと設計料も施工費ももらっていないというから驚きだ。銀行から融資を受け、スペース運営における利用料収入で長期的に返済していく形にしている。建築家のビジネスモデルとしてもおもしろいが、全体のプロジェクトコストを圧縮することで、利用料が抑えられ、誰にとってもチャレンジしやすい環境となっている点が素晴らしい。すでに『藤棚デパートメント』の日替わりショップで自信をつけて、商店街にお店を構えた人もちらほら出てきているようだ。全国のローカルな商店街でこういう場所が増えていくとおもしろいのではないだろうか。








藤原徹平
ふじわら・てっぺい●建築家。1975年横浜生まれ。2009年より『フジワラテッペイアーキテクツラボ一級建築士事務所』主宰。2010年より『一般社団法人ドリフターズインターナショナル』理事。建築、地域計画、まちづくり、展覧会空間デザイン、芸術祭空間デザインと領域を越境していくプロジェクトを多数手がける。2012年より横浜国立大学大学院Y-GSA准教授。受賞に横浜文化賞 文化・芸術奨励賞など。


Photographs by Kenta Hasegawa


記事は雑誌ソトコト2023年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

ソトコト

「デパート」をもっと詳しく

「デパート」のニュース

「デパート」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