103歳、長く生きていたから分かることとは?自分をご機嫌にする「ひとり時間」の楽しみ方

2024年4月25日(木)12時30分 婦人公論.jp


(『103歳、名言だらけ。なーんちゃって 哲代おばあちゃんの長う生きてきたからわかること』より)

“人生100年時代のモデル”として中国新聞の連載が話題になった哲代おばあちゃん、103歳。広島県尾道市の山あいの町で、元気にひとり暮らしを謳歌する様子は、自分らしくご機嫌に生きるヒントがいっぱい。そんな哲代おばあちゃんが、「自分の心に言い聞かせている言葉たち」をまとめた『103歳、名言だらけ。なーんちゃって 哲代おばあちゃんの長う生きてきたからわかること』(文藝春秋)が刊行に。今回は、自分をご機嫌にする「ひとり時間」の楽しみ方についてご紹介します。

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本を出したことで、全国に知り合いができたよう


わたくし、石井哲代と申します。100歳のおばあさんでございます。え、違う? さばを読んどりました、103歳じゃそうでございます。広島県尾道市の田舎の集落で、何とかかんとか一人暮らしをしております。

昨年(2023年)、私の暮らしぶりをまとめた本を出していただいたんです。するとまあ、有名人になってしまいました。「ファンになりました」なーんてお手紙をいただいたりして。

この年で全国に知り合いができたようで、うれしゅうてね。こがあな年寄りの話、何が面白いんかよう分からんのですが、すっかり気を良くしておるんでございます。

すると今度は2冊目を出すというじゃありませんか。わおーわおー、びっくらでございます。中国新聞の記者さんが、飽きもせずにうちに通ってくださってなあ。この1年で聞き取ったことをまとめてくださるんだそうです。

思い返せばいろいろありました。

例えば去年の冬、わが家の台所にエアコンがやってきたの。運動のつもりでストーブの灯油を自分で入れては暖をとっておったんですが、「火の元が心配だから」って姪たちが取り付けてくれました。ガスレンジも電気のヒーターに取り替えたんです。

デイサービスに行ったら髪の毛が焦げとるって言われてねえ。自分じゃあそんな覚えはないんじゃけど、みんながガスもストーブも危ないって。一気に文明開化です。

できることが少ない自分を認めてあげる


おばあさんの1年は、若いみなさんの何年分かに当たるのかもしれませんなあ。

100歳のころは「自分のできることは自分で」なんて息巻いておったんですが、いよいよできることが少のうなってきました。

自分の中で起きておる変化の大きさに、さすがの哲代さんも気落ちすることがあります。のんきじゃないんでございますよ、わたくしだって本当はね。

じゃがね、自分を認めてあげるしかないんですね。

後ろ向きな気持ちを受け流したり、隠したりすることを覚えながら、らくな気持ちでおること。長う生きてきた集大成が今の自分です。しょんぼりしよったら、人生を否定したみたいになりますね。

心だけは柔らこうにして、おばあさんはいつも機嫌よう過ごしていたいです。なーんちゃって。

『103歳、名言だらけ。なーんちゃって 哲代おばあちゃんの長う生きてきたからわかること』に書いておることは偉そげに聞こえるかもしれませんが、おばあさんが自分の心に言い聞かせておる言葉たちでございます。

口だけになっちゃいけませんなあ。「くたびれるなよ、しゃんとせえよ」。あの世で夫も、そう励ましてくれとる気がします。

自分をご機嫌にする「ひとり時間」の楽しみ方


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一人きりで過ごす時間は寂しい気持ちになりがち。でも「特別な楽しみを加えるんでございます」。哲代さんはそう言って、かけがえのないひとときに変えてしまいます。そんな哲代さん流のひとり時間の楽しみ方とは?

