石を求めて河原に人が殺到!昭和40年前後の日本を席巻した<石ブーム>とは…創刊42年、石を愛でる人の雑誌『愛石』編集長に話を聞いてみた

2024年4月22日(月)12時30分 婦人公論.jp


「なにがなくても石があれば良い」月刊『愛石』(以下写真:『婦人公論.jp』編集部)

出版不況が言われて久しいですが、特に苦境に立たされているのが「雑誌」です。2020年だけで100誌以上が休刊。書店の数が減り、近年では物流問題も加わるなど、環境は厳しさを増すばかり…。そんななかでも何十年も刊行を続ける「老舗雑誌」の強さのヒミツとは? 今回、石を愛でる人達を読者に創刊42年を迎えた『愛石』の立畑健児編集長にお話をうかがいました。(全2回の1回目/後編に続く)

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そもそも『愛石』とは


——『愛石』について、あらためてご説明いただけますでしょうか?

雑誌そのものは、昭和58年8月に月刊『愛石の友』として始まりました。


お話をうかがった立畑編集長。2代目編集長となった21年前から、編集も販売もほぼお一人で手掛けていらっしゃいます(写真:『婦人公論.jp』編集部)

私は2代目の編集長ですが、引き継いだ21年前から、編集も販売もほぼ一人で手掛けています。

そのため、返本などに対応できなくなった事情もあり、10年ほど前から書店売りを辞めて、年間購読者へ直接配送する形で刊行を続けてきました。ですので、マンションのこの部屋に入ってすぐお気づきになったと思いますが、玄関に雑誌が山積み。(笑)

紙面で扱っているのは「水石(すいせき)」と呼ばれる石の鑑賞文化です。

石を専用の台や、水盤に砂を敷いた上に据えて鑑賞する。石は基本的に加工していない自然石を対象として、山や滝などの景色、あるいは人に見立てたり。あるいは何にも例えず、抽象的に観賞して楽しんだり。


編集部の棚には見事な水石がズラリ(写真:『婦人公論.jp』編集部)

なので自然の物ではあるけれど、とても芸術性が高い。それでいて気軽に楽しめるし、幅広い人向けの趣味だと思っているのだけど…。

とよた真帆さんが連載中


——『愛石』にはどのような内容が掲載されているのでしょうか?

記事としては、各地で開かれている愛石者による展示会を取材・撮影したものを中心に、愛石家のもとへ訪ねて、収集した石を撮影させてもらった写真などを多く掲載しています。

私がもともとカメラマンだったこともあって、「水石」の魅力を伝えるビジュアル要素が強い紙面になっていますね。

あとは愛石家による連載なども。俳優のとよた真帆さんも愛石家なので、連載していただいていて、それが好評を博しています。連載タイトルは「真帆がゆく」。


人気連載「真帆がゆく」。探石姿もかっこいい(写真:『婦人公論.jp』編集部)

私自身、石が見つかる土地まで取材に赴くこともありますが、一人しかいない会社なので、できることを詰め込んでいる感じです。

刊行のキッカケは「石ブーム」!?


——刊行のキッカケを教えていただけますか?

そもそも昭和40年前後、日本全土で「石ブーム」が起きまして。当時、河原や山へ、たくさんの人が石を探しに殺到しました。

ブームが起きたら、それを扱う雑誌も…ということで、いくつかの関連雑誌が誕生。

やや後発ながら、創刊されたうちの一冊が、愛石家だった前編集長・森さんが立ち上げた『愛石の友』でした。


創刊号。「愛石健康法」というナゾ企画も…(写真:『婦人公論.jp』編集部)

私自身は編集長を引き継ぐまで、石に興味がありませんでしたし、そのときのブームについてはよく知らないのですが。

——石が日本中でブームに。いったいなぜ当時、流行したのでしょうか? 40年代といえば安保闘争とか学園紛争やらが活発でしたし、やはり哲学的なものでしょうか…

まったくそうではなく、ズバリ「お金」。(笑)

当時、三越で初めて「石の全国展」といったものが開催されて、石を売り買いする場が存在していることが広く認知された。それと同時に『週刊朝日』で「河原に行けば宝物がある」という特集が掲載されて、とても話題になったんですね。

それから石を販売するコーナーが全国のデパートにできるようになり、みんな「一攫千金」を目指して、我も我もと河原に押しかけた。創刊した当時の『愛石の友』も3、4千部あったそうです。

今でも数百万円の値段が付くことも!


——デパートに「石売り場」が設けられていたとは、なかなか想像できません…。確かに『愛石の友』創刊号の表4を見ると大丸の広告が! 東京駅の真ん前のデパートに水石コーナーがあったのか。(笑)


創刊号に掲載されていた大丸の広告。メインコピーは「水石美石菊花石化石」(写真:『婦人公論.jp』編集部)

今でも石一つに数百万円、なんて値段が付くこともあります。

石を趣味にしていた人が亡くなって、遺族の方から「この石はいくらで売れるでしょうか?」なんて問い合わせを頂くこともしばしば。

話は変わりますが、「石をなにかに見立てる」という意味では、台座が大事なんですよね。台座師さんに依頼して石を理想の角度で鑑賞できるよう、一つ一つ、オリジナルで作ってもらうんです。

ちなみに私のお気に入りが”良寛さん”と呼んでいるこの石なんですが、売り値としては台座含めて、30万円ほどになるかな…。

ほら、表情もサイズもいいでしょ?

石は重たいから、火事に遭遇したらなかなか持ち出しにくいですが、これならポケットに入れて逃げられるし。(笑)

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昭和の「石ブーム」から数十年。令和となった今もなぜ『愛石』は刊行を続けられているのか…その秘密は<後編に続く>

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