『あさイチ』に葉っぱ切り絵アーティスト・リトさんが登場。ADHDと診断され、サラリーマンを辞めて切り絵の道に。逆境を乗り越えて

2024年4月30日(火)7時30分 婦人公論.jp


「葉っぱのアクアリウム」SNSでの反響が大きかったリトさんの作品。一枚の葉っぱを舞台につくりあげる小さな世界

4月30日の『あさイチ』「みんな!グリーンだよ」のコーナーに、《葉っぱ切り絵アーティスト》のリトさんが登場。逆境をどう乗り越えてきたかを語った『婦人公論』2022年5月号の記事を再配信します。
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小さな一枚の葉の作品が「可愛い」「癒やされる」と話題になり、国内外にファンを広げている《葉っぱ切り絵アーティスト》のリトさん。逆境をきっかけに独自の世界を切り拓いてきた〈取材・文=上田恵子 撮影(人物)=小山志麻〉

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葉っぱの上に広がる優しい物語


「今日は晴れて良かったです。やっぱり背景は青空がいいですよね」と言いながら、自身の作品を空にかざす。リトさんは、一枚の葉っぱの中に作品を描く《葉っぱ切り絵アーティスト》だ。ほぼ1日に1点のペースでツイッターやインスタグラムに上げられる作品には、クマやリス、クジラなど、さまざまな生き物が登場する。

自慢のツノを失ったサイを元気づける森の友人たち、落ち込んで涙をこぼすウサギにそっと花を差し出すハリネズミ……など、弱っている仲間に寄り添った作品も多い。作者のまなざしの優しさに、見る人は惹きつけられるのだろう。その世界観に魅了され、日本のみならず海外からもコメントが届く。昨年出版した作品集『いつでも君のそばにいる』も異例の売れ行きという。

「作品を一つアップしたら、次のテーマを考えています。本を読んだり、昔旅行した風景を思い出したり、葉っぱの形から想像をふくらませたり。この葉の上に何を表現できるかな、と想像するんです。何も浮かばないときはとりあえず紙にカエルやネズミの絵を描いてみて、そこから物語を組み立てていきます。バレンタインや卒業式など、季節ごとのイベントをテーマにすることも」

アトリエは、両親と暮らす自宅の自室。子どもの頃から使っている勉強机で黙々と作業をする。これまでにつくった作品は400点以上。早いものは1時間ほどで完成するが、なかには8時間以上かかるものもある。


「おそろいのもよう」


葉に下描きを書いて、切り取っていく。リトさんによる繊細な作業

写真撮影からタイトル付けもこだわる


「手順としてはまず紙に下絵を描き、次に葉っぱの裏にペンで下描きをします。絵の内側の細かい部分からデザインナイフで切り抜き、最後にアウトラインを切って完成。葉が乾燥する前に手早く進めなくてはいけません」

使う葉っぱは、主にサンゴジュとアイビー。秋にはモミジやイチョウで挑戦することも。薄いと写真撮影のとき風が吹いたりして折れてしまうため、試行錯誤を重ねてきた。

「僕が知らない葉っぱをファンの方が教えてくださったり。ありがたいですよね」

完成した作品は屋内や屋外で撮影。空や緑を入れて、手の角度を変えながら150枚前後撮る時もある。タイトル付けにもこだわり、作品を見て思い浮かんだ言葉を書き出しながら1〜2時間かけて決める。その作業は「俳句の言葉選びにも似ている」と言う。


「診断がついたことで気持ちが晴れたと言うか、なるほどと納得して肩の荷が下りた気がしましたね」と語るリトさんは、ADHDの強みを活かして《葉っぱ切り絵》の道へ(撮影:小山志麻)

ADHDと診断されて肩の荷が下りた


じつはリトさん、美大出身でもなければ絵を学んだ経験もない。大学卒業後は飲食業界でサラリーマンとして働いていた。転機が訪れたのは2018年のこと。ほかの人ができることがうまくできない自分に疑問を感じて検査を受けたところ、発達障害の一種であるADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断されたのだ。

「大学を出て就職し、3つめの会社に転職した頃でした。前の2社でも失敗して怒られることが多く、なぜ自分はほかの人みたいにできないんだろうとずっと悩んでいたんです。たとえば『明日の仕込みをして』と言われたらそれだけに没頭してしまい、周囲が一切見えなくなる。複数の作業を並行してできないんですね。

気になって、ネットを見ていたあるとき、ADHDのチェックリストをやってみると、ほぼ全部当てはまる。ちゃんと病院に行って検査を受けたところ、正式にADHDと診断されました」