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(1) アルバムをめくる

こう見えて私、昔はカメラが趣味でございまして。地域の子どもたちを撮った古い写真がようけあるんです。さっきも昔のアルバムを引っ張り出して見とったの。これはいつ撮ったんかな。昭和60(1985)年ですか。見てみてください。かわいいでしょう。

このころは、子どもたちが学校帰りに「喉が渇いた」ってうちに寄るから、いつも井戸水を冷やしては庭先に置いとったの。おいしそうに飲む姿を撮っては焼き増しして配っておりました。

それが私の楽しみでもあったん。自分用にアルバムに収めておいてよかったです。こうやってたまに眺めて楽しんでいます。それにしてもあのカメラ、どこへいったんじゃろうか。今は行方不明でございます。

(2) ドリルを解く

小学校の先生をしておりましたからな。子どもたちに繰り返し教えた読み書きやら計算やらは、体が覚えとるんでございます。

いつぞやに姪が買ってきてくれた算数ドリルでも、新聞の折り込みの漢字の脳トレでも、何でもいいの。ちょっと時間があればやっとります。

なんべんも力試ししたいから答えはノートに書くんです。まあ今のところ、だいたい100点でございますなあ。

へへへ。このノートも、もう書くところがなくなりそうです。

甘い物をじっくり味わう


(3) 甘い物を食べる

甘い物を食べると気分が上がりますね。今日はビッグサイズのプリンをいただきました。食べきれたかって? こんなの、ぺろりんです。

シュークリームもどら焼きも、おはぎも何でも好き。家に甘い物が何もないとちょっと心細い気がするん。みんなでわいわい食べるのもおいしいですが、一人でひっそり、じっくり味わうのもええもんです。

(4) 特等席に座る

日中はたいてい人が来てにぎやかじゃが、時に誰も来ん日があります。そんな時は縁側に座って家の前に広がる山や田畑をぼーっと眺めるのが好きです。

季節ごとに違う表情を見せてくれるから、ちっとも飽きんの。

縁側は家の中で一番心が落ち着く場所。特等席でございます。冬場でも日が差し込んで一日中ぽかぽかです。暖かいから靴下もいりませんね。

77年前、この家に嫁いできました。子どもを授からなんだからね、農家の嫁として失格じゃあという気持ちを抱えて生きてきました。子だくさんが当たり前の時代に、後継ぎがおらんのじゃもの。後ろ指を指されんようにと、教師の仕事も畑仕事も家のことも精いっぱいやりました。

あのころは、ここにのんびり座る時間などなかったなあ。外側では気を張って、内側では涙を流して。そんなわたくしの人生を、この家はよう知ってくれております。

嫁いできたころ、ここから見る山はもう少し小さかった気がします。長い年月で木々も成長したんでしょうな。こがあに長く生きさせてもろうとるのだから、私も成長せんといけんという気分になるんです。

書くと気持ちが落ち着く


(5) 詩を書く

本や新聞をよく読みますが、書くことも好きです。以前は新聞に投書したり俳句を詠んだりしていました。今でも詩はたまに書きます。書くと気持ちが落ち着きます。

先日、神戸にいる妹の桃ちゃん(桃代さん)に会ってきたの。そのときの気持ちも詩にしました。

妹は七つ下で、幼いころはよくおんぶして子守したもんです。

ずいぶん前から寝たきりで今は施設におります。目も閉じとって話をすることもできんのです。

コロナでなかなか会いに行けなかったから、うれしくて。でも、感染予防のため窓越し(実際はアクリル板越し)じゃったから、もどかしかったです。その詩も載せるんですか。わおーわおーでございます。

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「桃ちゃん」(石井哲代)

わたしの背中で大きくなった
桃ちゃん あなたは温かくて
吐息がくすぐったくて
可愛い 可愛い
たった一人の妹
あなたにふれたい
ぬくもりをたしかめたい
ねえ ねえ 目を開けて
手を握って
二人を隔てるガラス
なんと厚いことでしょう
桃ちゃん 桃ちゃん
この声届いているよね

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※本稿は、『103歳、名言だらけ。 なーんちゃって 哲代おばあちゃんの長う生きてきたからわかること』(文藝春秋)の一部を再編集したものです

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