人は偉くなるほど仕事ができなくなり、組織が肥大化すれば無能化するのは必然だった…あなたの身を滅ぼしかねない「SSK」とは

2024年5月23日(木)12時30分 婦人公論.jp


(写真提供:Photo AC)

最近のアメリカではテクノロジー業界を中心に大規模な人員削減が起こり、リストラは今も続いていると言われます。そのようななか「会社に身を任せて生きていくのは危険。必要なのは、自分が勝てそうな<場所取り>をすること」と話すのは、リクルート社の初代フェローを経て教育改革実践家として活躍する藤原和博さん。今回は、藤原さんの新刊『どう生きる?——人生戦略としての「場所取り」の教科書』より「昇進によって増えていく<SSK比率>」について紹介します。

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40歳でリクルートを退社後「フェロー制度」第1号に


社内でのポジションには注意を払いましょう。

昇進を手放しで喜ぶような“おめでたい人”になってはいけません。昇進した結果、エネルギーが大きくなる人はいいですが、なかにはエネルギーを奪われる人もいるからです。

私は40歳でリクルートを退社し、インディペンデントの新規事業の立ち上げ屋として、リクルートではじめて、会社と対等のプロフェッショナル・パートナー契約を結びました。「フェロー制度」です。

当時、私は部長職にあり、3人の子供(6歳、2歳、0歳)を抱えていました。そのような状態で“一匹狼(いっぴきおおかみ)”になるのは珍しかったようで、マスコミからたびたび取材を受けました。何度も聞かれたのは、「どうしてそんなリスクを冒(おか)すのか」です。

会社という組織のなかでは、現場を離れて課長、部長、局長と昇進すると、定年までに大きなリスクを背負い込むだろう、と私は考えていました。

部下を預かり大きな部隊を率(ひき)いるほど、したい仕事を自分でできなくなります。できるだけ部下に任せて、その育成を図(はか)るのが、管理職の仕事だからです。

SSKで身を滅ぼしてはいけない


こうして、自分の時間の6〜7割は次の3つに費やされることになる。

(1)接待や部下との同行営業、これには社内接待の時間も含まれる

(2)部下の査定や人事、これには部下との飲み会の時間も含まれる

(3)会議とその根回し、これには関連部署との社内調整の時間も含まれる

私はこれを称して、「接待(Settai)」「査定(Satei)」「会議(Kaigi)」の頭文字を取って「SSK比率」と呼んでいました。

実際、役員のスケジュール表を見れば一目瞭然です。「SSK比率」が9割に達する人もいるのです。

会議に出れば出るほど、自分本来の仕事をする時間が奪われます。仕事ができる人ほど偉くなり、偉くなるほど仕事をする時間が減る。これが昇進のジレンマです。

会議の進め方はうまくなっても、どんどん仕事のできない人になる。そして、自分が偉いという幻想に酔っているうちに、現実が襲ってきます。

外の社会で通用しなくなっていることに気づかされるのです。

だから、可能な限り、SSKに費やす時間を極小にしましょう。

40歳で部長職を擲(なげう)つのと、自分本来の仕事ができずに無能化するのと、どちらがリスクが高いか。

私は、後者だと考えたわけです。私には、多くの会社員はリスク(組織に潜<ひそ>むリスク、エネルギーを奪われるリスク)を先送りしているだけに見えました。

あらゆる組織は無能化する


「いや自分はそんなことにはならない。部下を率いながら、自分の仕事ができる」と考える人もいるかもしれません。

しかし、どんな組織にも否応(いやおう)なく、そのリスクは潜んでいます。


(写真提供:Photo AC)

それを教えてくれるのが「パーキンソンの法則」です。

これは「公務員の数は仕事の量に関係なく一定の割合で増加する」が本来の意味でしたが、今や「あらゆる組織は肥大化する傾向にある」という一般的な基本原則として認識されています。

昇進した人が優秀であればあるほど、自分の仕事の領分を広げるために人を雇って仕事を増やし、組織は大きくなります。

いっぽう、能力の高くない部長・課長は組織効率を上げることができないため、部下を必要とする。

つまり、どちらにしても組織は放っておけば無意味に拡大していく傾向にあるのです。

ピーターの法則


組織にはもう1つ、「ピーターの法則」があります。

すなわち「時が経つにしたがって、階層社会のすべてのポストは、その責任をまっとうしえない従業員によって占められるようになる傾向がある」。

たとえば、営業で優秀な担当者は主任になり、優秀な主任は係長に昇進しますが、昇進したとたん、ダメになる人がいます。

人柄がいいから売れていた人、現場だからこそ活(い)きた技術・能力が昇進したことで使えなくなった人などです。

また、マネジメントやリーダーシップという余計な負担に耐えきれず、管理能力のなさを曝(さら)け出す人もいます。

なんとか課長を切り抜けた人も、総括課長、次長、部長、取締役、常務、専務、副社長と、その能力が発揮できなくなるまで昇進が続いていきます。

こうして、各層のポストを占めるのは、「そこで自分の限界に達してしまった人たち」だらけになるのです。

この法則は、階層組織が「昇進」を原動力に従業員の動機づけを行う限り、すべての組織に当てはまります。

つまり、あらゆる組織は肥大化し、無能化するのです。

へたをすると、個人の本来の能力は発揮されずに埋没し、組織は沈滞していきます。

※本稿は、『どう生きる?——人生戦略としての「場所取り」の教科書』(祥伝社)の一部を再編集したものです。

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