子どもの頃から、靴ひもが結べない、計画的な勉強が苦手で授業中ぼんやりしてしまう、好きなものに過集中するなどの特性はあったものの、学校生活で困ったことはなかった。それだけに家族は、診断結果に対して半信半疑だったという。

「『障がいだなんて大げさな』と言われたときは、なんで伝わらないんだろうとガッカリしました。いま思えば、親としては受け入れられない部分もあったのだろうと思います。ただ、僕自身は診断がついたことで気持ちが晴れたと言うか、なるほどと納得して肩の荷が下りた気がしましたね」


「小さい秋、君も探しに来たの?」


「僕の過集中は、切り絵では《武器》になりますが、普通の仕事に活かすのは難しい。大事なのは自分を知り、これならできるという何かを見つけることなのだと思います」

ADHDの特性、普通の仕事で活かせずともアートなら


会社を辞め、交付された障害者手帳を手にハローワークに足を運んだが、該当する求人の検索結果はたったの3件。30歳で貯金も底をつく状況で、仕事もせず一日中家にいるのは怖くて仕方がなかった。

「まずは自分と向き合おうと、自分ができないことを紙に書き出してみたんです。人に言われたことが一度で理解できない、まわりが見えない、要領が悪い、物事を順序立てて整理できない……。反対に、できることって何だろうと考えたときに出た答えは、〈一つのことに長時間集中できる〉だけでした」

ならばその強みを活かそうと思ったリトさんは、「自宅で一人でできる仕事」を模索するようになる。発端は、プリント用紙のすみっこに描いた緻密な落書きだった。

「ふと、これを大きな紙にぎっしり描いたら面白いんじゃないかと思い、その日のうちに色鉛筆とノートを買って描いてみたんです。それをツイッターに載せたら、すごい数の《いいね》をもらって。アートで食べていけるかどうかはさておき、自分の発達障害の特性を活かして『こんなことができました』という発信ができればと思ったんです」


「蜜はタンポポの味? 銀杏の味?」


「キリンの保育園」

大事なのは自分を知ること


ところがすぐにアイデアに詰まり、粘土をこねてみたり、スクラッチアートを描いてみたりしたものの、思ったような作品はできない。「何か新しいことをやらなくては食べていけない」と焦りながら過ごしていたある日、SNSで切り絵作家の作品を目にする。

「繊細なレースのようにフワッとした、細い線の美しいものでした。自分はそこまでうまくはできないけど、集中力には自信がある。すぐに画材屋さんに行ってマットやナイフなどの道具を揃え、その夜から始めました」

切り絵はリトさんに向いていた。過集中が役に立ったことはもちろん、色を塗ったり陰影をつけたりといった絵画の基本的なテクニックが不要だったからだ。ただ、切り絵も作品によっては日数がかかり、すぐSNSにアップできない。そのうち海外のアーティストが葉っぱを使っているのを見て、葉っぱを拾ってきてやってみたところ、出来はイマイチながらも形になった。

「自分でも、これは楽しいぞ、と感じました。
最初は自分の好きなアニメキャラクターなどをテーマにしていましたが、独りよがりでは見る人の心に届かないことに気づいて。そこからは、自分だけにしかできないものをつくらなくてはと工夫しました」


「今度はお星さまをつかまえてきて!」


「いつでも君のそばにいる」

アートの道を見つけ、『徹子の部屋』出演へ


リトさんは、誰もが親しみやすい生き物を登場させたり、作品のタイトルを簡潔にしたり、極力シンプルにすることを心がけた。

「そこで生まれたのが『葉っぱのアクアリウム』という作品です。《いいね》やフォロー数増などの爆発的な反応が嬉しくて、《葉っぱ切り絵》で生きていくことを決めました」

活動を始めて2年。作品を見て喜んでくれる人がいるから、次も頑張ろうと思える。作品をSNSに公開するときは毎回不安だが、励ましのコメントや、個展に来てくれた人の「可愛い」「すごい」という言葉を聞いて初めて、夜ゆっくり眠れるのだそうだ。

「僕の過集中は、切り絵では《武器》になりますが、普通の仕事に活かすのは難しい。大事なのは自分を知り、これならできるという何かを見つけることなのだと思います」

自分の居場所を見つけることができたリトさん。最後に、現在の活躍をご家族はどう見ているのかうかがうと——。

「親が一番喜んだのは、『徹子の部屋』に出演したことです。特に母は徹子さんの大ファンでしたので、『本当にすごい!』と大騒ぎでした。ちょっとは親孝行ができたのかな(笑)」

一枚の葉っぱを舞台に、リトさんがつくりあげる小さな世界。どんな素敵な物語が生まれるのか、これからの展開が楽しみだ。

婦人公論.jp

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