樋口恵子×坂東眞理子 世界に先駆けて超長寿社会になった日本。「私たち全員が老いの初心者。だから気づいたことを言い続けないと」

2024年5月23日(木)6時30分 婦人公論.jp


(写真提供:Photo AC)

総務省が公表した資料「統計からみた我が国の高齢者」によると、総人口に占める65歳以上の割合が過去最高の29.1%と推計されるそう。そこで今回は、「人生100年時代」を楽しく生き抜くための知恵が詰まった書籍『人生100年時代を豊かに生きる ヨタヘロしても七転び八起き』より、評論家の樋口恵子さんと昭和女子大学総長の坂東眞理子さんの対談をお送りします。

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女性はいつも働いてきた


樋口 私、坂東さんのご著書を拝読して共感するところがいっぱいあるのですが、なかでも坂東さんが終始一貫提案し続けているテーマに常々感心しております。そのテーマとは「働け!」であります。

坂東 ありがとうございます(笑)。

あらためて「働け!」と言われるまでもなく、女性はいつも働いてきました。家事の仕事、子育ての仕事、介護の仕事。

ただ、昔の女性は、こうした重要な仕事をしているにもかかわらず、自分の名前で報酬を得ることができませんでした。そうした歴史が、私たち女性が社会と切り離されてきた要因だと思います。

今は、女性もようやく社会のなかで仕事をして報酬を得るのが当たり前の世の中になりつつあり、これはうれしいことです。

何歳になっても働ける


坂東 ただ、同じ女性でも高齢になると、再び社会から追いやられてしまう。これが現代の問題です。年を取っても、これまでの仕事のキャリア、家事のスキルなどを生かせば、やれることはまだまだあるはずです。高齢者が高齢者を支え勇気づけるような仕事もあるでしょう。

チャップリンは自身の映画『ライムライト』のなかで、人生に必要なことは「愛と希望とサムマネー」と言いました。


『人生100年時代を豊かに生きる ヨタヘロしても七転び八起き』(著:樋口恵子・坂東眞理子/ビジネス社)

小さなことでも世の中に役立つ仕事をして、サムマネー、いくらかのお金をいただくのが、人としての誇りや喜びにつながります。

女性がそうした道をたどってきたように、これからは、高齢者が働くことが当たり前の社会になるのが理想です。

及ばずながら、私もそのお手伝いができたらいいなと考えています。

私たち全員が「老いの初心者」


坂東 世田谷区の男女共同参画推進事業のお力も借りて、保育園やアフタースクールを通じて働くお母さんたちや子どもたちへの支援に力を入れてきました。高齢社会に向けての活動は、まだまだこれからです。

樋口 坂東さんも私も、お手本が少ない時代にあって、女性の地位向上のために活動してきたじゃない? でもそんななかでも、先頭を走る先輩たちもいらっしゃいました。お名前をあげればキリがありませんが、私にとって秋山ちえ子先生や吉沢久子先生が、その代表でした。

本当にいろいろなアドバイスをくださいました。たとえば秋山先生は、まだ血気盛んだった私が「男女別姓がいつまでたっても認められないのはけしからん」とか「これだから日本は世界に比べて遅れをとるのだ」なんて、わぁわぁまくしたてるでしょう。そうすると、いつも慰めてくださるんです。

「樋口さん、そりゃ日本はひどいと思うわよ。だけど、50年単位で考えましょうよ。今すぐは無理でも、未来は必ず変わるから」と。ただ、変わるためには、誰かが「ここがおかしい」と声を上げ続けなきゃいけない。「だから、言い続けてくださいね」とおっしゃってくださいました。

老いの問題も同じじゃないでしょうか。日本は、世界に先駆けて超長寿社会という未知の世界に足を踏み入れたばかり。私たち全員が老いの初心者です。だから、今気づいたこと、「こうしたほうがいいよ」ということを、私たちがどんどん言い続けていかなきゃね。

一人ひとりの生き方が世の中を変える!


坂東 大いに賛成です。女性の問題では「世の中、なかなか変わらないな」と無力感をおぼえたこともありました。でも、ふと気づくと、女性を取り巻く環境は、この5年、10年で確かに変化しているんですね。

私たち一人ひとりが、これからどういう考え方をするか、どんな生き方をするか。その積み重ねが、時代を変えるパワーになるのだと思います。

「高齢者でもこんなことができるんだ」「こんな仕事があったんだ」という事例をどんどんつくっていきたいですね。「もう年だし」なんて自分を過小評価せず、ぜひ一歩踏み出しましょう。

樋口 その通り! 秋山先生は「50年もたてば、女性の生き方も変わる」とおっしゃっていたけれど、50年後の高齢者の生き方ってどうなっているでしょう。その頃この世にいられないのが残念ね(笑)。

※本稿は、『人生100年時代を豊かに生きる ヨタヘロしても七転び八起き』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。

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