危機管理のプロが警告! 中学受験で“御三家”を目指す親子が知っておくべき「学歴エリートの落とし穴」

2024年4月16日(火)22時10分 All About

「勝ち組になるには中高人脈が大事」と考え、わが子を“御三家”に入れたいと思う親もいるだろう。しかし、頑張って高学歴を手にすると、キャリアの落とし穴にもつながる“あるコンプレックス”を抱くことにもなりかねない。危機管理の現場からお伝えする。

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勝ち組を目指すなら、大学よりも中高人脈?

「中学受験ブーム」が過熱している。
首都圏入試センターによると、2023年の私立・国立中学受験者数は5万2600人で過去最多となった。2024年は微減して5万2400人だが、受験率は18.12%で過去最高。首都圏小学生のおよそ4.7人に1人が中学受験をしていることになるという。
この背景には、「勝ち組になるには大学よりも中高人脈が大事」という考え方が注目を集めていることもある。例えば、日本の政財界の中では今、どこそこの名門大学OBということよりも、開成、灘、筑駒、麻布、武蔵、さらには女子御三家(桜蔭、雙葉、女子学院)を含めた「難関中高人脈」がものを言う、という説がまことしやかにささやかれている。
東大、京大、早大などは、石を投げれば当たるほど毎年無数の卒業生がいるし、学部も違えば全く関係もない。しかし、中高一貫校は人数も限られた小さな世界なので、学年が異なる人々でも話が合うし、比較的すぐに共通の知人が見つかる。そのため、こちらの「難関中高人脈」が日本の政治や経済を動かしている、と分析する専門家もいるほどだ。そういう現実を踏まえれば、勝ち組になるべく御三家を目指すという戦略は「アリ」だろう。

学歴エリートが陥りがちな落とし穴

ただ、物事はなんでもいいところもあれば悪いところもある。中学受験でわが子を難関校に入れたいという親は、「学歴エリート」になることによって陥る「落とし穴」もある、ということをよく理解しておくべきだろう。
その1つが、「危機に弱い」ということだ。
筆者は危機管理を仕事にしている関係で、いろいろな組織で「危機対応を失敗するトップ」を目にしてきたが、そういう人たちの中にかなりの高確率で、学歴エリートがいた。
例えば、御三家から東大というエリートコースを歩んできた、ある企業トップは、メディアで会社の不正を告発した元社員を訴えるといって聞かなかった。全く事実無根という内容ではないので、裁判をしても悪目立ちをしてスキャンダル報道が増えるだけだし、告発者を力で握りつぶすようなネガイメージがつくので得策ではないと私も含めて周囲が進言したが、本人は譲らなかった。結果、この対応は批判を呼び、最終的にこの社長は辞任に追い込まれた。
これはマスコミが大きく報じるような企業不祥事でもよくある話だ。大企業にお勤めの人は分かるだろうが、社長や役員などの経営層は、難関中高を経て東大や慶大を出ているようなエリートが多い傾向だ。そのエリートの危機対応は往々にして炎上する。ワイドショーで、「世間をナメてますよね」「反省しているとは思えない」なんて叩かれている不祥事企業の背後には、学歴エリートがいるのだ。

謙虚さを失う学歴エリートたち

では、なぜ学歴エリートはいざという時に判断を誤ってしまうのか。
実際に危機管理の現場にいる者からすれば、これはよく言われる「挫折を知らないので逆境に弱い」という話ではなく、むしろその逆だ。学歴エリートの多くは、自分の力でさまざまな困難や挫折を乗り越えて人生を切り拓いてきた、という揺るがない自負がある。それは平時のビジネスシーンでは大きな武器になるが、危機発生時は逆に弱点となってしまう。
「危機管理」という言葉のイメージが先行して、多くの人が勘違いをしているが、実は「危機」というのはコントロールできない。組織外に被害者がいたり、メディアが好き勝手に報道をしたり、警察や監督官庁が介入してきたり、政治家が首を突っ込んできたりする。
そういう自然災害にも似た制御不能なものに人間が立ち向かっていくには「謙虚さ」が絶対に必要だ。しかし、多くの学歴エリートはそれを大人になっていく過程で失っていることが多い。だから、危機管理に失敗するというワケだ。

話を聞くエリートが世間からズレていくわけ

もちろん、学歴エリートにもいろんな人がいるので全てがそうだなどと言うつもりはない。周囲の話に耳を傾けるリーダーもいるだろう。ただ、そういう謙虚な人も「危機」に弱くなりがち、というのも学歴エリートの落とし穴なのだ。
なぜかというと、この手の「人の話をよく聞く学歴エリート」は社会、一般消費者、顧客からの苦言に耳を傾けるわけではない。自分の周囲にいる「自分より頭のいいエリート」の言うことしか聞かない。だから「世間ズレ」した危機管理になって炎上するのだ。

努力型エリートゆえのコンプレックスと、その弊害

では、なぜこうなるのかというと、学歴エリートゆえの強烈なコンプレックスのせいだ。
御三家のような難関校には、全国からエリートどころか「天才」が集うので、早い段階に「自分は天才だと思っていたが実は凡人だった」と挫折する「努力型の学歴エリート」が少なくない。謙虚になるのだからいいじゃないかと思うだろうが、中にはそれが心の傷となって、「天才」や「スーパーエリート」に対して強烈なコンプレックスを抱く人もいて、大人になっても彼らに逆らえなくなってしまう。
これは元ヤンキーや暴走族だったおじさんたちが、いい歳をこいてもいまだに昔の人間関係で生きて、恐い先輩に頭が上がらず、パシリのように使われる構図と同じだ。
そんなコンプレックスを抱えた「努力型エリート」がリーダーになると危機管理は失敗する。周囲の天才やスーパーエリートの意見に振り回されて、「船頭多くして船山に上る」状態で組織がめちゃくちゃになってしまうのだ。

麹町中→開成高→早大の岸田首相も……

この分かりやすい例が、岸田文雄首相だ。麹町中から開成高というエリートコースを歩んだ岸田氏だが、東大には入ることができず、2浪して早大法学部。卒業後は日本長期信用銀行だ。われわれのような庶民からすれば十分エリートコースだが、「開成→東大法学部(現役)→財務官僚→ハーバード留学」みたいな天才やスーパーエリートがゴロゴロいる永田町や霞ヶ関ではやはり見劣りしてしまう。
だから、岸田首相はエリート集団である霞ヶ関官僚に従順だ。彼らの話に耳を傾けて、彼らが勧める政策を忠実に実行している。安倍元首相や菅元首相のように官僚がリークした政権スキャンダルがほとんどないのがその証だ。
これは裏を返せば、エリートではないわれわれ一般国民からの評価などどうでもいいということでもある。これだけ支持率が下がっても岸田首相がケロっとできるのは、この人が「自分もエリートの一員になる」ということを人生の目標にしてきたからなのだ。
なにがなんでもわが子を難関中に入れさせたい親御さんは、このような大人になってからのリスクも考慮して「お受験」に励んでいただきたい。
この記事の筆者:窪田 順生
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経てノンフィクションライター。また、報道対策アドバイザーとしても、これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行っている。
(文:窪田 順生)

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