「何もしない贅沢」ストレスから解放される湯治旅の魅力。1200年の歴史をもつ肘折温泉、山形の新鮮な食材を楽しめる期間限定の朝市も

2024年5月12日(日)12時30分 婦人公論.jp


(写真撮影◎筆者 以下すべて)

看護師として働く傍ら、月1で国内外の温泉旅行に行き、100湯以上の温泉に入浴してきた和田愛理さん。看護師×温泉ソムリエの視点で、心も体も元気になるおすすめの温泉をご紹介。今回は山形県にある肘折温泉について。1200年以上の歴史を持つ泉質と温泉街の魅力とは——

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開湯から1200年の歴史を持つ最高の自噴温泉を楽しむ


東京駅から山形新幹線で3時間半、終着の新庄駅からバスで1時間弱。山あいの温泉街、肘折温泉が見えてくる。

秘湯ともいえるこのロケーション。温泉街を歩いていても、聞こえるのは川のせせらぎくらい。ここは都会の喧騒から切り離された、ザ・古き良き温泉街だ。肘折温泉は湯治場として、田植えや畑仕事がひと段落した時期の農家の休息の場として栄えてきた。現在もその「湯治場風情」を色濃く残しており、湯治としての長期滞在はもちろん、一泊や日帰りの短期間でも、その魅力を充分に楽しめる。

湯治場だったことから、温泉そのものの療養効果も非常に高い。肘折温泉の泉質はナトリウム—塩化物・炭酸水素塩泉で、切り傷や末梢循環障害、冷え性、胃腸病など、幅広い適応症がある。ここにきたら一度は入ってみてほしい温泉が、肘折温泉のシンボル、共同浴場「上の湯」だ。薄く緑がかった透明感のあるお湯が浴槽から絶え間なく溢れ続けている、贅沢な源泉掛け流し。塩化ナトリウムが多く含まれ、温まりやすいのが特徴。また、炭酸水素イオンの影響で、肌のツルツル感もしっかり感じられ、湯上がりも比較的さっぱりしている。シャワーなどはないため、備え付けの洗面器で掛け湯をして入るスタイルの、ローカル感あふれる浴場だ。


浴場によって引いている源泉の種類やブレンドの割合が異なるため、温度や肌触り、色や透明感などが大きく違ってくる

また、各旅館でも日帰り入浴を受け付けている場所があるので、是非立ち寄ってみてほしい。浴場によって引いている源泉の種類やブレンドの割合が異なるため、温度や肌触り、色や透明感などが大きく違ってくる。こうした湯めぐりを楽しめるのもここ肘折温泉の大きな魅力の一つだ。

初めて来てもなぜか懐かしい、肘折温泉朝市


肘折温泉の名物といえば、早朝5時から始まる朝市が欠かせない。4月20日から11月の毎日、温泉街の旅館の軒先に、地元の朝市組合のお母さん方が簡易的な店を広げる。


肘折温泉の名物、早朝5時から始まる朝市

旬の野菜や山菜、果物、キノコをはじめ、手作りのお惣菜やお漬物など、素朴な商品が所狭しと並ぶ。そこを湯治客は浴衣姿でぶらぶらと歩いて見て回るのだ。季節によって商品のラインナップが大きく異なるため、いつ訪れても新鮮な気持ちでお店を見て回ることができる。

何だかわからない商品が並んでいたら、お母さんに聞いてみるのがおすすめ。「これはこうやって食べると美味しいよ」と調理法を教えてくれる。「これはおまけね」とこっそり果物を忍ばせてくれたりもする。こうしたコミュニケーションこそが朝市の魅力だろう。ほっかむり姿のお母さん方が「ありがとうね」と商品を渡してくれるときには、ここは自分の故郷かと錯覚するかのような懐かしさを感じること請け合いだ。

朝市が終わった後も、商店でお買い物を続けたり、足湯を楽しんだり、お散歩をしたり。朝市を理由に湯治客は皆早起きができるので、「朝活」のきっかけにもなる。早起きは三文の得、ここ肘折温泉ではゆったり流れる時間を朝から存分に楽しむことができる。

ここでしか食べられない肘折グルメで腹ごしらえ


旅行に来たからには美味しいものが食べたい!そんな欲望も肘折温泉ではしっかり叶えてくれる。ここに来たら是非食べておきたいのが、そば処 寿屋さんのお蕎麦。

実は山形県は、豊かな水と気候から蕎麦の栽培が盛んで、そば王国としても知られており、その消費量は長野県に次ぐ全国2位を誇る。

遅い時間に行くと売り切れになってしまうこともある人気メニュー、「天ざるそば(1580円)」は絶品。ここ寿屋さんで出てくるお蕎麦にはわさびが付いてこないのも大きな特徴。その代わりに、肘折では一味をかけて食べるのだ。若女将さんが説明してくれた通りに一味をパラパラっと少しかけていただくと、鼻から抜ける蕎麦の香りとぴりりと辛い一味のマリアージュがなんともたまらない。クセになりそうなお味だ。天ぷらもサクサク、季節や日によって地元の山菜なども入っているから友人どうしで行っても盛り上がること間違いなし。

他にも、「肘折のお豆腐屋さんのお豆腐」や、焼き油揚げに、葱と一味・醤油をかけて食べる「ざぶとん」なども注文できる。地元の人は、日本酒を嗜み、その後にお蕎麦を食べたりもしていた。人によって楽しみ方は無限大だ。そして、お店の窓辺からは自然の雄大さを感じる銅山川が一望できるのも魅力の一つ。お蕎麦を味わいながら川を見てぼーっとするも良し。

ここ、そば処寿屋さんでは、美味しいものと綺麗な景色に心癒される、ゆったりとした時間を過ごすことができる。

日頃の疲れに一杯、人と人の心と盃が触れ合う場所


お腹を満たしてのんびり、お風呂に浸かったりしたあとは、少し歩いてお酒を嗜むのも良い。旧肘折郵便局の向かい、バス停近くの商店、カネヤマ商店さんの角打ちでは、お風呂上がりの一杯を楽しむことができる。


カネヤマ商店さんの角打ち

日本酒の3種類飲み比べは700円とリーズナブル。地酒を各種取り揃えており、その季節やお客さんの好みに合わせたお酒をチョイスしてくれる。季節や日によって異なる、豆皿サイズのおつまみも楽しめるのがありがたい。どれも地元の素材を使ったものばかりで美味しく、お酒がすすむ。筆者おすすめは、さばね屋さんの筋子の酒粕漬け(350円)。商店の一角を利用しているため、お客さん同士の距離も近い。地元の方や常連の方など様々な人が利用している。そのため、一緒にお酒を酌み交わせば、地元の面白い話が聞けたり、気の合うお隣さんと話が弾んだりと、一期一会を楽しむことのできる場だ。ただし、お風呂上がりはお酒も回りやすいため、飲み過ぎにはご注意を。

温泉は「地球の羊水」と形容されることもあるほど、人々を癒す力を持つ場所だ。雄大な自然と最高の掛け流し温泉、美味しいものに人の縁。ここ肘折温泉にはそんな癒しの条件がひととおり揃っている。ひとりでも、友人とでも、夫婦でも。静寂に身を任せ、日頃のストレスから解放される自分だけの「湯治旅」をゆったり楽しんでみてはいかがだろう。

婦人公論.jp

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